第638話 呪いの森で鎮魂の祈りを捧げる
というわけで集落の塀の向こうにある森に来てみました。
なんというか、すげえ、呪いの森になってんぞ。
「こええ、こここええです、聖女さま」
「空気がじっとりして、なんというか、やだなあやだなあって感じが足下から這い上がって来てる感じがどんどんしてきて」
「ああ、これはやばい」
うるせえよ、村の小坊主三人組め。
「うひょひょ、ふーっ」
「ぎゃー、一陣の冷たい風がっ!」
「アダベル、冷凍ブレスの弱いやつを人の首筋にかけてはイカン」
「ブ、ブレスも吐けるのかあ、アダベル、さん」
「そうだぞ、オレール、私に不可能はないのだ」
「にゃーん」
嘘をつけという感じにクロがイケボで鳴いた。
「怖いなら付いてこなければ良いのに」
「いえいえ、カロリーヌさま、こういうのは現場で見るからいいんですよ」
「そうそう、ラウルは解ってるな」
「んもう」
セルジュがブルッと震えた。
こいつは霊感あるのかな。
サーチを撃ち込んでみる。
カアアアアンッ!
げげげ、あちこちにアンデッド反応が。
奧に一体、強い奴がいるな。
とりあえず一つずつ散らして行こう。
私はアンデッド反応のあった藪に近づく。
『ああ、俺だけ死んだ、俺だけ死んだ、ああ、ああっ』
「なんでも良いから天に上がれ、以上」
わりと雑な感じに怨霊を説得してライトボールをぶっつけた。
『ぎゃあ、ひどい』
迷っていた魂はケガレが少なくなって宙に浮かんだ。
そこにさらに二発、三発とライトボールをぶつける。
「とっとと行けっ」
『もう、酷いなあ』
光魔力で簡易浄化された元怨霊はふよふよと天に上がって行った。
一丁あがりだ。
「なんか……、思ってた除霊とちがう……」
「聖女さま、すんげい雑」
振りかえると皆、しょっぱい表情を浮かべていた。
なんだよう。
「魔力をぶっつけて空に追っ払うのか」
「まあ、だいたいそう」
アダベルはうなずきながらアンデッド反応のある木に向かって冷凍ブレスを吐いた。
『さ、さむい、さむい、こんな所にいられるか、俺は帰らせてもらうっ』
凍えた怨霊が空に向かって逃げていった。
「ナイス、アダベル」
「へっへーんっ」
「あんたたちの除霊は変だわ」
「とにかく追っ払えばオバケは出なくなるから」
「意外に簡単だった」
リンダさんが肩を落とし、抜き打ちざまに藪をたたき切った。
メキメキメキと音を立てて大木が倒れていく。
「ふむ、魔剣でたたき切ってもいけますね。これは良い事を知った」
「室内ではやらないでよ」
魔剣ダンバルガムといったら、ジーンのタンキエムのような教会の至宝なんだが……。
リンダさんは、わりと工具みたいにして使ったり、お祓い棒みたいにしたりして使ってるな。
それでいいのか?
まわりの雑魚怨霊を潰して、森の奥に分け入る。
どんどん雰囲気がやばい感じになってくるが、まあ、気にしない。
オバケなんか聖女の敵ではないのだ。
森の奥では、怨念がねじりきれ、なんだか瘴気の沼みたいになっていた。
切り株に骸骨がのんびり座って空を見ている。
『……、知ってるかい、僕は生きてる頃は貴族だったんだ……』
「そうかそうか、『ターンアンデッド!』」
ビビビビビ!
あ、クソッ、骸骨め避けおった。
『い、いや、話を聞こうよ、なんだよ、狂犬なの? アンデッドは許さないという、信仰モンスターなんですか、あなたは』
「ワイトなんかと喋る事は無いのだ」
『き、貴族がなんでこんな森の奥で死んで、どうしてアンデッドになってるか、興味無い?』
「まるっと、なんにも興味がない」
骸骨はへなへなと崩れ落ちた。
なんか悲しそうだ。
『話を聞いてくれよう』
「うるせえ、地上でうろうろしてないで、とっとと空に戻って生まれ変われ」
『未練があるんだ、あの子に僕の言葉を伝えて欲しいんだ』
「めんどうくさい」
『そ、そう言わないで、僕は政敵にさらわれて硫黄鉱山に売られて死んでしまったけど、悲しまないでって、エドワルダに伝えてよ』
「エドワルダって……」
私の知ってるエドワルダさんは、夜会の女王の人だな。
「あんた、死んだのいつ頃?」
『わかんない、幽霊には時間の感覚があまりないんだ。もうずいぶんになるかもしれない』
「私の知ってるエドワルダさんは、マダム・エドワルダと言って、夜会の主催者の人だな」
『ああ、夢はかなったんだね、それは良かった。もう大人になってるんだろうなあ。これは何かの巡り合わせなんだろうなあ』
まあ、彼女の夢は叶ったが、山高帽に騙されて人生は破綻してしまったぞ。
来月には処刑が行われるはずだ。
だが、そんな事を、このアンデッドに言った所で何もならないな。
「エドワルダさんに会いたいなら来世で会いなさい。あなたの人生はもう終わったのですから、こんな場所で何時までも現世にしがみついていてはいけません」
『僕の一言を彼女に伝えてくれるなら、もう思い残す事は無いよ』
はらりはらりと瘴気が解けていく。
『ターンアンデッド!』
私の両手から出た光が骸骨くんに直撃した。
『光! 明るいっ!! 暖かい!! ああ、ありがとうありがとう』
魂が元の輝きを取り戻し、空に向かって昇っていった。
サーチを掛けてみる。
カアアアン!
うん、邪気一つ残って無い。
ここは普通の森になった。
「ああ、なんという事だろうか、あんなに怖かった森が暖かくて普通の森に変わった」
「すげえ、本当に聖女さまだったんだな」
「骸骨さんは何があったのかなあ」
ラウルよ、そういう事を知った所で、別に良い事は一つもないのだ。
別に人生に関係が無いことだから気にしないのが一番。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




