第651話 アダベルと孤児達が自然公園で何かしている
自然公園の芝生広場で敷布を引いて、みんなで昼食を取る。
ああ、日が照りまくって暑いぐらいな陽気だね。
シャクリと聖女パンを食べる。
上のクッキー生地がシャリシャリして美味しいね。
やっぱり実家のパンは美味しいな。
クララのパンも上質なんだけど、ちょっと違うのな。
子供の頃からずっと食べているパンだからなあ、舌が慣れてるのかもしれない。
「コリンナちゃんはクリームコロネ一個かあ」
「あんまりお昼は食べないんだよ」
「食が細いんだなあ」
カロルを見ると、聖女パンと野菜サンドを食べている。
なによ、という目で見られた。
沢山食べる嫁は大好きだ。
ソーダをコッコッコと飲む。
プレーンなソーダで前世の三ツ矢サイダーの味にそっくりであるが、美味しいね。
ゲームの世界だからか、味のベースが日本的だよなあ。
前世欧州風味ではないね。
空を見上げると吸い込まれそうな青であるよ。
ジーン皇国がらみのトラブルも終わったし、のんびりしよう。
というか、頭がおかしいのかレベルで事件が起こるよ。
言ってみれば、攻略対象全員のイベントが一気に押し寄せてきたらそうなるのかもね。
半分ぐらいの攻略者は王都壊滅の危機が付いてるし。
ネタを知ってるので先回りして潰せるから助かってるけどね。
「来週の日曜日にはピアノを聞きにいかねば」
「麻薬捜査の時に知り合った三年生の先輩ね」
「うんうん」
お礼にとコンサートのチケットをもらったのだ。
どうやら、彼女はアップルトンの音楽界のホープらしい。
楽しみであるなあ。
「チケットは二枚あるから、一緒に行くでしょ? カロル」
「ええ、良いわね」
週末はホルボス村にも行かねばならぬが、ブリス先輩を下ろしてちゃっちゃと帰ろう。
御領主さまは忙しいのだ。
日曜日はカロルと遊ぶときめたのだよ。
パンを食べ終えて、食休みでまったりしていると、広場の遠くでアダベルと孤児たちがいた。
何やってんだろ。
アダベルはぼわんと煙を上げてドラゴンに戻りおった。
うおお、王都の中で~~。
「ド、ドラゴン!!」
「というか、アダベルだな」
「そういえばそうだ、ホルボス山で見たか」
オスカーがびびり声を出したが、正体がアダベルと思い返したようだった。
というか、他人がいっぱいなのに、ドラゴンになるとは何事だ。
私は立ち上がって駈け寄った。
「アダベル!! 何してんのっ!!」
アダベルと孤児達がこちらを向いた。
「あ、マコねえちゃんっ」
「アダちゃんがホルボス村に乗せて行ってくれるって」
『そうなのだ、我に乗るのだ』
「アホかっ!! 危ないわよ、落ちたらどうすんの?」
『このまえカロルは我に乗ったが』
「私はチェーンで鞍を作ったからよ。そのままでは危ないわよ」
「滑り落ちそうっ」
「落ちるのはこわい~~」
『うむむむ』
アダベルは苦悶の表情を竜の顔に浮かべた。
シュポンとアダベルは人化した。
「いや、だけどさー、トールとティルダに私の大事な友達を紹介したいし、あいつらは二人だけで大人と一緒で寂しいと思うんだよ」
「アダベルは優しいわね」
「馬車でホルボスに行くと半日だな、行くと泊まりになっちまうな」
「一人で会いには行けるんだけど、あっちには村の子供もいるけど、やっぱり友達は沢山いたほうが楽しいと思うんだよ」
「しょうがないわね。エイダさん、自然公園まで来てください」
【了解です、マスターマコト】
アダベルと孤児達は飛び上がって喜んだ。
「飛空艇だしてくれんのっ!」
「「「わーいわーい飛空艇っ!!」」」
「行って下ろすわ。帰りは夕方に迎えに行くわよ」
「マコトー!! ありがとうー!!」
まあ、行って帰ってもたいした時間にはならないしね。
午後の授業までには帰れるでしょう。
「アダベルの竜形態で子供を乗せるとなると、籠かしらね」
「よし、作ろうっ」
「気軽に言いなさんなアダベル」
気球の籠みたいな物があれば安全にアダベルに運んで貰えるね。
でも、お金が掛かりそうだなあ。
鍛冶部にでも相談しようかな。
ドワーフならばなんとか出来そうだ。
蒼穹の覇者号が自然公園の芝生広場に着陸した。
「それじゃ、ホルボスにアダベルと子供達を下ろして帰ってくるから」
「私も行くわ」
「パイロット組……」
近所のスーパーに子供を送っていくようなもんだから三人もいらんのだが。
まあ、いいか。
派閥のみんなに手を振って、私たちは飛空艇に乗り込んだ。
「どれくらいかかるの、マコ姉ちゃん」
「すぐ」
飛行時間十分とかだよ。
アダベルに乗っても同じぐらいで着きそうね。
子供達をメイン操縦室に入れて、すぐ離陸した。
自然公園から飛び上がって、ちょっと水平飛行、もうホルボス村上空であるよ。
「はやーいっ!」
「本当に飛空艇って早いわね」
「近距離飛行も……、便利だ……」
村の広場に着陸すると、村長が押っ取り刀で駆けつけてきた。
「聖女様~~~!!」
私たちはタラップから外に出た。
おお、気温が違うぜ。
ちょっと肌寒い。
「田舎の村だ~~」
「田舎の匂い~~」
ちょうど村に来ていたのか、トール王子とティルダ王女がアダベルを見て駆けよって来た。
「アダちゃーん!」
「アダベル~~!!」
「トール、ティルダ、来たぞ~~!!」
三人はがっしり抱き合った。
「王都の友達も連れて来たっ、大神殿の孤児院の子供たちだよっ」
「こ、こんにちわ~~」
「王子様と王女様なの? 物語みたい」
「なかよくしてくださいね」
トール王子とティルダ王女の表情がパッと明るくなった。
「国が滅んだから、もう王子でも王女でもないよ」
「ただのティルダとトールお兄ちゃんなのよっ」
「おんなじだ」
「おんなじおんなじ」
「「「わーいわーい」」」
うん、仲良くなれそうね。
孤児院の子供たちはなにげにコミュ能力が高い子が多いからね。
「それじゃ、夕方に迎えに来るから、遊んでなさいね」
「「「「はーーい」」」」
村のずっこけトリオもやってきて子供の友好の輪が広がっているようだ。
なによりなにより。
仲良き事は美しき事かな。
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