第63話 机の下には未来への自分への手紙が落ちていたんだよ
キレてしまったお養父様に書斎に呼び出され、洗いざらい白状させられました。
まあ、これでお養父様の歴史知識からくる助言を貰えるようになったのでいいんですけどね。
「たった六日で、国内三位の派閥を作り上げるとは……、前代未聞だね。これは歴史に残るよ」
「派閥の運営のヒントとかありませんか? 歴史学者のお養父様から見て」
「そうだね……。とりあえず、我が聖女派閥の特徴は時限派閥ということだ」
「時限派閥?」
私が疑問を投げると、お養父様は手を広げ、ろくろを回すようなジェスチャーをした。
これは、意識高い系の人が説明の時にやる、ろくろ回し!!
「つまりはだ、聖女候補生であるマコトが、学校を卒業するまでの三年間しか存在しない派閥という事だ」
「あ、そうなりますか」
そうだね、卒業後は聖女任命されるので、貴族間の交流は途絶えるという事か。
「短い三年の時限派閥、だからこそ、王家に連なるアップルビー公爵家も、普段政治に縁が無いクレイトン侯爵家も気軽に参加できるわけだ。特典は教会とのパイプと、聖女さまとの交流だね」
「私との交流?」
「マコトと仲良くなって、自領へ聖女様がいらっしゃるとなれば、領民の喜びは計り知れないよ。そういう実利な面もあるし、さらに、滅多に派閥の集まりに出ない有力貴族との接点も出来る。この派閥はもっともっと大きくなるだろうね」
ほえー、そんな有利な派閥だったのかあ。
もっと人がくるのか、大変だなあ。
「私もできるだけ協力しよう。いやはやこの年になって、政治に関わるとは思わなかった。だが、研究していた事を実践できるチャンスでもあるね。心が躍るよ、マコト」
「お養父様が味方に付いてくれたら、百人力ですわ」
これは良い知将が派閥に付いた感じ。
何かあったらダルシーを走らせて。お養父様に意見を聞けるね。
携帯電話があれば良いんだけどなあ。
魔導無線機とか開発されてないのか?
「まったく、マコトは、こちらの予想を遙かに超えた所を通過していくね。本当に、自慢の私の娘だ」
お養父様はそう言って笑った。
それを見て、私の胸の奥も暖かくなった。
「ありがとう、お養父様」
私は自然に笑顔になった。
お養父様大好き。
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お養父様から解放されて、男爵家のお風呂だ。
そんなに大きく無いけど、実家のお風呂のようにくつろげる。
まあ、実家の一つなんだけどさ。
ちなみにひよこ堂の方にはお風呂は無い。
庶民の家にはお風呂が無い事が多いのだな。
どうするかというと、公衆浴場に行くんだな。
乙女ゲー異世界なので、ローマばりの巨大公衆浴場があり、マッサージやら、食事やらも出来る。
異世界の健康ランドみたいな物だ。
お風呂を出て、パジャマに着替えて自室にいく。
やあ、たったの六日ぶりなのに、帰ってきたって感じが凄い。
いろんな事があった六日間だからねえ。
ベットの上でのんびりする。
ああ、実家は良いなあ。
205号室も嫌いじゃないんだが、やっぱ一人は良いよね。
ダルシーの部屋は決まったかな。
二人部屋に行けとか言われたら困るなあ。
共同生活は気詰まりだけど、やっぱり楽しいし。
ごろんと寝返りをうって横向きになると、机の下になにか羊皮紙のスクロールが落ちてるのに気がついた。
なんだろう?
立ち上がって取ってみた。
『未来の私へ』
と、外側にタイトルがはってある。
?
書いた覚えが無いなあ。
なんだろう。
きっと、ここでの生活を始めた頃、未来の自分への抱負を書いたりしたものであろうか。
きっと、学校に入る頃の現在の私へ、新鮮な気持ちだった頃の思いの丈を書き記した物ではないだろうか。
書いた覚えがないが。
どれどれ?
私は腰が抜けて、床に膝をついた。
羊皮紙には大きく、日本語で、
『BL漫画が読みたーい!!』
と、書かれていた。
油断した。
油断した。
三年前の私もバカだったのだ。
バカは馬鹿な事しか書かないのであるよ。
でも、気持ちはわかる、BL漫画が読みたいよなあ。
誰かの書いた、美しく怪しいお耽美なBLが読みたい。
というか、漫画も読みたいし、ラノベも読みたいし、ソシャゲもしたいし、ガチャがしたいし、アニメも見たい。
ああ、日本に帰りたいなあ。
涙が出てきた。
ああ、マクドのハンバーガーが食べたい、セブンイレブンのツナマヨのおむすびが食べたい。
天一のラーメンが食べたい。
タンタン麺が食べたい。
私はあふれ出る涙をぐしぐしと拭いた。
この世界では、すごくチートで優遇されているけど、私の故郷はあの時代の日本で、どうしても心が帰りたがる。
あーでも、あーでも。
日本にはカロルが居ないしなあ。
コリンナちゃんも、メリッサちゃんも居ないし。
カーチスやエルマーも居ないしね。
なんでも良いことばかりではないし、悪いことばかりじゃないよね。
前向きに考えよう。
日本の美味しい物が無いなら、蓬莱に行って作り上げればいいんですよっ。
よし、卒業したら、蓬莱に行くぞっ!
そうだ、カロルとコリンナちゃんも一緒に行こう!
そう思ったら、心に元気がわいてきた。
良し、寝ようっ、明日には明日の風が吹くんだっ!




