第662話 フレデリク商会長とヤクザのロイクも下ろす。
三等船室からフレデリク商会長とロイクが出てきた。
商会長はしょんぼりと私に頭を下げた。
「今日はありがとうございました。いかに自分が何も知らなかったか思い知りました」
「それで、補償はしてくれるの?」
「はい、最善を尽くさせていただきます。早速道路工事の方を始めさせていただきます」
「住居の方は計画が出来てからお願いしますね。これからの行動で、サーリネン商会を地獄谷から追放するかしないかを決めますから」
「解りました、ホルボス山の硫黄はわが商会の大事なブランドです。商標に恥じないように頑張らせていただきます」
反省している感じだね。
あとは仕事ぶりを見て判断しよう。
「聖女さんよう」
「なんだよ、ロイク」
「あの集落に雑貨屋とか要るよな」
「まあ、商店があると便利だな」
「俺がやる、って言ったら許可してくれるかい?」
おや、どういう風の吹き回しだろうか。
「ヤクザやめんの?」
「村で孤児院のがきんちょがわいわいしてるのを見てなあ。硫黄掘りで死んだ子の顔を思いだしたんだよ。大人って駄目だよなあ。あの時あんなに悲しかったのに、すっかり忘れてたんだよ」
「それで罪滅ぼしか?」
「罪滅ぼしにもなんねえけどさ、やっぱな、教会に追っかけ回されるのもキツイしよう。俺だったら安いもん仕入れて、馬車で集落行って、雑貨屋をやれば、喰うぐらいには儲かるだろうしさ」
「適正な値段でやるなら良いよ、やんなさい」
「安い物を仕入れて、普通の値段で売るなら良いだろ」
「まあ、そうね。かまわないわよ」
雑貨屋は必要だしね。
ロイクはなんだか憑きものが落ちたようなさっぱりとした顔をしていた。
ヤクザも色々と思う所があったのかね。
おっちゃん二人を船から下ろしてハッチを閉めた。
メイン操縦室に戻る。
「ヤーさんなんだって?」
「地獄谷で雑貨屋をやりたいって」
「ははは、硫黄掘り登山で改心したのか」
「雑貨屋はいるから一応許可はしといた、様子を見て駄目だったら追っ払おう」
「そうだな」
「マコトのまわりには人生を変える人が沢山集まるわね」
「なんでかねえ」
「それが……、聖女だ……」
うへえ、やめろよエルマー。
艇長席によっこらせと上って出力レバーを押し上げる。
「さて、学園に帰ろう」
「そうね、明日も行くの?」
「お昼が慌ただしいから、できればやめて欲しいけど、保母さんの許可が出たなら文句は言わない」
孤児達も楽しそうだったしね。
大神殿を飛び立って、サクッとビアンカ邸基地に飛空艇を格納した。
「おつかれさま」
「おそまつさまでした」
「マコトの……、腕も上がっている……、卑下してはいけない……」
エルマーにマジレスされたよ。
みなでドヤドヤと船を下りる。
「しかし、予想以上に飛空艇は便利だな」
「小型のは取り回しが良いよね」
「どこかに同じサイズの船が埋まっていないだろうか」
「たぶんあっても修理に莫大な金が掛かるよ。ビアンカさまが頭がおかしいから出来た事だと思うね」
「まったく、是非とも王国に欲しいが、キンボールがいないと飛べないのではな。魔石を使う船がどこかに無いだろうか」
あと、一隻、ビアンカさまの魔石船があるようだが、どこに行ったのやら。
そして、蒼穹の覇者号と同じぐらいの武装だったら怖い。
「ブリス先輩、早めに集落の計画をつめましょう」
「そうだね、ケーベロスさん、明日でも集会室で打ち合わせをしようか」
「放課後だな。私も参加させてもらおう」
「ありがとうございます、ジェラルドさま」
文官達が燃えておるな。
「カロルは計画に参加しないの?」
「私は行政とか経営はするけど、新しい計画はあまりしないわね。三人の仕事を見て勉強するわ」
カロルはオルブライト領の領主代行だしなあ。
偉い嫁である。
みんなで地下通路を歩く。
「それでは我々はここで」
「ありがとうございました領袖」
「僕も……、こっちだ……、また明日」
「また明日ねー」
男衆と別れて、私たち女子組は地下通路をずんずん行く。
今は四時半ぐらいかな。
微妙な空き時間だなあ。
晩餐まで部屋でごろごろするかな。
「ちょっと時間が空いたね。二人はどうするの?」
「勉強」
「錬金しないと」
いつも通りだねえ。
階段を上がって女子寮にはいる。
やや、地下大浴場の前に待機列が出来ている。
今日は聖女の湯だからねえ。
聖女の湯解放戦線のエイミーさんと目があった。
列の整理をしてくれていたようだ。
「いつもありがとうエイミーさん」
「いえいえ、こちらこそ、聖女さま」
エイミーさんはニッパリと笑った。
聖女の湯解放戦線の人達のお陰でお風呂の平和は守られているんだなあ。
ありがたい事です。
「そういえば聖女の湯の元は大丈夫かな?」
「まだ大丈夫よ、来週で良いかな」
なんだか事件が起こりすぎで時間の感覚が変だよ。
ダンスパーティが半年ぐらい前に感じる。
色々あったからなあ。
主にディーマー皇子のせいで。
「では、また晩餐に」
「うん、またねー」
「またなー」
エレベーターホールでカロルを見送って、コリンナちゃんと一緒に205号室へ。
さて、ベットで、のたのたしよう。
そうしよう。
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