第645話 大神殿で捕らえていた甲蟲騎士たちを引き渡す
王城から大神殿までは、すぐそこなので蒼穹の覇者号はぴょーんと飛び上がり、いつもの聖騎士団の練兵場にシュタッと下りた。
王城から歩けやという距離だが、実際に道を行くと大手門経由なので結構遠いのだ。
教皇様と一緒に船を下りた。
「ホルボス山はとても良い所ですね。教会の女神像は、あのお方の似姿なのでしょうけれども言わなければ誰にも解りません。明るくて気さくな感じの女神像として新しい教会にもお祀りしましょう」
「そうですね、あのお方は晴れがましい事はあまり好きではなさそうなのですが、誰かが知っていてお祈りしなくてはなりません」
「はい、あのお方の気持ちを無下には出来ませんからね」
教皇様があのお方とぼかして言ってるのはビアンカさまの事であるな。
どうも、教会の上層部には偽装処刑だって伝わっているらしい。
あと、学者さんも結構知っている人が多いらしい。
まあ、本人が望んでの悪名だから勝手に晴らしてもいかんね。
「蒼穹の覇者号は乗り心地がとても良いですね。今度、一緒に総本山にでも挨拶にいきましょうか」
「そうですね、まだ総本山に一度も行ってないですから」
「なかなかビタリ共和国まで旅をするのは大変ですからね。陸路と船で片道一ヶ月はかかりますから」
飛空艇なら三時間てとこかな。
日帰りも可能だけど、総本山だと偉いさんに挨拶回りとかしないといけないし、せっかく行くんだから教会巡りとか食べ歩きとかしたいぜ。
やっぱり夏休みかなあ。
教会の神官さんが大神殿の方へ駆けていった。
牢から甲蟲騎士を出してくるんだな。
ふと気がつくとアダベルが下りてきていた。
「あんたはここで下りるの?」
「んー、どうしようかなあ、学園からの方が近いから乗ってくよ」
じゃ、なんで下りたと思ったら、大神殿から孤児たちがやってきた。
「アダちゃーん、お帰り~」
「帰ったよー、我が家が一番」
大神殿は君の我が家ではないぞ。
「どうだった、ホルボス山」
「良い所だったな、こんどみんなで一緒に行こう」
「わあい、それは良いね」
「土曜日にでも行こうか」
「「ほんとうっ? わーいわーい」」
孤児達は飛び上がって喜んだ。
トール王子とティルダ王女も遊び相手が増えていいだろうしね。
アダベルがとくとくとホルボス山滞在の話を孤児に聞かせていた。
あはは、ホラがいっぱい入ってるな。
ローランさんが甲蟲騎士さんたちを連れてきた。
蟲甲胄を着込んだままだな。
「リーディア団長!!」
「ヘンリーッカ、アイラ、サロモン、アートゥ!! よくぞ生きていた」
五人はがっしりと抱き合った。
「聖女さまの協力で、トールさまとティルダさまを奪還出来た、もうジーンに従う必要は無いっ」
「「「「おおっ!!!」」」」
「我々は聖女マコトの元に身を寄せる事にした、次のジーンとの戦争の時は先陣を切らせて貰う事になった」
「アップルトンに従うのですなっ」
「ジーンと戦えるならどこでも良いわっ」
「トール王子もティルダ姫もご無事ですかっ?」
「ぴんぴんしているぞ、そこのアダベル殿と泥だらけになって仲良く遊んでおられた」
「ああっ、良かった、良かったです、団長」
私はローランさんに近づいた。
「尋問とかしたの?」
「一応しましたが、信念が固いのが見えたので困ってましたよ。寝返らせたんですか?」
「ええ、ジーン皇国が王家の遺児を人質にしてたので、行って助けてきたわ」
ローランさんは渋い顔をした。
「無茶しちゃいけませんぜ、聖女さま」
「必要だったからね」
彼はやれやれと肩をすくめた。
「詳しい話はダルシーさんから後で聞きましょう。いやあ、甲蟲騎士団をアップルトンに寝返らせるとはねえ」
ダルシーが現れた。
「違います、アップルトンではなく、マコトさまに寝返りました」
「ああ、なるほど、さすがはマコトさまだ」
ローランさんは得心がいった感じにきゅっと笑った。
「まあ、成り行き上ね」
「まったく、謙遜も度が過ぎるとイヤミですぜ。どこの世界に襲って来たテロリストをまるっと寝返らせる事が出来る人がいるってんですか、マコトさまだからですよ」
「そ、そうかなあ」
あんまり褒めるなよう。
「マコトさまの私兵になる感じですか」
「一応教会所属にしてあるよ。ホルボス山の私の領の騎士団になる予定だよ」
「村に、騎士団! あっはっは、これは凄いですよ。前代未聞ですなあ」
「私もマコトさまの騎士団に入りたい」
「何言ってんですか、リンダ師、しっかりしてください」
「なんだか、甲蟲騎士団がマコトさま直属になって、妬ましい」
もー、リンダさんは。
無茶をいいなさんな。
ハナさんが馬車をまわしてきた。
車内にはジェシーさんもいるね。
「マコトさま、お話は聞きました」
「ホルボス山だけど、大丈夫?」
「亡国の遺児たちのお世話をするのはなかなかやりがいがありそうです」
「諜報メイドの花道ですわよ」
なんかよくわからないが、二人が納得しているならばヨシ。
「さあさあ、みなさん、馬車にお乗りになって、早くしないと橋が渡れません事よ」
「お世話になります」
「まあ、蟲の甲胄ね、綺麗だわ」
「あ、ありがとうございます」
「私はジェシー、家の中を担当するメイドです、御者をしているのはハナ、書類仕事や事務が得意よ。王子様と王女様だけではなくて、あなたたちの面倒もみますからね」
「お、恐れ入る、ジェシーどの」
「ほほほ、私もハナも平民だから、かしこまらなくても大丈夫ですよ、さあ、道々お話を聞きましょうね」
凄いぜジェシーさん、家政婦型諜報メイドのコミュ力がハンパねえ。
こうして、甲蟲騎士団を乗せた馬車はホルボス山に向かって去っていった。
しばらく、ホルボス山でのんびり暮らしなさいね。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




