第689話 クリフ兄ちゃんがメイド丸を作る
すいすいと午前の授業三コマを消化して武術の時間だ。
なんかバッテン先生が精悍な感じになってきたな。
戦う女という感じだ。
かっこいい。
今日から試合形式の乱取りが始まった。
試合場に上がってカンカンやるのだな。
相手のマッチングはバッテン先生が組んでくれる。
力量の差がない感じにしてくれているみたい。
私の番になり、相手のご令嬢とカンカン戦う。
鉄扇の人だったけど、なかなか上手い。
私は双剣でくるりくるりと回りながら戦う。
片方は小太刀なので蓬莱流の円の動きだね。
鉄扇は開いて受け、たたんで打撃する。
この人は両手に鉄扇を使ってパッと開いたりたたんだりして見た目も綺麗ね。
楽しい楽しい。
「それまで、引き分けだな」
「「ありがとうございましたっ」」
お互いに礼。
いやあ楽しかった。
「キンボールも上手くなってきたな」
「ありがとうございます」
わーい、先生に褒められた。
更衣室で着替えて教室に戻る。
終業の鐘と共にカーチス兄ちゃんたちがやってくる。
「今日はどこにいく?」
「そうね、昨日は皇子に奢って貰ったし、今日はひよこ堂でどう?」
「天気も良いし、行くか」
「なんだかひよこ堂も久々な感じがするよ」
「そうですな、王子」
また王家主従もついてくるのか。
まあ、良いけどね。
「いやあ、ディーマー皇子を見ていると学友って大事だなって思ってね」
「そうですな、同年代の友達が居ないのは寂しいものです」
「なんだか学校で陰謀が渦巻くので息が詰まるって、グレーテ王女が言ってたね」
「うちの学校は平和でいいな」
ビビアンさまも最近は大人しいしね。
このまま平和に卒業まで行けないものかね?
みなでぞろぞろと廊下を歩き、階段で二年生を拾い、玄関でゆりゆり先輩を拾った。
あれ、今日はブリス先輩もいるね。
「ユリーシャさまに誘われました。聖女派閥員はお昼を一緒にするのが慣例と」
「慣例というんじゃないけど、なんかみんなで外食したり、パンを食べたりしてるわね」
「学生のうちは宴会もできませんから良いですね」
ああ、宴会は派閥の結束を固めるためのものでもあるのか。
大人達が宴会したがるわけだよ。
「今日はみんなでひよこ堂でパンを買って、自然公園で食べるわよ」
「ご実家のパンですか、一度食べてみたかったのですよ」
ブリス先輩は如才ないね。
皆で歩いてひよこ堂へ行く。
今日も大繁盛で列がすごい。
クリフ兄ちゃんが外でお客さんをさばいていた。
「おお、マコト、メイド丸できたぞ」
「ほんと?」
「まってろ試供品を包んでやる」
クリフ兄ちゃんが私に亜麻布袋を渡してきた。
開いて見ると、緑色のメイド丸が。
「おーーっ」
「食べて見てくれ」
「ダルシー」
ダルシーがいきなり現れたのでクリフ兄ちゃんがびっくりした。
「一緒に味を見ようよ」
「はい、ありがとうございます、クリフお兄さま」
「いやあ」
ダルシーにお礼を言われて、兄ちゃんが照れおった。
どれどれ。
パクリ、カリカリ。
……。
「そば粉使った?」
「おうよっ!」
「美味しいですっ、ほんのり甘くて」
……。
私はこのお菓子を知っている。
《そばぼおろ》やっ!!
なんか懐かしの味で日本茶が欲しくなるね。
ポリポリ。
「美味しいね。面白い味」
「わたしにもちょうだい、マコト」
カロルが手を出してきたので、そばぼうろを一つ渡した。
カロルがポリポリと食べる。
「あ、これは美味しいですね」
「そうですかー、うれしいです」
「メイド丸ってなんだ、マコト?」
「メイドさんの携帯食ね」
「ああ、なるほど、一つくれ」
コリンナちゃんに、そばぼおろを渡すと彼女はかりかりとリスのように食べた。
「あ、この味好きかも、ガレットっぽい」
「食感がいいわよね」
われもわれもと派閥員が手を出してくるので配った。
パンの列待ちで時ならぬ試食会だね。
「これはとてもおいしいですね、あとはおねだんですね」
「お蕎麦の味がして良いですね」
メイドさんたちにも、わりと好評のようだ。
あとでクララにもあげよう。
「また、そば粉を持って来てくれ」
「ああ、いいよ、荷馬車に一杯ぐらい貰ったから大神殿に持っていった。リンダさんに言えば分けてくれるよ、たぶん」
お料理に使うと言っても荷馬車一杯のそば粉はなかなか減らないだろうし。
日本そばとか作らないとなかなかね。
「そうか、行ってみる。名前は聖女丸でいいか?」
「だめだ、これは ”そばぼうろ” だ」
「ソバボウロ。不思議な語感だな、どういう意味だ?」
「ソバで作ったボールという意味だぞ」
「ソバボールか、うん、良いな」
メイド丸も、アップルトンの言語では、【小娘の球】であるからな。
「ふむ、不思議な味わいだね、お茶に合いそうだ」
「そうですな、ソバクッキーという所でしょうか、王子」
気がつくとケビン王子もソバボウロをポリポリ食べていた。
ああもう、一国の王子が食べるようなもんじゃないよ。
試食会をやっていたら列が進んで店内に入れた。
さて、今日は何を食べようかな。
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