第653話 ホルボス山の硫黄で住民サービスを充実させよう
一週間の楽しみの錬金授業が終わってしまった。
午後にみんなで授業を受ける貴重な時間が……。
ここの所、麻薬捜査とかで午後はつぶれていたのだけれど、明日からどうしようかね。
漫画でも書ければ良いのだけれど、紙がなあ。
まあいいや、なんかしよう。
いっそ午後はアダベルと孤児達をホルボス山に配達する時間にするのはどうか?
学園の外に出るのは先生は良い顔しないだろうけど、暇だしな。
いってみれば私だけ毎日が土曜日な訳だな。
特権階級さまだ。
そう考えたら良いご身分のような気がずんずんしてきた。
「マコト、A組に戻るわよ」
「あ、はい」
馬鹿な事を考えてぼーっとしてしまった。
いかんいかん。
カロルとコリンナちゃんとエルマーと、四人でA組を目指す。
廊下の窓から入ってくる風が春の匂いだね。
良い感じ。
A組について、アンソニー先生が来てホームルーム。
校外で飲酒で捕まった生徒がいるようだ。
停学になるからやらないように、との事。
アップルトンは偽西欧なのでお酒を未成年が飲む事はあまり文句は言われない。
子供の頃からワインとか飲む国だしね。
ただ、酒場に入り浸ると悪い知り合いができたり、ヤクザにつけ込まれたりするので駄目らしい。
貴族のボンボンなんか、ヤクザさんや夜の蝶のお姉さんの格好の獲物だよなあ。
毎年何人かが放校になったりするそうであるよ。
起立して礼。
さてさて、放課後である。
「商会に行く? 今日は月曜日だから聖女の湯もあるわ」
「うむ、先に商会を片付けて、お洒落組に聖女の湯の元を渡して、私たちはホルボス山へアダベルを迎えに行くついでに温泉」
「ああ、それも良いわね」
天然温泉が湧いている所へ行くのに入らないという手はなかろう。
「では、先に商会ね、馬車で行く?」
「歩くにはちょっとあるね」
商会は王都の西側に固まっているので学園からだと、ちょっと歩く感じ。
「では、我が家の馬車を出してやろう」
「ジェラルドの馬車か、あんた家に帰ってるんだ」
「週の半分ぐらいは王城で泊まるが、たまには帰るぞ」
宰相のお家だから商業地区の南の上流貴族街だな。
さぞや大きいお屋敷であろう。
「僕も行きたいのに」
「王子はだめ」
「ケビン王子は駄目です」
「王子は不自由で嫌になっちゃうね」
というか、ケビン王子は面が割れてるからな。
ロイドちゃんだったら王室マニアでもないと顔を知らないけど、第一王子たるケビン王子はみんな知ってるのであるよ。
将来の王様は不便なのである。
「夕方の……、フライトは……?」
「三時ぐらいかな、向こうでお茶のんだり温泉入ったりするから」
「わかった……、三時頃集会室にいる……」
「了解~~」
コリンナちゃんがB組から来たのでさあ行こう。
「剣術部の子の誰かに来てもらうべきではない?」
「必要無いよ、ダルシーもアンヌさんもいるし」
「あ、そうだった」
諜報メイドは普段姿を隠しているから居ない感じになってしまうのよね。
必要な時には出てきてくれるので便利便利。
そして、諜報メイドはヤクザとかを殴るのが大好き。
主にダルシー。
階段を下りると玄関でブリス先輩が待っていた。
「早速行きますか、領袖」
「行きますよー」
「ブリス卿、コリンナ嬢、わたしと、優秀な次世代の文官が集まった感じだな。荒事でなければ怖い物はない布陣だ」
次世代文官どもは顔を見あわせてニヤリと笑った。
なんとなく悪者の雰囲気がするのはなぜだろうか。
五人で馬車溜まりに行ってジェラルドの家の馬車の前にいく。
黒塗りで高そうな馬車だな。
サーヴィス先生のボロい馬車の隣に止めてあって、やめてさしあげてな感じであった。
と、思ったらサーヴィス先生が馬車から出てきてこちらに手をふった。
「マクナイトくんの馬車でいくのかね」
「そうですよ、先生の馬車は一生のりませんから」
「そんなに嫌うなよ、これでも愛着があるんだ」
「メンテナンスをしてください」
「今度しておくよ」
うん、これはしないフラグだ。
ともあれ、サーヴィス先生も馬車に乗り込んだ。
六人乗りかな、わりとゆったりと座れるな。
「商業地区にやってくれ」
「かしこまりました」
御者さんもきっちり背広を着て格好いい。
さすがは宰相の家、隙がないね。
「問題の商会はサーリネン商会だ。老舗の薬や原料の商会で手広くやっている」
ジェラルドは予習してきたのか羊皮紙の資料を広げた。
偉いな。
「あまり悪徳な噂は聞かない、普通の商品を扱っている普通の商会だ」
「本当にね、薬品の原料の問屋だから価格競争も無いし、そんなにあくどく稼がなくても良いはずなんだが」
サーヴィス先生は首をひねった。
「カロルの家では取引があるの?」
「無いわよ、うちはオルブライト領の商会しか使わないし、オルブライトも商会を持ってるから」
オルブライト領で生産した錬金薬を売る直営商会だね。
どっちにしろ、薬のたぐいは需要があるから手堅いはずだよなあ。
「硫黄もオルブライト領近くの火山から出る物を買ってるわ。だけど、マコトの領からでる硫黄なら取引しても良いわね」
「それはいい、最悪サーリネン商会を追い出してもオルブライト商会が取引きしてくれるのですね」
「強く交渉できるな。良材料だ」
「どっちにしろ、地獄谷を人の住める所にする予算を分捕ろう」
「そうだな」
馬車は王都の西に向けて走り出した。
うん、揺れが少なくて快適。
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