第617話 宿屋の食堂で作戦会議
「やあ、つやつやだね、キンボールさん」
「ふ、湯上がりだと少しは色っぽくなるようだな聖女よ」
「あんたらもほかほかだな」
「凄く良い温泉だね、これは穴場だね」
「ジーンの風習では裸でお湯につかる事など無いのだが、どうしてどうして、なかなか良い物だな」
VIPさんたちにもホルボス温泉は好評でいいな。
これは温泉付きの教会保養所を建てて一儲けするべきかもしれない。
ヘルスセンターみたいのを作ったら流行りそうだな。
「作戦会議をいたしますので、そちらの大テーブルに移ってくださいませ」
「了解だよ、マーラーさん」
「マーラー? おお、あの暗闘のマーラー家の者か、存外美人であるな」
「ありがとうございますディーマー皇子、ヒルダ・マーラーと申しますお見知りおきを」
「うむ」
諜報系の人は各国首脳に顔を売っておくと色々と便利なのかもね。
さすがはヒルダさんだ。
コリンナちゃんとジェラルドが居ないが、二人は作戦にはあまり関係無いのでいいか。
カーチス兄ちゃんとエルマーが居ればいいね。
リーディア団長とガラリアさんを交えて、みなで大テーブルに座った。
「まあまあ、こんなに食堂が繁盛するなんて、初めてですわ」
「みんなが飲んでるお茶はなんですか?」
「そば茶ですよ、体によろしいのです」
そば茶! それは美味しそうだ。
「そば茶を人数分ください、あと、何かお菓子とかはありますか?」
「そば粉を使ったクッキーがございますよ」
「ではそれを、お蕎麦が特産なんですか?」
「ここら辺は土地が痩せているのでそば畑ばかり広いんですよ」
そっか、下のアチソン村のガレットのそば粉はホルボス村産なんだろうな。
日本そば打ちたいなあ。
だが、鰹節とか無いから大変だな。
おばちゃんが引っ込んでいき、そば茶とそばクッキーを持って戻って来た。
ああ、なんか懐かしい匂いだ。
「面白い匂いね」
「そうだねー」
こくりと飲む。
おお、そば茶だ、すげえ。
そばの味がする。
おっと、感動してる場合じゃ無い、作戦会議だ。
「これよりサイズ王国の遺児たる王子と王女救出の作戦会議を始めます。まずは立地から、彼らが閉じ込められている塔はどこにありますか」
ガラリアさんが口を開いた。
「お、王子と王女が幽閉されているのは、ジーン皇国の西側にある、皇弟領はドルガンツ城です」
「ドルガンツ城か、大陸北西部に抜けるリッケン街道を塞ぐ城塞だ」
私は収納袋から地図帳を取り出した。
ハーケン州のリッケン街道を指でたどる。
カロルとガラリアさんが地図をのぞき込んでいる。
「こ、ここです」
ガラリアさんが指さしたのは茶色い山岳地だった。
「遠いわ」
「う、馬で二週間ぐらいです。ここから」
「俺んちよりも遠いな、蒼穹の覇者号だと五時間ぐらいか?」
「飛空艇でも……、時間が掛かる……」
距離と魔力かあ。
「塔のどこに幽閉されてるの?」
「それは、皇弟の領地だから我はしらぬ」
「ち、地上三十クレイドの塔の最上階に 部屋が、あ、あって、そこに居ます……、見張りは……、諜報メイドが一人、き、騎士が三人、です」
ジーンにも諜報メイドがいるのか。
どのくらいの腕だろうか。
きっとやばくなったら王子と王女を殺す係なんだろうな。
「なぜ貴様は見てきたように言えるのだ?」
「ちょ、諜報系、な、なので、皇子さま……」
「そうなのか! 甲蟲騎士団というのは武張った者しか居ないと思っていた」
ガラリアさんは照れてへへへと笑った。
実際、虻を飛ばして見てきたんだろうな。
「地上に監禁されていれば、甲蟲騎士団の総力を使ってでも奪還したのですが、塔の場合、攻め込んで騒ぎを起こした時点で王子と王女に危害が加えられる恐れがありました、そのため手を出しかねていました、今回の聖女さまのお申し入れで救出の可能性が上がりました。何としても甲蟲騎士団はサイズの幼き王子と王女を助けたいのです」
リーディア団長が深く頭を下げた。
ガラリアさんもつられて頭を下げた。
「距離は解りました。作戦も蒼穹の覇者号に甲蟲騎士団とうちの剣術部を乗せて特攻すれば成功する可能性が高いです。問題は、魔力がいま無いので溜まるまで飛べないという事です」
ヒルダさんが発言をまとめてくれた。
「魔力が、無い?」
「はい、リーディア団長、蒼穹の覇者号の動力はマコトさまの光魔力です。そのため大変リーズナブルに飛行ができるのですが、ここの所沢山飛ばれましたので今現在は王都に帰るぐらいの魔力しか残っていません」
「そ、そんな」
リーディア団長は絶望の表情を浮かべた。
「なんだと、どうしてそんな……」
「主にあんたの船に追いかけられたからだよ」
「あっ」
覇軍の直線号と追いかけっこをしたせいで相当魔力を喰ったのだ。
あと、聖剣使ったりな。
「私がなんとか魔力を詰めるよ、がんばれば明後日ぐらいに飛べると思うよ」
「駄目よっ、何言ってるのマコト、今だって魔力切れでふらふらしてるのに」
「いや、だけどさ、カロル、時間が無いんだ、甲蟲騎士団がアップルトンに寝返ったという情報は必ず王都にいる皇国のスパイから本国に伝わる。たぶん三日もかからないと思う」
「で、伝書鳩を使いますから、二日ですね……」
「うへえ、その情報を飛び越して奇襲を掛けないと成功しないんだ、寝返りの情報が来たら、必ず王子と王女は場所を移される、そして見せしめに王女を殺すかもしれない」
「でも、マコト……」
「私は死んでも魔力を詰める、そして飛んで王子も王女も助ける、そうしたいんだ」
カロルは苦い顔をして押し黙った。
しゃーないのだ、やるしか無いのだ。
【マスターマコト、よろしいですか】
「あ、はい、エイダさん、何ですか? 学者さんが何か悪さでも?」
【なぜ増槽をお使いになられないのですか?】
「なぜって、空っぽの増槽を船にくっつけたら魔力の蓄積量は上がるかもしれないけど、私が入れないといけないでしょ」
【今格納庫に三本の増槽があります。確認した所、満タンです】
「は?」
【マスタービアンカが満タンにして時間停止の魔法を掛けてくださっていたようです。今から蒼穹の覇者号に増槽の取り付け作業を行いますか】
「今すぐ取り付けて!!」
【了解しました】
うおおおっ!!
ビアンカ様、愛してるぜーっ!!
光魔力が満タンの増槽タンクが三本!!
こりゃあ。蓬莱にだって飛べるぜ、やっほーっ!!
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