第623話 ガラス窓をたたき切れ! 高圧水流カッター
結局エルマーの水圧カッターを試してみる事となった。
操縦席にカロルを残して、他の者は甲板へ移動する。
「あ、まって、マコト」
カロルの足下にチャリチャリチャリと鎖が落ちた。
むくりとチェーン君が立ち上がる。
「おー、チェーン君」
「甲板ぐらいまでならここから動かせるからつれて行って」
「解った、心強いよ、カロル」
「おー、鎖のゴーレム、格好いい」
アダベルがチェーン君の足をぽてぽてと叩いていた。
みなでぞろぞろと廊下を抜け階段を上がり、ラウンジを通って甲板に出る。
今日のドルガンツ地方は良く晴れて月が出ている。
なんか知らない花の匂いがするね。
「なんの花の匂いかな?」
「ゲーテメンの花の匂いだ。春の訪れを知らせる花だな」
「そうか、蘊蓄はいいからラウンジに入ってなさいよ皇子は」
「いや、しかし」
「皇子がいると子供の王子と王女が怖がるかもしれないでしょ」
「そ、そうか、みな、がんばってくれ」
あんたの国のお城に攻め込んでるんだけどね。
皇子は、もはやどっちがどっちだか解らないのであろう。
蒼穹の覇者号は静かに高度を落としていく。
「エルマーが窓を切るのか」
「切る……」
「おもしろい、水で物が切れるのか?」
「切れる……」
アダベルは水魔法に興味津々だな。
彼女も属性は水だから使えるのかもね。
お、塔の先端が見えてきた。
なんだかぎりぎりに下ろしているな。
カロルは操縦が上手いなあ。
そして音も無く蒼穹の覇者号は塔の窓に横づけされた。
ちょうど甲板の手すりの上の高さと窓の一番下が一緒だね。
絶妙な位置だ。
「エルマー……」
「解った……、みなしずかに……」
エルマーは指さすようにして窓の端に向けて水流を発射した。
ジーー、ジャボジャボジャボ。
うん、あれだな、水音はすんだよな。
水で切ってるから。
エルマーの額に汗が浮かぶ。
この魔法、隠密に向いてないかも。
かといって、水流を細めるとカットする力がなくなるしとてもいたしかゆしだ。
水音に気がつかれませんように。
ジーーーー。っと、エルマーは着実に窓のガラスを切っていく。
やばいな、雨音と勘違いしてください。
半分切れた。あと半分。
ジーー。
『マコト、水を収納して……』
胸のブローチからカロルの声がした。
あ、そうか。
私は手をだして水に触り、どんどん収納袋に送っていく。
ジャボジャボ音は無くなった。
あと、四分の一。
とっ、その時中の部屋で灯りが点いた。
そして窓に男の子と女の子の顔が出た。
「あっ!!」
「リーディア……」
リーディアさんが前にでて口に指を当てた。
賢い子だ、それで解ったようで二人とも口を手でふさいだ。
アダベルが二人に見せつけるようにクロを前に出した。
何をしておる。
と、思ったら、二人は猫を見てニコニコ目を笑わせた。
効果は抜群だ。
ガコン、チェーン君が切れたガラスを持って甲板に置いた。
男の子がこっちに移ろうとしているがちょっと怖いみたいだ。
暖かい風が突風となって吹いてきた。
あ、やべえ、気圧が変わるっ。
「遅くに何をやってるんザマスかっ!」
ドアをバアンと開けて、ガタイが良い美人の尖りメガネメイドが出てきた。
「な、なんザマスッ!! く、曲者ザマスッ!!」
「いそげっ!」
アダベルが男の子に飛びついてぶっこ抜いて甲板に投げ下ろした。
リーディア団長が受け止める。
「さあ、おいでっ!」
「うんっ!!」
女の子がアダベルに飛びつき、そして投げ飛ばされた。
悲鳴を上げた彼女をエルザさんが抱きとめた。
「作戦完了! 全速離脱!!」
「了解っ!!」
蒼穹の覇者号が窓を離れていく。
よし、勝った!!
と、思ったら、ガタイのよいメイドが窓から跳んで甲板にズシンと着地した。
「驚いたザマスッ!! 飛空艇で人さらいなぞ聞いた事もないざますねっ!! 前代未聞!! 驚天動地ザマスッ!!」
帝国メイドは隆々とした筋肉を持っていた。
というか、筋肉ゴリラだなこれ。
「ですが、この轟風のザスキアが護衛についていたのがお前達の運の尽きザマスっ!!」
シュルシュルと死角から洗濯ロープが現れて轟風のザスキアに襲いかかった。
「けけけ、油断したなザスキアーッ!!」
「き、貴様は怠惰のマルゴット!! なぜ貴様がいるざますかっ!!」
ダルシーとアンヌさんも現れて轟風のザスキアを囲んだ。
「はははは、お前の負けだっ!! ザスキアーッ!!」
マルゴットさんの洗濯ロープがザスキアの体をがんじがらめにしていく。
「はあっ!!!」
ザスキアは背中に背負った大剣を抜いてロープを切り刻んだ。
「ほほほほほほっ!! 今回の私はひと味違うザマスよっ!! 皇弟閣下に魔剣をお借りしておりますっ。王子と王女を逃がすようならひと思いに殺せと、命じられているザマースッ!!」
うっはー、濃いキャラだなあ、ザスキアさん。
「ほーほっほっほ!! これは噂の教会の小型戦闘艇!! そうすると、お前様が聖女候補ざますねっ!! これは素晴らしい、手柄がセットになってやってきたザマスッ!!」
ラウンジのドアがバーンと開いた。
「ザスキアッ!! 貴様、何を持っているのかっ!!!」
「おや、これは皇太子殿下、これは皇弟閣下からお借りした建国の魔剣タンキエムでございます」
「おまえおまえおまえおまえっ!! それはジーン皇国の魂とも言える宝剣だぞ、破損したらどうするのだっ!!」
「この魔剣は絶対無敵、破損することなぞありえませんざますっ!! ここに居る者は聖女候補以外は皆殺しザマースッ!!」
高速後退していく蒼穹の覇者号の上でザスキアさんの高笑いが響いた。
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