第644話 蒼穹の覇者号は王都に帰還する
玄関ホールでメンバーを点呼して地下礼拝堂への階段を下りる。
学者さんが五人ほど滞在して研究したいというので邸宅の宿泊を許可したら、跳び上がるように喜んでいた。
豪華な部屋が使えるというより、村の宿屋よりホルボス山基地に近いからだそうだ。
まったくもう。
礼拝堂から洞窟を抜けてホルボス山基地に入る。
「すごーい」
「かっこいー」
「それでは時々参りますから元気で暮らしてくださいませね」
「「はーい、ありがとうございます、聖女さまー」」
「またおあいしましょう、ごきげんよう」
「「さようならー、聖女さまー、アダちゃんー」」
声を揃えるトール王子とティルダ王女が可愛い。
リーディア団長を除く甲蟲騎士の人達も見送りにきてくれた。
団長は飛空艇で同行して、大神殿の甲蟲騎士さんを引き取りにいくのだ。
みんなどやどやと蒼穹の覇者号に乗り込んだ。
教皇様とリンダさんも一緒だ。
しかし、楽しいキンボール家の家族旅行のつもりが大所帯になったなあ。
まあ、何時もの事だけどね。
「今回は私が操縦するわ」
「えー、いいのに」
「マコトはさぼってて」
まずい、艇長の私より、カロルとエルマーの方の飛行時間が長くなってしまう。
操縦もカロルの方が上手いしなあ。
嫁が過保護なのも考え物だね。
「それではお願いします、最初は王城でケビン王子とジェラルドを下ろして、ディーマー皇子とグレーテ王女も下りてもらいます。そのあと大神殿で教皇さまとリンダさん、そしてお養父様とお養母様、お義姉様を下ろしてから、学園へ」
「了解よ」
カロルはにっこり笑って船長帽をかぶりなおした。
良く似合ってるなあ。
かっこかわいい。
【魔導カタパルトに魔力充填、蒼穹の覇者号スタンバイ】
「発進します!」
【魔導カタパルト起動、発射します】
ファーンファーンと赤色回転灯が回り警報がなって船は虚空に打ち出された。
いつでも打ち出しの瞬間はわくわくするね。
真っ赤になった夕暮れ空へ蒼穹の覇者号は飛び出した。
みるみるうちに王都が近づいてくる。
というか、ホルボス山は王都の近所だしな。
飛空艇はカタパルトで稼いだ速度を落とし気味にして王都上空に侵入した。
まったく早いなあ。
そのまま飛空艇は王宮に近づいた。
私は赤い伝声管の蓋を開けた。
「こちらは蒼穹の覇者号、コールサイン547498、王城管制室、王城への着陸許可をおねがいします」
【王城管制室、コールサイン335685。了解しました、南側からの侵入経路で着陸を許可します】
ディスプレイのマップに南側侵入のルートが表示された。
「これでこの船での宿泊も終わりか、名残惜しくあるな」
「王城で安楽にしてなさいよ、皇子」
またメイン操縦席のベンチでアダベルの隣に座っているディーマー皇子がつぶやいた。
「わかる、飛空艇に乗るのは楽しいもんな」
「そうか、解ってくれるかアダベル殿」
カロルが軽やかに王城の飛空艇発着場に船を着陸させた。
「王城に着陸しました」
「お疲れ様、カロル。だんだん上手くなってるね」
「ふふん、まかせてー」
「負けられん……」
私もだ、エルマー。
私は、ディーマー皇子と一緒に飛空艇を下りた。
「色々と世話になった、今回のアップルトンへの表敬訪問はいろいろと勉強になった。特にお前と知り合えて良かった。まだしばらく王都にいるから、一緒に食事でもしようではないか」
「何か奢ってくれるの?」
「ジーン料理の名店がたしかあったはずだ、連れて行ってやろう」
「予定が決まったら教えてね」
「ああ、わかった」
「私も行きたいぞっ」
「アダベル殿もか、うむ、一緒に行こう」
ディーマー皇子はアダベルに微笑んだ。
「いろいろお世話になってありがとうございました、聖女さま」
「グレーテ王女もこれで王都観光ができるね」
「はい、楽しみですわ。それではまたご一緒しましょう」
ケビン王子とジェラルドが下りてきた。
「やあ、キンボールさん、楽しい旅だったよ。やっぱり実際に行ってみないと解らない事がいっぱいだね」
「近隣で不正な事が起こってるとは想定外だった。こちらも調査をするので、わかったら連絡しよう」
「明日、商会に殴り込みに行くけど、一緒にくる?」
「ふむ、商会側の言い分も聞いてみたいな、よし、行くか」
「僕も行きたいけど」
「王子は駄目だよ」
「王子は駄目です」
王子さまがご光臨なさると庶民は縮こまるからなあ。
ジェラルドでも身分が高すぎる気もするんだが、まあ、文官だし。
「王子は不便だね。では、ジェラルドに任せるよ」
そう言うと王子はディーマー皇子とグレーテ王女を連れて王城に入っていった。
王様が戸口にいて、ディーマー皇子の王城入りを歓迎していた。
「外交って大変だなあ」
さて、次は大神殿に教皇様とリンダさんを下ろして、甲蟲騎士をリーディア団長に引き渡そう。
そう思って私はタラップを上がって飛空艇の中に入った。
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