第62話 夕食の席でおとうさまは頭をかかえるのだ
家令さんに迎え入れられてキンボール男爵邸へ入る。
なんでリンダさんまで付いてくる?
「大神殿に帰りなさいよっ」
「いえ、男爵さまにご挨拶を」
「もうー」
「マコトお嬢様、そんなにリンダさまを邪険にしなくても」
「ありがとうございます」
玄関ホールに入ると、お養母様が私に抱きついてきた。
「マコトちゃん、おかあさん、さびしかったわー」
「ただいま、お養母様、私も寂しかったですよ」
お養母様は良い匂いがする。
お日様のような匂いだな。
幸せの匂いだね。
「やあ、マコト、学校はどうだった?」
「ブラッドお義兄様。帰ってらしたの?」
「ああ、久しぶりにマコトに会いたくてね」
「まあ、お義兄様ったら、お上手ですこと」
なんだよ、リンダさん、変な生き物を見る目で見るなよ。
私は、男爵家の中だとちゃんとお嬢様をやってんだよ。
「あなたがリンダさまですのね、いつもマコトちゃんがお世話になっています」
「いえいえ、これはご丁寧に、リンダ・クレイブルと申します」
「ええ、ええ、マコトちゃんが良く噂をしていましてよ。リンダさんは格好いいって」
そんなこと一言も言ってないぞ、お養母様。
社交辞令がすぎる。
そして、リンダさん、どや顔すんな。
「お、帰ってきたかね、マコト」
「あ、お養父様、お養父様も今お帰りですか」
「うむ、マコトが帰ってくるから早めに帰ってきたよ」
「まあ、嬉しいわ、お養父様」
「おや、そちらは……」
「お初にお目にかかります、リンダ・クレイブルと申します」
「おお、君が、かの有名な狂乱の大天使! 北部の動乱では大活躍だったね」
「恐れ入ります。高名な、クラーク・キンボール教授にお目にかかれて光栄でございます」
「いつもマコトのお世話をしてくれているのだろう、マコトが帰るたびにリンダさんの噂を聞かせてくれるよ」
いや、だからどや顔して、私を見んなよ、リンダさん。
私は嫌だったのだが、リンダさんも一緒に男爵家で晩餐をすることになった。
うぜえ。
早く神殿に帰れっ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
同じテーブルにリンダさんがいる以外は素晴らしいキンボール家の晩餐であった。
お養母様のお料理はあっさり目の味付けでとても美味しい。
いつも作ってくれているおかずを沢山用意してくれていて、食が進むね。
おいしいおいしい。
お義兄様が学校のお話を聞くので、この激動の六日間の話を最初から話していく。
なぜだか、話していくうちに、お養父様の顔色が悪くなっていくな。
「オルブライト家のカロリーヌ様を助けるために、ポッティンジャー公爵家の子飼いの騎士生徒を倒したのかね……」
「はい、やっつけてやりましたよ」
「……、い、いや、続けてくれ、まだ初日なんだね」
「はい、入学前でした」
「まあ、ポッティンジャー公爵家を敵に回してしまったのね、大変だわ」
お養母様はおっとりしているので、ちっとも大変に聞こえないなあ。
「クラークさま、ご安心を、聖女さまは教会の名にかけて聖騎士団がお守りしますから」
「ポッティンジャー公爵家対教会というのもいささか物騒だね……」
お養父様は元気が無いなあ。
具合でも悪いのかな。
お話が女子寮の歓迎会の毒殺未遂にさしかかる。
なんだか、お養父様の姿勢がどんどんうつむき気味になり、額に脂汗がわいてきた。
「お養父様、具合が悪いのでしたらお休みになっては?」
「い、いや、問題はない、体の問題ではないからね」
「入学初日なのに、マコトは凄いね、さすがは聖女候補だね」
「嫌ですわ、お義兄様、褒められると照れてしまいます」
「褒めては……、い、いや、そうだね、大変だったね」
「それから」
「「まだあるのかいっ!」」
お養父様とお義兄様が声をそろえた。
お養母様は天をあおいだ。
「ブロウライト家のカーチスさまと知り合いまして、私も派閥に」
「そうかいっ、派閥に入るのか、それは良い、辺境伯家の紹介だと、国王派閥かね?」
「国王派閥に入れば安泰だ、よかったねマコト」
何を言ってるのだ?
この二人は。
「いえ、カーチスさまのおすすめで、聖女派閥を作る事になりました」
「「「……」」」
なぜに、そんなに驚いているのだ?
お養父様は歴史学者だから、国王派閥では勢いのある新興派閥は止められないって、解るだろうに。
「なな、なにをしているんだマコトは?」
「ポッティンジャー公爵家派閥を止めるには派閥で対応しませんと」
「そ、それは解るのだが……、ブロウライト家の新派閥かね?」
「いえ、領袖は私なので、キンボール家の派閥ですね」
「うちが……、派閥の領袖? ブロウライト家、オルブライト家を差し置いてかい?」
「まあ、どうしましょう、派閥の長の家になるなんて、思っても見なかったわ、新しいドレスとか必要かしら、いえ、その前にあなたの礼服だわ」
「ま、まあ、小規模派閥でも、ポッティンジャー公爵家への牽制にはなるかな。参加している貴族は三つなのかね」
「三つの家の派閥では、勢力が少なくて対抗するには弱いかもしれないね」
「あ、いえ、なんだかどんどん膨らんでまして、いまは、どれくらいかな」
「公爵家一つ、侯爵家一つ、辺境伯家一つ、伯爵家一つ、子爵家一つ、男爵家がキンボールさまを混ぜて二つ、七家になってますね」
リンダさんが数えてくれた。
「こ、公爵家? ま、まさか……」
「アップルビー公爵家が入ってくれましたよ、お養父様」
「ば、ばかなっ!」
「あと、クレイトン侯爵家も」
「まてよ、クレイトンって、魔法省の長官の家じゃないか、マコト!」
「はい、お義兄様、エルマーさまとクラスで仲良くなったので」
「六日、六日でどうしてこんなに急成長しているんだね」
「さあ、それはよくわかりませんけど」
お養父様が泣きそうな顔をしていらっしゃる。
なぜだっ。
「黄金週間に派閥の立ち上げパーティをクレイトン家の人が開いてくれるそうなので、お養父様もお養母様も出席なすってくださいね」
「あ、ありえない、キンボール家は男爵家なのに、なぜ、公爵がいる派閥の領袖になるのだ? あああ、こんな事なら、マコトになんでもして良いと言うのではなかった」
「大変だわー、ドレスと礼服をしつらえないといけないわね」
「かあさん……」
お養父様、お養母様、がんばれー。




