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第635話 硫黄の結晶は黄色くキラキラ輝いていた

「うおー、本当に飛んでるっ」

「高い高いっ、怖いって」

「うわー、俺んちが下に見えるっ」

「おまいら、静かにベンチで座ってろ」


 小坊主三人組の醜態にアダベルが切れた。

 クロもニャーンと鳴いた。


「あ、すみません、アダベル、さん」

「呼び捨てでいいぞ、オレール」

「お、おう、アダベル」

「うむ」


 ちなみに私は艇長席で帽子を被って操縦中だ。

 航路的にはホルボス山山頂を飛び越して北進する感じ。

 山越えだと結構近いな。

 麓を回っていくと渓谷をまたがないとならないので、そうとう下の方まで行って回り込むのだ。

 山地あるあるだね。


 掘り出した硫黄はそのまま街道に出て精錬工場へ運ぶらしい。


 さて、降下だが、駐める場所があるかな。

 硫黄を運ぶ馬車だまりがあると思うんだけど。


「マコト、二時の方向に広場、馬車だまりね」

「了解ー」


 ちなみにカロルが前世の軍隊風味なかんじで方向を伝えて来たが、これは私が教えたら面白がって覚えたものだね。

 目の前の正面を十二時の方向といい、右手真横が三時、後ろが六時、左真横が九時となっている。

 前後左右よりも細かく十二方向を指し示せるので便利なのだ。


 さて、船を降ろすかな。

 舵輪をグイーッとな。


 上から集落が見えたが……。

 掘っ立て小屋だな。

 スラム感があるね。


着陸脚スキッド展開」

着陸脚スキッド展開しました】


 ガチョンと下で音がして、重力感、で、着地成功だね。


 外では汚い身なりの住人がこちらをポカンと見上げていた。


「さあ、外に出ましょう」

「すげえ、あっという間に地獄谷に着いたぞ」

「飛空艇はべらぼうな物だな」

「父ちゃんうらやましがるぜ」


 みんなでぞろぞろとタラップを降りる。


「こんにちは、新しい領主ですが、視察に参りました、責任者さんはいらっしゃるかしら?」

「え、あ、その、監督かな? 監督~~!!」

「なんだっ、今、俺は忙しいんだっ!! 気楽に呼ぶんじゃねえよっ」


 集落の中で唯一ましな建物から、ガタイのいいヤクザ風味の中年が出てきた。


「こんにちは、私はこのたびホルボス山一帯の領主になった、マコト・キンボールといいます」

「は? あ、その、ここの監督のゴンザレスです、はあ、え? 聞いて無いんですが」


 というか、ここら辺でもう硫黄臭いな。

 温泉地のようであるよ。

 あちこちでお湯が沸いてる所がある。

 酷い場所だが、温泉は入り放題のようだね。


「私は領主ですから、なんの前触れも無く、領地の訪問をします。なにか問題でも?」

「い、いえ、ありませんっ。失礼しましたっ」

「集落の中を見たいです、案内してください」

「そ、それはおすすめできません、真に身分が卑しい住民ばかりで、貴族さまにお見せ出来る所ではないのですっ」


 リンダさんがずいっと前に出てきた。


「ここは、我が聖心教が誇る聖女さまが、国王から授かった領地である、黙って案内しろ」


 コワイコワイ、猫が卒倒するぐらいの殺気でリンダさんが威圧をしておる。

 ゴンザレスの顔色が紙のように真っ白になった。


 というか馬車溜まりにいる住民の背中には籠があって、そこには真っ黄色の結晶があった。


「それは硫黄?」

「は、はいそうです、あ、毒なので危ないですよ」

「見るだけよ、へえ、意外に綺麗な物ね」

「臭いな、この石」


 サーヴィス先生が近寄ってきて、しげしげと硫黄の結晶を見た。


「良い品質だね。硫黄を配合する錬金薬も多いんだよ」

「肥料にも使うって聞いたけど」

「それは初耳ね」


 あ、やべえ、ハーバーボッシュ法だったか。

 だとしたら、まだ無い技術かも。

 なんか、窒素をどうしたこうしたでアンモニアをどうこうするらしい。

 理系じゃないからうろ覚えであるな。

 こんなんでは、耕作チートができねえ。


 ゴンザレスは諦めたように首を振りながら門の鍵を開けた。


 あーなんだなスラムだな。

 硫黄と腐臭があいまってとても臭い。


「臭い~~」


 アダベルが鼻をつまんだ。


 まるでゾンビのように集落の住民が掘っ立て小屋を出てきた。


「衛生状態がなってないみたいですね」

「いや、まあ、しかたがねえんですよ」

「ちゃんと賃金は払っているの?」

「ええ、月に二十万ドランクぐらいやってまさあね」

「ふむ、まあまあの賃金だが、それだけ貰ってなぜこんな生活になるのだ」

「こいつら馬鹿だから、ギャンブルと女に浪費してしまうんでさあ」


 これは、アレだ、たこ部屋の匂いがするぞ。


「本当にそうなの?」


 私は痩せこけたおじさんに聞いてみた。


「お金は、もらえます、が、生活費が高くて……。黒パンが一つ五千ドランクもします……」

「ゆ、輸送代が掛かるんですよ、しかたがねえんです、山奥なんで」

「賃金は払ってるけど、馬鹿高い食費とか、掘っ立て小屋の家賃とかで回収してるのね」

「べ、別に法律には違反してませんぜっ、こいつらはここから出たらやってけない人間のくずなんだから、そんな一面で判断なされちゃあ、困りますよ」


 ゴンザレスは乾いた笑いを漏らした。


「そ、そのうちですな、商会から御領主さまにご挨拶が行くと思うんですよ。その時には、その、十分なご挨拶をですね。前任の代官さまもお目こぼししてくれましたし、その、魚心あれば水心ってねっ」

「黙れ、ゴンザレス」

「は、はい……」

「私は何より不当な利益で邪悪な事を見過ごす行為が大嫌いだ」

「も、申し訳ございません……」


 私はホルボス山を指し示した。


「山の向こうにはケビン王子や宰相の息子、教皇様も来ている。この舐めた商売してる責任はお前の上に取らせるからな」

「わ、悪い事は言わねえ、しょ、商会の後ろには怖い親分さんたちが……」

「お前は最近王都に行ってないな」

「へ?」


 リンダさんがニヤリと笑った。


「麻薬禍騒動の結果、王都の全てのヤクザは、この、聖女マコトさまに屈服した。今、王都ヤクザの上に居るのは、このお方だ」

「そ、そんなっ、エドモン組のエドモン組長は?」

「ああ、あいつはとっ捕まって現在、死刑を待ってるぞ」


 なんだよ、エドモン組傘下のシノギかよ。

 まったく、駄目なヤクザの下はやっぱり駄目だな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この人、ヤクザのトップです……
[気になる点] 硫黄の肥料とハーバー・ボッシュ法は関係なし。pHがどうたらとか、欠乏すると茎が細くなるとか云々。菜種油の菜種を育てる時に硫黄肥料が良いとかなんとか。ハーバー・ボッシュ法は、肥料に使うア…
[一言] 殺っちゃえ!リンダバーサーカー! とはなりませんでしたねえ・・・。命拾いしたなゴンザ丸のおっさん。
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