第628話 王子の名はトール、王女の名はティルダ
ザスキアさんを下ろし再び蒼穹の覇者号は離陸した。
飛行機と違ってどこでも着陸できるのがいいね。
飛空艇が船の形をしているのは、実は基本的に着水するのが一般的だかららしい。
水面だと平たいし開けてるから降りやすいしね。
とはいえ、街道とか街の広場とか平坦な場所ならどこでも降りられる。
大型船になると学園のグラウンドぐらいの広さが必要なのだけどね。
メイン操縦室に入ったら、次のパイロットはエルマーであった。
「あ、マコト、お疲れ様」
「なんか濃ゆい人で疲れたよ」
「それがタンキエム?」
『さよう、お見知りおきをお嬢さん』
「わあ、鞘に入ったまま喋れるのね」
そういやホウズは鞘の中だと喋れないな。
『私はコアが鍔にあるからな。奴は刀身だ」
柄にはまっている赤い宝玉がコアなのか。
コアが壊れていたら死亡扱いで直せなかった所だったかも。
撃ち抜いたのが柄で良かった。
「で、どうするの、貰っちゃう?」
「そ、それは困るっ!!」
後ろのベンチで物欲しそうな目でタンキエムを見ていたディーマー皇子が立ち上がった。
とりあえず、この剣は……。
ベルトを調整して皇子の背中にかけてやった。
「お、おおっ、渡してくれるのか」
『ふむ、お主はマティアスの血族だな。同じ魔力の波動だ』
「なにっ! 祖先と同じ魔力なのか!」
『血族だからだろうな。お主の背は居心地が良いようだ』
タンキエムさんに褒められてディーマー皇子のテンションが上がってるな。
「このまま背負って、ジーン皇国の宮廷を練り歩きなさいね」
「す、すぐに還すべきではないか?」
「それはタンキエムでないかと聞かれたら、『良く出来た模造品です、曲者が持っていましたが、もちろん建国の至宝を誰かに貸すなぞありえません。なのでこれは模造品なのです』と答えなさいよ」
「そ、それでどうする?」
「還せって言ってくるから、旧サイズ王国の土地と交換ならばと持ちかけなさいよ」
「あ」
「それは素晴らしい、聖女さまは湧き出る泉のように英知があふれ出しますな」
えー、ナーダンさん、これくらい基本でしょ。
「それは叔父上に一泡ふかせられるな、良いアイデアを貰った!」
「旧サイズ王国領を手に入れるのに、現在の私の領と交換などと考えていたのだが、そうか、タンキエムと交換という手もある」
『私は、また博物館行きか』
「申し訳無いタンキエムよ、そなたはジーン皇国国民全員にとって大事な宝なのだ。我が皇帝になった暁にはかならずそなたを身に帯びよう」
『解った、お主の戴冠式まで我慢しよう。お主は賢才も無く、愚かな子供だ。だがあのマティアスも最初は出来ない子供であったのだ。友を作り、部下を愛し、信じられないほどの努力の後にあやつはジーンを再興した、お主も精進すべし」
「わかった、精進し立派な皇帝になろうではないか」
まあ、がんばれ皇子。
蒼穹の覇者号は、また雲の上に出た。
なんだか、前世の飛行機でも思うのだけど、この雲海の上は別の世界な感じだよね。
神聖な場所な感じ。
「じゃあ、サイズ王国の王子さまと王女さまに挨拶してくるよ」
「わかったわ、操縦は任せといて」
「任せろ……」
皇子がなんか居場所がなさげだが、そういやラウンジは甲蟲騎士団が居るし、スイートは引き払っちゃっただしでメイン操縦室にしか居場所が無いのか。
可哀想だが、まあ自業自得だな。
夜空でもみておれ。
私はメイン操縦室を出て廊下を歩く。
あれ、王子さまと王女さまはどこにいるのかな? と、思ったら第二スイートからキャッキャと子供の笑い声がする。
ノックをしてみた。
「はい! だれー?」
「マコトだよ、アダベル」
「お、マコトが来た、良い奴だよ、私の友達なんだ」
「アダちゃんの友達なの?」
「え、聖女さま?」
「はいれはいれー、マコト~」
第二スイートは君の家ではないぞ、アダベルよ。
「こんばんは、聖女候補をやっているマコト・キンボールと申します」
「よくきたっ、トール、ティルダ、これがマコト。マコト、これがトール、こっちがティルダ」
「トール王子さまとティルダ王女さまですね、よろしくお願いいたします」
私が頭を下げると、トール王子とティルダ王女はベットの上でペコリンと頭をさげた。
「僕がトールです、お姉さんが塔から助けてくれたの?」
「はい、リーディア団長に頼まれましたので」
「ありがとう聖女さま、わたしはティルダよ。本当に塔は狭いし、ザスキアさんは下品だし、すごく嫌だったの」
「それは大変な目に合われましたね、もう大丈夫ですよ」
あのゴリラメイドは嫌われていたのか、さもありなん。
「これから私たちはどうなるの? 庶民に落とされて街で暮らすの?」
「それも良いわねえ、私はメイドになろうかしら」
「僕は剣を習って冒険者になりたいっ!」
「いいなあっ!! 私と一緒に街で暮らそうよっ」
「アダちゃんと、それは嬉しいなっ」
「アダベルは楽しいっ」
おやおや、アダベルさんがちびっ子に大人気だなあ。
さすがはドラゴン。
「とりあえず、私の領地の村に邸宅がありますので、しばらくはそこで暮らしてくださいませ」
「「村!!」」
「ホルボス村っていって良い村だよ、美味しい物いっぱいあるし、山もあるし、小川でメダカも捕れるぞ」
「「わあああっ!!」」
王子様と王女様は、いたく村にご期待あそばされておられるね。
無理も無い、長い間狭い塔に閉じ込められていたんだしなあ。
とりあえずホルボス村でかくまって、再興が何年もかかるようならば、王都で学園で学んでもらおうかな。
こればかりは、リーディア団長とディーマー皇子しだいだな。
でも、この子達が殺されないで本当に良かった。
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