第64話 休日だけど、女子寮へ戻る
朝だー。
うむ、気分はすっきり。
三年前の馬鹿な自分に泣かされてしまったが、一晩寝れば元通りっ。
私服に着替えて朝ご飯であるよ。
今日はハムエッグに、ひよこ堂のバターロールであった。
「マコトちゃん、今日は夕方まで居るんでしょう?」
「いえ、午後に友達と遊びに行くので、朝ご飯が済んだら女子寮に戻りますよ」
「あらー、寂しいわ、また来週の週末まで会えないの~」
「また帰ってきますから、お養母様」
お養母様は甘えん坊でいけませんね。
お養父様は苦笑気味に微笑んでいた。
お義兄様は私に目配せをする。
やっぱり、キンボール家は居心地がいいね。
ご飯を食べ終わったので、自室に戻り、制服に着替えてリビングに降りる。
「もう行ってしまうのかい?」
「はい、お養父様、何か質問がありましたら、メイドのダルシーを走らせますのでおねがいしますね」
「メイドを雇ったのかい? 賃金は?」
「教会から付けてもらった諜報メイドです」
「諜報メイド、そういうのもいる世界なんだなあ」
お義兄様が感心したようにつぶやいた。
諜報メイドみたいな存在は普通の下級貴族には関係無いしね。
「私も会ってみたいね、来週末に連れてきなさい」
「解りました、連れてきますよ」
「マコトちゃんがどんどん偉くなっていくみたいで寂しいわあ」
「いくつになっても、どんなに偉くなっても、私は、お養母様の子ですよ」
「んもう、マコトちゃんはお上手ねっ」
お養母様は可愛いなあ。
「それでは行ってきます、また来週末に」
「行ってきなさい」
「気を付けてね」
「僕とは、来月かな、またね、マコト」
みんなの挨拶を背に、キンボール男爵家を後にする。
ああ、今日も王都は晴れで暖かいなあ。
さて、学園まで歩くか。
朝には独特の爽やかな感じの空気があるよね。
日曜の朝なので、都民が皆、おしゃれをして歩いている。
大神殿の前を通りがかり、掃き掃除をしているジェシーさんと尼さんたちにご挨拶。
おはようございます。
おはようございます。
ぺこぺこと頭を下げてご挨拶をして、大神殿の前を通り過ぎる。
角を曲がると商店街になっていて、魚屋さんのちょっと生臭い匂い、肉屋さんの脂の匂いなんかが漂ってくる。
日曜の朝から、みんな頑張っているなあ。
パンを焼く良い匂いが漂ってきたら、ひよこ堂である。
「兄ちゃん」
「おう、マコトどうした?」
「学園に帰る所だよ、パン売って」
「おう、聖女パンが焼きたてだ」
私は聖女パンを中心に、三つのパンを買った。
兄ちゃんに礼を言って、また歩き出す。
しばらく行くと、魔法学園の校門だ。
学園よ、わたしは帰ってきた!
と、言うほどの物でもないな。
あれ、門の前で女の子が困っているぞ。
どうしたんだろう。
「学園にご用ですか?」
「あ、ここの生徒さんね。女子寮ってどこかしら? ここは広いからどこへ行っていいのかわからなくてさ」
あれ、この茶髪少女に見覚えがあるな。
「クララ? 名月堂の」
「そうよ、え、あれっ、マコト? マコトなの?」
「そうよ、わあ、大きくなったねー、クララ」
「マコトこそ、大きく……、はあまりなってないけど、綺麗になったじゃん」
「えへへ、ありがとう、女子寮食堂に行くの、私も行くから一緒に行こうよ」
「ありがとう、マコトは変わってないね」
「そうかなあ」
いや、久しぶりにクララを見たからテンションが上がった。
大きくなったなあ。
クララは長い赤髪を二つのお下げにしてぶらぶらさせている。
ちょっとそばかすがあるけど、カワイイ笑顔の子だ。
「こっちよ」
「おっけー、いやあ、王立魔法学園に勤められるとはラッキーだったよ」
クララを先導して、学園の中に入る。
「もう、クララはパン職人の修行してるんだってね」
「三年目~、系列店でみっちりしごかれたよ~」
「それは頼もしい。今、事情があって食堂の責任者を私がやってるの、朝と夕に一緒に働けるよ」
「マコトが責任者、すごいねえ。宜しくお願いしますよボス」
「まかせておきたまえー」
私たちは笑いながら女子寮の中に入る。
護衛女騎士さんに手を振って廊下を行く。
一階の突き当たり、ロッカールームに入る。
「あら、マコトさん、おはようございます、お帰りですか」
「おはよう、メリサさん。うちのメイドが来週のメニューを持ってきた?」
「いえ、来てないと思いますけど」
ふむ、これは、あれか。
「ダルシー」
「はい」
「わあっ」
クララの隣にダルシーが現れたもんだから、彼女は驚いて声を上げた。
「メニューは?」
「こちらに」
ダルシーから、来週のメニューが書かれた羊皮紙を受け取り、メリサさんに渡す。
「はい、たしかに、これで来週のメニューが組めますわ」
「それは良かった、それから、この子はクララ、名月堂の娘のパン職人です。一年の契約で厨房に入ってもらいます」
「かしこまりました、よろしくね、クララさん。副料理長のメリサです」
「クララです、宜しくおねがいしますね」
クララは元気よく挨拶をした。
「さっそく、パンをお願いできますか、晩餐のパンが無いの」
「わかりましたよ、何パンを焼きますか、白でも黒でも菓子パンだってやきますよ」
「頼もしいわ、ではこちらへ、みんなに紹介するわ」
「じゃあ、クララ、頑張ってね」
「うん、マコト、わたし頑張るわね」
「たのしみにしてるわ」
手を振って、私はロッカールームから出た。
ダルシーもついてきた。
「ダルシー、どこに泊まるか決まったの?」
「はい、207号室に空きベットがありましたから、そこに入ります」
「同室の人に挨拶はしたの?」
「まだです」
「じゃ、ちゃっちゃと挨拶に行こうっ」
「はい」
私はダルシーを連れて階段に向けて歩き出した。




