第622話 ドルガンツ城上空で作戦を組み立てる
ヒルダさんとヘザー先輩がラウンジの隅っこで話し合っていた。
「今回の殴り込みはどういう扱いになるだろうね」
「非はサイズ王国の王子王女を監禁している皇弟閣下にありますので手早く作戦を成功させればどこからも文句は出ないと思いますわ」
「まったく、聖女さまと飛空艇があると色々な手が使えていいね。武装的に蒼穹の覇者号を落とせる飛空艇は存在しないかな?」
「そうですわね、現在飛空艇は大国で二隻が平均的な保有数です。主に外遊などに使われて、純粋な戦闘艦はありませんわ。蒼穹の覇者号なら落とし放題ですわね」
なんて怖い話題をしてるんだ、暗闘令嬢と諜報令嬢は。
蒼穹の覇者号を戦争の道具には使わないぞ。
「落とせるし、首都を直接叩く事もできるけど、それはしないよ」
「マコトちゃんならそれはしないだろう、けどね、外国はそうは思わない訳よ。凄い武装の教会の船、逆らうと襲ってくるかもしれない、とね。今後、外遊船を武装艦に改造する国もできるだろうね」
「うへえ、嫌だなあ」
「だから今回はなるべく武装は使わない方がいいね。こっそり行って、闘うとしても人の力でやったほうが無難だよ」
そりゃそうだね。
過剰な武装は相手を不安にさせるか。
光ビーム砲なんか人前で撃てるもんじゃないね。
「しかし、甲蟲騎士団を聖女自身に寝返らせるとは、意表を突かれたけど、考えて見ると最善手だったね、マコトちゃん」
「さすがは領袖ですわ」
「いやあ、馬鹿皇子のために人殺しすんのはなんかね、嫌だったんだ」
「わかりますわ」
「アップルトンに教会閥の強力な騎士団が出来るし、遠回しにディーマー皇子に旧サイズ王国の民へ善政を布かせるように出来るし、素晴らしいね」
あはは、ヘザー先輩に褒められると照れちゃうね。
とっさの判断だったけど、良い発想だったな。
「ふわぁ~」
「眠そうですわ、仮眠なさったら?」
「そうだね、短時間でも寝るとしゃっきりするよ」
「ありがと、そうするよ」
私はラウンジを後にした。
階段を下りて、スイートのドアを開ける。
アダベルは寝ちゃったようでスウスウと寝息がするね。
隣のベットに潜り込む。
よく考えたら船で寝るのは初めてか。
何時も操縦室に居るしね。
すやあ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【マコトさま、ドルガンツ城直上です】
パチリと部屋の灯りが点いて私は目を覚ました。
ふわああ。
寝たらちょっとすっきりしたな。
「あれ、マコトも寝てた?」
「うん、寝てたよ」
「よし、悪者の城に殴り込みに行こうっ」
「にゃーん」
自立で動いていてもクロはイケボで鳴くのだな。
自分の髪の毛とアダベルの髪の毛を整えて一緒にスイートルームを出た。
メイン操縦室に入る。
皇子に、剣術組に、甲蟲騎士団に、諜報組もいるのでとても狭い。
「マコト、着いたわよ」
「ドルガンツ城上空二千クレイド……」
【消音モードで空中静止しています】
「了解、ハッチを開いて、ガラリアさん、虻で偵察おねがい」
「わ、わかりました」
ガラリアさんが背中の羽を開くと、ブーンと六匹の虻が出てドアに向かった。
ダルシーがドアを開けると虻はハッチの方に飛んで行った。
「ま、まさか、あれが見たものをお前が見れるのか?」
「で、ですよ……」
「それで我らの動向が的確に掴めていたのですな。なるほど」
ナーダンさんが感心したように言った。
「便利ではないかっ! 戦う前に情報が全てわかる!」
なんだ今更。
皇子の回りにこの手の諜者は居ないのか。
こっちにはカーチス兄ちゃんがその手のを使えるぞ。
うちの陣営じゃないけどヴィクターのクロもそういうのだ。
「皇子、静かにして」
「わ、解った聖女……」
ガラリアさんは目をつぶって集中している。
虻は複眼だからどんな風に世界が見えているのかな。
「と、塔の部屋に着きました。王子さまと王女さまはベットで寝ております」
今はだいたい九時だからよい子は寝ているね。
というか、前世と違って、こっちの世界では夜に起きていてもやることがない。
魔導灯はあるけど、本を読むぐらいしか無いのよね。
テレビもパソコンも無いからすることが無くて、みな寝るのだ。
「と、塔の最上階には一般兵が三人、ちょ、諜報メイド、轟風のザスキア確認。起きてますね……」
飛空艇のディスプレイに塔の最上階が大写しになった。
斜め上から見下ろす感じだ。
「鍵の種類は?」
「ま、窓ははめ殺しです。じょ、上部が少しスライドする感じ……」
ガラス窓ではめ殺しか。
高い塔だから落下防止に開かないんだな。
魔導機関銃で撃ち抜けば簡単だけど兵隊さんたちに気がつかれるね。
「窓を何とかしたいわね」
「割らないで何とかならないかな?」
「水圧カッター……」
「エルマーの魔法ね。あれならガラス窓を切れるかな?」
「やってみる価値はあるわね」
「いや、ホウズでたたき切ればどうだ?」
カーチス兄ちゃんの背のホウズがカシャコンと少し抜けた。
『光切断なら可能だが、今は我の魔力が少ない』
「ああ、この前、ちょっと魔力を返して貰ったからね」
ディーマー皇子が目を丸くした。
「喋る聖剣!! 聖剣の王ホウズではないかっ!!」
「エッケでガラス戸を打ち抜くのはどうか」
カトレアさんがエッケザックスを構えた。
「さすがに、マコトで撃つと塔を突き抜けるし、カトレアが撃つとビームの照射時間が足りないな」
「エッケザックスを撃つほどの魔力は残って無いよ」
また、皇子が目を丸くした。
「竜殺しの大聖剣!! エッケザックスだとうっ!!」
「うるさいよ皇子」
「あ、あと一本は何なのだっ」
「ジーンの英雄ラーシュの愛剣リジンですわよ」
「な、なにいいっ!!」
よく考えたらここは聖剣過剰地帯だわな。
「どこぞの名の知れぬ聖剣かと思っていたが、三本とも伝説級の聖剣ではないか、なぜ学生が平気でもっておるのだっ!」
「大神殿にあったから、借りてんだよ。あ、私のこれも聖剣子狐丸」
「……それは知らん」
ビアンカさまの刀はマイナーなようだね。
超便利なんだけどなあ。
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