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第657話 えっちらおっちらホルボス山北麓を登る

 地獄谷から見るホルボス山は村から見るより猛々しい感じがするね。

 村からの山は天辺がテーブル状なので優しげだが、こっちから見ると岩肌が荒れていて厳しい感じがする。

 これが南麓と北麓の違いかあ。


 というわけで、装備を付けて絶賛登山中でございます。

 肩にずっしりと籠が重いぜ。

 一番軽い籠を選んで貰ったのだが。

 ちなみに子供用。

 使ってた子供は死んだそうだ。

 やれやれだぜ。


「ガキは、最初に目腐れ金を親に渡せば、あとは食費だけだからボロいってサイモン組長は言ってやしたが、すぐ死んじまうので……。あっしらはヤクザな渡世ですが、さすがに子供が死ぬと胸が痛みましてね、それからガキは集めないようにしてやした」

「成人も駄目だろう」

「おっしゃるとおりで」


 子供を毒鉱山で働かせるとは、どんな発想だ。

 まったくもう。

 中世は人権が軽くて嫌だな。


 というか、登山道でもないので岩がゴロゴロして凄く歩きにくい。

 汗をかいて息苦しくなってきたぞ。


「これはきついな」

「サーヴィス先生は運動不足ですよ」

「そう言うな、キンボールさん」


 ヤクザのロイクは体力があるのか平気そうだが、フレデリク商会長はふらふらしているな。

 商家のインテリだしなあ。


「コリンナちゃん大丈夫か」

「くるんじゃなかった」

「ダルシー」


 ダルシーを呼ぶとマスクとゴーグルをした怪しいメイドが現れた。


「はいマコトさま」

「籠を持ってあげて」

「ま、まだ頑張る……」


 ダルシーはコリンナちゃんの後ろに付いて籠をポンと叩いた。


「おおっ、なるほど、重拳か」

「はい、後ろで軽くしながらまいります」

「たすかるよー」


 ダルシーはコリンナちゃんの後ろに付いた。

 うむ、重拳の有効利用だ。


「あとどれくらいで採掘場なのかね?」

「まだ半分もきてないだよ。まだまだ良い道だなあ、これから難所が幾つかあるだあよ」


 フレデリク商会長が背中を丸めた。


「マスクとゴーグルだと熱がこもるね、これはキツイ」

「もう少し風通しの良い装備が必要ね、設計しなおさないと」

「良い装備があると安心だなあ。ちょっと苦しいけどねえ」


 ふとっちょさんが笑い声で言った。

 意外に朗らかで明るい人だな。

 良い人そうだ。


 前方に穴があってそこからもくもくと白い煙が出ていた。


「ここら辺は危ないだよ。あの煙を避けるようにして進むんだな」

「装備が無い時はどうしてたの?」

「息を止めるだな。吸い込んだら一発だあ」


 なんだよ、その無理ゲーは。

 マスクしていても怖いのに、何も付けないで行かせるだなんて。

 ゴンザレスは一度もここを歩いてないな。


 煙の下をかがむようにして通った。

 風向きが急に変わりませんように。

 マスクをしていても、卵の腐ったような匂いがするぞ。


 火山ガスの危険地帯を抜けて、やっと一息ついた。

 なんで噴出口の辺りを通るのかと思ったら、崖があってあそこを通らないと相当迂回することになるからか。

 しかし、このマスクで防げるのか?

 たしか前世の事故だと一呼吸で意識を失うというぞ。

 そして、空気より重いので谷の所に沈殿するとか。


 とりあえず半円球の障壁を全員に被さるように張った。

 ガスがやばそうならこれを地面に下ろして大気を遮蔽する感じだな。

 張り巡らすと気密できるはずだ。

 やった事は無いけどね。


「煙が円形に避けていくわね。障壁?」

「一応張ったよ。用心のため」

「硫黄を掘るのがこんなに大変だとは思わなかったわ」

「やってみないと解らない事は多いんだ、オルブライトさん」


 これは採掘場へ行く道も整備しないとなあ。

 せめて登山道程度には整地しないと駄目だな。


 足下がガレ場でぐらぐらする。

 暑い暑い。

 うっはー、マスクもゴーグルも外したいっ。

 頭がくらくらしてきたぞ。


「大丈夫かい領主さま」

「え、ええ、なんとか。でも毎日ここを上がるのね」

「五往復はするんだな。足がパンパンになるだよ」


 集落の人の体力パナイなあ。


 コリンナちゃんが座り込んだ。


「ちょ、まって……」

「水を飲みなさい」


 カロルが収納袋から水筒を出してコリンナちゃんに渡した。

 マスクをずらしてコリンナちゃんはゴクゴク飲んだ。


 念のため障壁を下ろして辺りを囲う。

 私もマスクをずらして水を飲んだ。


「私にもくれないか。水筒を持って来なかったのだ」


 ジェラルドが水をねだってきた。

 自分の水筒を見た。

 あまり入って無いなあ。

 もっと持ってくるんだった。


「出す……」


 エルマーが手から水をじゃばじゃば出した。


「ありがたいっ、ああ、冷たい」

「冷やしてみた……」


 エルマーは気が利いているな。

 みなエルマーの水に群がった。


 岩に座って小休止である。


 私も水筒にエルマーの水を入れた。

 あ、冷たくて美味しい。


「水属性は便利ねえ」

「正直助かる」


 軟弱な王都民を集落の人達はニコニコしながら見ていた。


「水属性の人はありがたいねえ」

「あなたたちの中にはいないの?」

「勉強してねえので、水属性でも、ちょっとヒンヤリするのが関の山だあ。じゃばじゃば水を出せるのはすごいよう」


 学園の生徒はみんな魔法を使えるので勘違いしがちだが、一般庶民はマッチ程度の火とか、スプーンいっぱい分の水とか、そよ風とか、砂を出す、ぐらいの魔法しか使えない。

 やっぱ、この世界のお貴族さまは魔力量が多いんだよねえ。


 休み休み山を登って、なんとか硫黄採掘場に着いた。


 あちこちに黄色い硫黄が顔をだしている場所だ。

 そしてガスもあちこちから吹き出している。


 休憩用なのかさしかけ小屋みたいな物もあるな。

 まったく酷い場所だぜ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 硫黄堀りが劣悪な環境であるのは 今回のお話で十分にわかりました。 考えてみれば、あの腐った卵の匂いが充満する中で、 あれより強い刺激のあるものに囲まれて、 それを掘り出すのだから、とんでも…
[一言] 隠形してついてきてるアンヌさんとダルシーちゃんがノーガード。 経口補水液要りますねぇ。
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