第641話 午後は教会で臨時療養所を開設する
和やかにご飯を食べ終えた。
さてさて、診療の準備をするかな。
「とりあえず、カロルが村人の状態を見て、それからマコトが治療しろ」
「そうね、錬金薬で治る病気をマコトが治すのは魔力が勿体ないわ」
「えー、村人は聖女候補の治療が受けたいと思うけどなあ」
「きっと凄い重病がいる」
「マコトにしか出来ない治療をするべきよ」
まあ、そうかもしれないなあ。
聖女の治療魔法なら、死んでないならだいたい治せるし。
だったら重病を治した方が良いか。
教会に三人で行ったら助祭のサマンサさんが迎えてくれた。
「なんだかげっそりしてますね」
「教皇様がホルボス教会にこられるだなんて、あんなに間近に来られて、優しいお声を掛けてくださって、困ってしまいますわ」
「なんだかんだと教会施設が増えますからサマンサさんも覚悟してくださいね」
「ひい、お手柔らかに、聖女さま」
まあ、神学校を出て僻地の村の教会に送られるという事は、サマンサさんもそんなに出来が良くはないのだろうけど、私は普通な感じで好きだな。
ちなみに優秀な神学校卒業生がどこに行くかというと、地方都市だね。
ヒルムガルドとか、商業都市で大きい奴に優秀な奴は行く。
もっと優秀ならば大神殿勤務だね。
教会もなかなかシビアな組織なのだ。
「教会の中を診療に使わせてもらうわ」
「はい、問題はありません。話を聞きつけてお爺ちゃんお婆ちゃんがもう礼拝堂でお待ちですよ」
「おお、すばやい」
コリンナちゃんがブリス先輩の近くへ寄った。
「ブリス先輩、治療者のリストを作りましょう」
「うん、私も考えていたよ。羊皮紙は持って来た」
「私も手伝おう、一回の治療にどれくらいかかるか?」
「ありがとうございます、ジェラルドさま。マコトの魔法は早いのですぐ終わります。たぶん世間話をやめさせるのが大変かもしれません」
「三人で手分けをしましょう。マコトさんとお話をしたい村人には悪いですが」
「付き合っていたら日が暮れるな」
「病状を書いて貰って、すぐ治療に入れるようにしましょう」
おお、文官三人組が有能だ。
「私が下見をして、マコトでないと治療出来ない患者さんだけ通すわね」
「奧のブースを作る感じね。なんか無いかな」
「布張りの衝立ならありますよ」
ダルシーが現れた。
「運びます」
「は、はい……」
いきなり現れたダルシーをみてサマンサさんはびっくりしていた。
そりゃびっくりするよね。
とりあえず、白い布で出来た処置室ができて、患者さんの流れもできた。
文官が優秀だとこういう何気ない所で効率が良いよね。
「サマンサさん、今回は治療なので、お話が始まったらやんわりと止めてくださいね」
「そうですね、みなさんお話好きですから、告解室でも、懺悔を聞いていたはずなのに、よく人生相談になったりしてます」
人生相談とかのお話を親身になって聞いてあげるのも教会の仕事なんだけど、そういうのはサマンサさんがやれば良いね。
聖女の時間は有限なのだ。
四時には王都に帰っちゃうし。
「では、一時から診療を始めますね」
「はい、村の人はみな楽しみにしていますよ。よろしくお願いします」
私は仮設ブースに入った。
ダルシーが黙って聖女服を出してくれた。
うむ、解っているね。
学園の制服で治療されるよりも、聖女服の人に治療された方がありがたいというものだ。
制服を脱いで聖女服に着替える。
脱いだ服はダルシーが綺麗に畳んで仕舞ってくれた。
いつもすまないねえ。
「そろそろ入れて大丈夫か?」
コリンナちゃんがカーテンをめくって顔を出した。
「おお、聖女様だ!」
「わはは、よせやい」
「では、一人目を入れるよ」
「おねがいします」
カーテンを開けて杖をついたお婆ちゃんが入って来た。
「こんにちは、どうしましたか」
「あああ、聖女さまじゃ、聖女さまじゃ」
お婆ちゃんはひざまずいて私を拝み始めた。
ええからっ。
対面の椅子に座ってもらった。
「去年の秋に畑で倒れてから右足と右手が利きませんのじゃ。歩くのも辛くてねえ。まあ、歳を取ったから仕方がないんじゃが、少しでも良くなるとええなと思って図々しくもやってまいりました」
お婆ちゃんはとつとつと喋った。
ふんふん。
オプティカルアナライズ。
ふむふむ。
脳の血管障害だね。
肝臓も悪くなってるからついでに治そう。
『エクストラキュア』
ぴぴっとな。
お婆ちゃんの手から杖が落ちた。
そのまま彼女はすっくりと立ち上がる。
「な、治った、治りましたじゃ。あああ、痺れも何にも無い、ああ、なんという奇跡なのですかいっ、ありがとうございます、ありがとうございます」
「拝まなくて良いから退室してね。村の病人をみんな治しますので」
「そうですな、そうですな、ああ、何という偉いお方か」
「この力は女神さまから借りているだけなので、お礼は女神さまに言ってね。お大事に」
感動しきりという感じでお婆ちゃんは診療室を出て行った。
外で、「おおっ!」という感嘆の声が上がった。
お婆ちゃんは興奮して早口で喋っていた。
「いつもながら、はやいな、次入れて大丈夫か?」
「どんどん入れて-」
実は、この手の診療行為は初めてではないのだ。
大神殿で手に負えないような重病人が来た時は、たまに呼ばれて治したりしてたんだよね。
夏なんかは、ずっと診療所に行ってたし。
私は聖女で、お医者さんでもあるのである。
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