第664話 アダベルは組の豪邸をぺっちゃんこにする
GAOOOOOON!!
あーあ。
空をつんざくような咆吼とドガシャーンという建物が倒壊するような音が聞こえた。
馬車の窓から下町の方を見ると建物の向こうに邪竜モードのアダベルの頭がにょっきりと顔を出していた。
「ひいいいいいっ!!」
「間に合わなかったか。関係の無いお宅まで壊してなければ良いけど」
「あ、あれがアダベルさん……」
表情から見るに、アダベルさんは大変ご立腹のようだ。
馬車が止まってしまった。
が、すぐ近所まで来てるな。
私は馬車から飛び降りてアダベルの前に駈け寄った。
「アダベル!! なにしてんのっ!!」
『おお、マコト!! こやつらは私を殺してお前の前に晒すとぬかしよるから、先に倒す事にした』
大邸宅があったのであろう瓦礫の上で邪竜さんが辺りを睥睨しておった。
「いいから戻りなさいっ」
『こちらが本体なのだが……』
ポンと煙が上がって、人化したアダベルが地上に着地した。
「酷いんだよ、こいつらっ、孤児院の子供もなぶり殺しにしてマコトの前に晒すって。あと、約束したケーキも出してくれないし」
あー、ケーキで釣られてこんな所まで付いてきたのか。
食いしん坊ドラゴンめ。
「知らない人から何かあげるって言われても付いて行っちゃいけません」
「だってー、凄く美味しいケーキだって」
「そんな事より、ヤクザの人を助け出さないと」
これは、何人か死んでるだろうなあ。
と、思ってサーチ。
カアアアアアン。
お、おおっ、ヤクザの人は生命力強いな。
重傷者は埋まっているが、死人はいないようだ。
よかったよかった。
とにかく、手近な所に埋まってるヤクザを引っ張り出して治療する。
「大丈夫か?」
「ドラゴンが、幼女がドラゴンにっ!! ああああっ」
「うるさい、仲間を掘り出すのを手伝え」
「は、はい……」
白馬に乗って颯爽とリンダさんがやってきた。
そして聖騎士団が一連隊来た。
「お手伝いいたしましょう、マコトさま」
「わあ、嗅ぎつけてきた」
「青いドラゴンが下町で暴れていると聞き、ピンときました」
「まあ、いいや、ヤクザを掘り出すの手伝って」
「はい、生き残った奴にとどめを刺すのですね」
「ちがいます、救助です」
本当にもう、宵闇だってのに時ならぬ救助劇だよ。
光球を宙に打ち出して、アダベルとか、リンダさんとか、聖騎士とか、ヤクザを働かせる。
「ああ、聖女さん、お世話さまです」
瓦礫の中からロイクが出てきた。
埃まみれで足がぽっきり折れていた。
「なんだよお前、足を洗うって言ったそばから誘拐か」
「ちがいますちがいます。私はアダベルさんを助けようと」
「ん、おっちゃんは偉そうな奴に文句言って私を逃がそうとしてくれたよ」
「組長には、あれだけ、聖女さま関係に手を出すなって言いましたのに」
そう言ってロイクは泣いた。
そうかそうか。
「まあ、泣くなよ、これで自然とヤクザはやめになるから良いじゃん」
私はロイクの折れた足を治した。
「あ、ありがとうございます。死んだ組員は?」
「今の所感知してないよ」
最後に組長を掘り出した。
体がボキボキになっていたが生きていた。
ヤクザは生命力が強いなあ。
とはいえ、死にかけなので、エクストラヒールを掛ける。
「ド、ドラゴンが、ドラゴンがあ、おひょひょひょっ」
すっかり頭のタガが外れているようだ。
「ほら、しっかりしろ」
頭にハイヒールを掛けた。
精神ショックに効くかな? と思ったが効いた。
「はーはー、何がどうなって……、あーー俺の家がああっ!! 新築なのにーー!!」
ぷぷぷ、王都で旗揚げしようって新築したんだろうなあ。
アダベルに踏み潰されたか。
「で、何か私に話があるんだって? 組長」
「あ、あんたが……、聖女候補……。い、硫黄の利権がその……」
リンダさんが近づいてきて、聖女様に文句を抜かしたら解ってるだろうな、というオーラをまとって威圧していた。
「硫黄の利権で儲けたお金は申し訳無いから返します、かな?」
「え、ええっ、そ、そんなっ、家も壊れて、財産もですかっ?」
「そうです。教会に情けなんか無いのです。全部かっぱいで行くよ」
「貴様は聖女さまをこの夜更けにご足労ねがわせておいて、しかも重傷の治療をしてもらって、何か文句があるのか」
「あ、ありません……」
埃だらけの組長もぺちゃんこに脱力した。
「私のケーキは?」
「きょ、今日は勘弁してください……。明日、お送りします……」
「私は孤児院にいる事が多いから、そこに持って来て、みんなで食べるよ」
ヤクザ者からケーキをカツアゲしなくても。
とは思うのだが、アダベル的には大事な事なんだろうなあ。
「おい、ロイクとやら、お前は聖女さまのホルボス山の地獄谷で雑貨屋をやりたいそうだな」
「は、はい、リンダ師、その通りでございます」
「よし、聖女さまの領地の人間になるなら、我々の身内だ、大神殿に来い、教会所属の商店として開業させてやろう」
「は、はは~~、ありがとうございますっ」
ロイクは地面に額を付けて土下座した。
わはは、これでおっちゃんも逃げられなくなった。
アコギな商売も教会がバックに付いてるとできないねえ。
これはいいな。
「それから組長、お前は全財産をすべて聖女さまに寄進して王都から出ていけ。聖女さまのお身内をさらうようなヤクザ組織は教会の敵だ。存在自体許しがたい」
「ひいいいい、そんな殺生なあ」
相変わらずリンダさん無双であるな。
「とりあえず、アダベル、ソフィさん、帰ろう」
「そうだな、ガクエンチョ心配しているかも」
「なんだか凄い物を見ました……」
ちょうど送って来たヤクザの馬車が来た。
「おい、ヤクザ、学園まで送って」
「く、組はどうなったんですかい?」
「つぶれた、組員は全員無事だが、明日から求職活動だな」
「そ、そんな、せっかくヒルムガルドから移転してきたのに……」
「自業自得だね。子供をさらうような組織はこうなります」
ヤクザ馬車に乗り込んで、学園に向かう。
お腹が空いた。
晩餐時間終了ギリギリだよ。
まったくもう。
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