第642話 爺婆を治しながら村を練り歩く
さくさくさくと快速で治療を施していく。
オプティカルアナライズは便利だなあ、患部とか病状とか一目でわかる。
良い魔法を開発していただいてありがとう、マリア様。
マリアさまは武闘派聖女で、治療が下手な印象があるが、実は結構凄腕であるよ。
私が覚えた中級魔法までの治療魔法は全部マリアさまが残してくれた物だ。
これくらいの治療は勇者でも聖女でもディフォルトで付いているらしい。
ビアンカさまは蘇生も出来たというから、さらにこの上を行くという。
まったく先輩聖女さまたちがチート過ぎて困るよ。
結構片腕が無かったり、足に障害があったりの人がいるね。
欠損した肉体を戻すのはエクストラポーションとかだからお金が掛かるのさ。
千万ドランクとかするよ。
この前、カロルにオルブライト家は、ぼりやがるとか言ったら、材料費が高いんですっ、と切れられた。
光魔法は無料でらくちん、飛空艇を地獄谷に飛ばすほどの魔力もかからんぜ。
魔力を馬鹿食いするのは、飛空艇>魔剣>治療魔法、となっている。
まあ、あの重量の船を魔法で空中に浮かせるのだからしかたがないね。
一時間ほどすると患者さんの爺婆は居なくなった。
「終わりかな?」
「そのようね。錬金薬で治った人も多いから」
「お婆ちゃん、村で動けないお年寄りとか居ないの?」
「何人か、いるにはいますが、その、いいのですか、聖女さま」
「ついでだから治そう。案内して」
「ありがたやありがたや」
いや、拝まなくていいから。
というわけで、婆ちゃんを先頭に往診に向かう。
村でも中規模な農家だな。
庭に鶏が二羽歩いておった。
「お、サロメ婆ちゃん、どうした……。え、聖女さま?」
ドアベルを鳴らすと働き者な感じのおじさんが顔を出した。
「ペリーヌさんを治してくれるそうだよ」
「ええ、良いんですか? うちは治療費とか払えないですよ」
「いいのいいの、領主就任記念でただよ、ただ」
「そんな、申し訳無いですよ」
「大丈夫大丈夫」
というか、婆ちゃんサロメさんって言うのか、なにげにハイカラな名前だ。
「ど、どうぞ、汚い家ですが」
「おじゃましまーす」
わあ、西洋の民家という感じのお家だね。
藁の匂いなのか、前世の古民家みたいな匂いがする。
「とうちゃん、飯まだ?」
「お、オレールくんの家か」
「げぇ、聖女さまっ、しかも本格スタイルでっ」
「こら、オレールッ! 御領主さまに気安いぞ」
「いいのいいの、午前中に友達になったから。お婆ちゃんのお部屋はどこ?」
「こっちだよ、治してくれるの、ばあちゃん」
「まかせろー」
オレールくんの先導でペリーヌ婆ちゃんの部屋を目指す。
「ばあちゃん、俺だ~、聖女さまが来たよ」
「もう、オレールは嘘ばかり、どうして聖女様が大聖堂から来てくれるかね」
「こんにちは、聖女候補のマコト・キンボールです」
「ひょえっ! これは何事? あ、サロメさんも」
「聖女さまが村中の病人を治してくれたんだよ。寝たきりの人は居ないかって聞かれてね、ペリーヌさんの事を思いだしたんだよ」
「なんという事かしらね、死ぬ前に聖女さまを見る事が出来て、何も思い残す事は無いですよ。本当にありがたい」
「いやいや、治します、老衰で天に召されるまで健康で笑って暮らしてもらいますよ」
「そんな、まさか、治療費など払えないですよ」
「大丈夫です、領主就任記念キャンペーンで無料です」
「ひょえっ、そんなキャンペーンが」
まあ、口から出任せだが、やっぱりせっかくご縁があって領民になったのだから、健康に笑って暮らして欲しいじゃないですか。
男衆に出て貰って、ペリーヌ婆ちゃんを診察する。
ああ、腎臓障害だね。
手足がむくんでいる。
『エクストラキュア』
あちこち細かい疾病もあったので、ついでに治しておく。
「あんまりしょっぱい物ばかり食べないのよ」
「あ、ああっ、なんてこと、体が軽いわ。起き上がれそう」
「凄いね、ペリーヌさん、私も治してもらって二十歳は若返ったよ」
ペリーヌ婆ちゃんはスリッパを履いてベットから下りて立ち上がった。
目がうるうるしている。
「聖女さま、聖女様、ああ、聖女様、ありがとうございますありがとうございます」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
二重連で婆に拝まれるのである。
「おおっ、婆ちゃんが立ち上がったっ!! 五年ぶりかっ!!」
「オレール、私はまだまだ生きられるよっ」
「たまげたなあ、来年の冬は越せないと思ってたんだが、おふくろ~~」
「さあ、他にも居るでしょ、案内してっ」
「はいっ、次はクロード爺さんのお家に行きましょう」
「クロードさんも寝込んで長いわね」
「案内してっ」
「はいっ」
村の爺婆ネットワークは堅いんだね。
縁戚の繋がりが都会よりも強いから各家庭の情報はみな知っているのだ。
煩わしい人間関係ではあるんだけど、心強くもあるんだよね。
私の前世も田舎の娘だったからよく知っている。
そんな感じに練り歩き、村中の病人を治して回った。
住人の顔とか、家とか、繋がりとか、結構、解ってきたな。
小さい領地だと、住民の顔が見えるからいいね。
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