第627話 戦い済んで後始末、勧誘とか売り込みとか
ザスキアさんはチェーン君にがんじがらめにされていた。
「手が、手が痛いザマス~」
『ハイヒール』
ザスキアさんの手の穴は一瞬で塞がった。
「あ、ありがとうザマス」
「くっそう、私が倒そうと思っていたのに~~」
マルゴットさんが悔しそうにしていた。
「さすがに洗濯ロープだと魔剣と相性が悪いよ」
「魔剣を使うなぞ、諜報メイドの名折れだ。メイドが使って良い刃物は包丁までだ」
「敵を倒すのにえり好みとかしていられないザマスよ」
エルザさんがナーダンさんに話しかけられていた。
「君は剣の才能があるね、どうかね私の弟子にならないか?」
「え、ええっ、私が剣聖ナーダン先生の弟子に……」
「エルザ、すげえなっ!! 剣聖の弟子だぞっ!! うらやましいな」
カーチス兄ちゃんが喰い気味に喜んでおるが、エルザさんはあまり乗り気ではないようだ。
「ありがたいお話なんですが、アップルトンを離れてジーンに行くのは……」
「よしっ!! ナーダンの弟子ならば我が雇おうではないか! ちょうどグレーテの護衛に手練れが欲しい所だったのだ」
「カーチス様はどう思われますか?」
「え、あー、だがな、ナーダン先生の指導を受けられるなんて、剣士にとって望外の夢だからな。俺は行くべき……」
私は思い切りの力でカーチス兄ちゃんの尻を蹴った。
「いってっ、な、なんだマコト!」
「止めろ。お前が必要だから行かないでくれと懇願しろっ」
「え、だけど、剣士としてはよう……」
「正妻を手放してどうすんだっ」
「え、め……」
妾がいるから大丈夫、などと妄言を吐いたらカーチス兄ちゃんの睾丸は聖女キックで、お終いになると思えよ、そんな朴念仁の生殖機能はいらんっ。
「と、思ったが、やはりジーンに行くのは良くない。俺のそばでも剣は伸ばせるだろう、だから行くな、エルザ、お前が必要だ」
よーしよーーし。
エルザさんはにっこり笑った。
「ぎりぎりですが良いでしょう。私は思わず修道院に駆け込もうかと思いましたわ」
「ははははは」
笑いが乾いておるな、カーチス兄ちゃん。
蒼穹の覇者号はゆっくりと夜空の中を旋回していく。
ああ、アップルトンに帰るのだな。
「サイズ王国の王子と王女、救出作戦、終了!!」
「「「「わーっ」」」」
みな歓声を上げながら拍手をしてくれた。
「では、エルザ嬢はジーンに来てはくれないのか」
「たいへん良いお話なのですが、私は剣よりも愛が大事なのです」
「だそうです」
「なぜブロウライト卿にばかり、可愛い剣客女子が集まっているのだっ、不公平だっ!!」
「人徳です、皇太子殿下」
いや、君の人徳は朴念仁なので違う。
「ふふふ、ディーマー皇子に可愛いと褒められました」
「いや、君にはいっておらん。……まさか、君のファミリーネームはピッカリンではあるまいな?」
「おお、我が家名を覚えておられましたか、そうです、カトレア・ピッカリンでありますっ」
ディーマー皇子は深くため息をついた。
「お爺さまが言っていた、戦場でげらげら笑いながら突っ込んでくる騎士がいたら、それはピッカリンだから逃げろと、頭がおかしい家だから真面目に戦うなと」
「ははっ! お褒めのお言葉ありがとうございますっ!!」
ナーダンさんが眉を上げた。
「なんと、あなたはピッカリンのお嬢さんでしたか、アドルフ殿はお元気か」
「祖父をご存じなのですか、ナーダン先生」
「私も軍の家でね、父が何度もアドルフ・ピッカリンの恐ろしさを語ってくれたのだ。戦場であれほど怖い漢はいないと言ってましたな」
「ああ、お爺さまに聞かせたら、どんなに喜ぶ事でしょうか」
チェーン君に巻き付かれながらザスキアさんがずりずりとディーマー皇子の方へにじり寄った。
「恐れながら皇太子殿下にお願いがあるざます」
「……」
いや、怖いけど、表情に出すな皇子。
「このような失態をして皇弟閣下に会わせる顔が無いザマス。つ、つきましてはグレーテ王女様の護衛を私にお申しつけ下さいませんか」
「え~~~~」
あからさまに嫌な顔をするな皇子よ。
そして、ちらっちらっと、エルザさんとザスキアさんを見比べるな。
「叔父上に処刑されそうだから我に寝返る、そういうのか?」
「ひ、平たく言うとそうザマスが、そこは言わないのが皇族のお約束でございます」
皇子は嫌そうにナーダンさんを見た。
「人品は卑しいですが、人手は確かに欲しいですね」
「だが、これは裏切りそうだが」
「皇弟閣下が、我が国の至宝タンキエムを建国博物館から持ち出し、部下に渡した証人にはなりますな」
あれだ、甲蟲騎士団と戦うのにタンキエムクラスの武器じゃないと不安だったのだろうなあ。
本来はお城を一階から制覇して、ぼろぼろになって塔まで来たら、ザスキアさんがラスボスで現れるイベントであったのだろうね。
飛空艇でショートカットした感じか。
「こいつ裏切りますよ。自由にしたらグレーテ王女を人質にして逃げます。それくらい軽くやる悪辣メイドです」
「余計な事を言うなザマス!! マルゴット!!」
「グレーテを狙われるのは危ない。やはりこやつは処分するか。聖女はどう思う?」
「私だったら雇う、なぜなら私は聖女能力でザスキアさんを圧倒できるからね。あんたとグレーテだとかなわないからやめときなさいよ」
「やはりそうか」
「そこらへんの街道で下ろしてあげるからザスキアさんはどっかに行っちゃいなさい」
「こ、殺さないんざますか?」
「面倒臭いし」
私は胸のブローチに声をかけた。
「カロル、街道があったら着陸して、ザスキアさんを降ろすから」
『わかったわ。私も賛成よ。その人は信用出来ないわ、子供に熱線を撃つ人は駄目よ』
うんうん、私の嫁は正しい。
この後目に付いた街道に着陸してザスキアさんを放りだした。
背中を丸めて、とぼとぼと街道を歩くザスキアさんは哀愁が漂っていた。
さて、これにてミッション完全完了である。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




