第672話 ストライト隊は中庭で大いに吠える
さて、楽しい楽しい放課後である。
カロルは錬金作業に行ってしまったので、私とコリンナちゃんは集会室でお勉強会である。
ジャンヌお義姉様も来ていてお洒落組を見ているな。
というか、先生の方が多い。
「カーチスの勉強はいいのだろうか」
「閣下は勉強をしなくてはいけない」
だよなあ。
「ダルシー呼んで来て」
「かしこまりました」
ダルシーが現れて集会室から出て行った。
テストが近いのだから剣術部はお休みするのだ。
ほどなくしてダルシーが戻って来た。
「明日から、やる、だそうです」
「だーっ!」
そう言った奴できちんと明日からやった奴を見た事無い。
私は立ち上がった。
「呼びに行く?」
「呼んで来る」
剣術部は武道場だな。
私は集会室を出て武道場に向かった。
で、中庭で生徒が集まっていた。
なんぞ?
木箱の上でジェルマンが朗々と演説をしていた。
「われわれストライト隊は必ず王都に潜伏する邪竜を見つけ出し、退治する事をここに宣言するっ!!」
「おおー、良いぞーっ!!」
「頑張れストライト隊っ!!」
「だが、我々は三人しかいない、強大な竜に立ち向かうには少し戦力不足だ。そこでだ諸君、我もと思う者は名乗り出てほしいっ、一緒に竜を退治して在学中にドラゴンスレイヤーの称号を共に得ようではないかっ!!」
シーン。
誰も出て行かない。
それはそうだな。
レッサードラゴンでもプラチナ冒険者のパーティが要るのだ。
邪竜クラスとなると、それこそカロルのオヤジさんのミスリルパーティが必要であるのだ。
高等生のシルバーパーティでは死にに行くようなもんよね。
二年の女子生徒が前に出た。
「おお、女性も歓迎……」
「ちょっとあんたっ、あの可愛いアダベルちゃんを討伐しようというのっ?!」
「え? アダベル? 俺らが狙っているのは邪竜アダベルトだけど。アダベルってアレだろ、最近、学園の中庭とかでうろうろしてる小さい子だろ?」
「そうよ、最近は大神殿でお友達が出来たから、あまり中庭に来てくれないのよっ、アダベルファンクラブの子はみんな寂しがってるのっ」
なんとアダベルファンの人であったか。
「アダベルちゃんは竜人だし、名前も似てるから討伐隊とか出来たら悲しむわ、あの子は心が優しいから」
うむ、ファンのお姉さん、あなたは色々と勘違いをしていると思われる。
アダベルは良い奴だが、そんなに心優しくは無いかな。
「だ、大丈夫! アダベルちゃんならば、王都に巣くう邪竜を退治したら喜んでくれるともっ、絶対だっ」
「そうかしら」
「そうなのだっ!! さあ、誰か、我々と一緒に栄光を掴む勇者は居ないかっ!! ドラゴンスレイヤーの称号があれば士官の口には困らないぞっ!!」
みな、あほくさくなったのか、ぞろぞろと帰り始めた。
「ワイバーンぐらいを倒した実績を付けてから呼びかけなさいよね」
アダベルファンクラブのお姉さんに吐き捨てるように言われてジェルマンはがっくりと木箱の上に膝を付けた。
アホだな。
どう見ても助っ人頼りで宣言してるとしか思われないぞ。
私も、そうとしか思わないぞ。
「おおっ、聖女候補、あんたが入ってくれるとありがたいっ、あんたは政敵だが治癒能力は凄いからなっ」
「入るわけないじゃんよ」
「そうか~~~」
アダベルを討伐するパーティになんで入らないといけないのだ。
「誰かの戦力をあてにして大口叩くのはみっともないよ」
「俺らのパーティ、魔法使いいないからさあ、クレイトンさんは入ってくれないかな?」
「聖女派閥の人間はたぶん絶対入らないよ」
「平和愛好家だからかっ!」
「うんにゃ、事情は言えないが、そのうち解るよ。あんたらも馬鹿な事をしてないで実績を作りなさいよ」
「くそー、ホルボスダンジョンで飛空艇を掘り当てた奴は言うことが違うなっ」
掘り当てたんじゃなくて、ビアンカさまに巧妙に誘導されただけだよ。
「おい、小僧ども」
おろ、厳つい兄さんたちが現れた。
ネクタイの色を見ると三年生だな。
ガタイが大きくて大人っぽい。
野性的なイケメンだ。
「俺らも邪竜アダベルトを討伐するつもりなんだが、お前達も混ぜてやっても良いぜ」
「え、良いんですか」
「二年生のシルバーの小僧の癖に大口を叩く奴は嫌いじゃねえ。俺たちストライクハンマー隊はゴールド平均だぜっ」
ゴールド平均なあ。
しかし、ガラが悪そうな先輩たちだ。
「なんだよ、聖女候補さんよ、ドラゴンに勝てるか? てえ顔だな」
「ゴールドだと邪竜はキツイんじゃない?」
リーダーの短髪黒髪ゴリマッチョはふふんと笑った。
「リーダーの俺はプラチナだ。そして、この前のダンジョン遠征で魔剣を手に入れた。見ろ無銘だが《ヘイスト》と《切断+》が付いた業物よっ」
「わあすごい(棒)」
なんか回りに魔剣聖剣があふれているので、それくらいだとなんとも思わないなあ。
いかんいかん。
ちなみに《ヘイスト》はエルザさんが持ってるリジンと同じように思えるが、もっと性能は低い。
リジンのは《超加速》ぐらいのスキルだ。
《切断+》もリンダさんのダンバルガムに比べると、良く切れる程度よね。
「俺の名前はティフォン。ディラン子爵家のティフォンだ。覚えておきな、俺は将来ミスリル冒険者になる漢よ」
ティフォンくんはニヤリと漢臭く笑った。
まあ、頑張れ。
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