第613話 蒼穹の覇者号をホルボス山基地に入れる
リーディア団長と握手をして交渉は成立である。
「とりあえず、ホルボス村視察の人達と学者さんを下ろしてから計画を詰めよう」
「わかりました、全て聖女さまにお任せします」
ディーマー皇子が胸をなで下ろしていた。
「では、我を暗殺する事はもう無いのだな」
「もう必要がありませんので」
「助かる、これでアップルトン観光を思い切り楽しめる」
「皇子は親善訪問の仕事をしろよ」
「も、もちろんだ、それは」
まったくディーマー皇子は困ったもんだな。
「あ、あと、蠅の甲蟲騎士がいるよね、意見を聞きたいから紹介してくれる?」
「蠅? あっ、虻ですか、まさか気がついておられたとは!」
「虻なのか、蠅だとばっかり思ってたよ」
「蠅ってなんだ? 聖女」
「まあ、気にするな皇子」
知らなければ教えるほどの物でも無い。
こいつは絶対欲しがるしな。
「ガラリア、出てこい」
「は、はい、リーディアさま……、お、およびですか?」
ガラリアと呼ばれた甲蟲騎士さんは緑色の甲冑に身を包んでいた。
目付きが悪くて顔色が悪くておどおどした感じの少女だった。
ふわー、ふわーっ。
私はテンションが上がって前に出て、ガラリアさんの手をがしっと握った。
「ガラリアさんっ、お友達になろうっ!!」
「へ、あ、ななななな、なんでございますかっ、聖女さまっ?」
「あなたの事が気に入ったわ、マコトって呼んでっ」
「え、いや、その、そんな、お、恐れ多いっ」
いやあ、何というか前世の腐女子の親友のマコちゃんにそっくりだ。
仲良くなれそうだなあっ。
一晩中推しの話をして盛りあがろうぜっ!
「王子と王女が閉じ込められている塔の情報、あるわよね」
「あ、あります……」
よしよし、現場潜入系諜報者ゲットだぜ。
なんだか諜報系ばっか増えるな。
「じゃあ、リーディア団長とガラリアさんは船に乗って、あとの甲蟲騎士さんたちは甲胄を脱いで村でくつろいでいて」
なんだかほっとした感じが甲蟲騎士さんたちからした。
気を張ってたんだろうね。
私はクロを小脇に抱えて立ち上がり船へと向かった。
ディーマー皇子がムスッとした顔であるが、まあ、しゃーねーだろ。
お前の親のやり方が悪いし、自身で敵を寝返らせる事を思いつかないのが悪い。
船に入ると廊下で王家主従が待ち構えていた。
「やったな、キンボール。アップルトンとしても甲蟲騎士団を受け入れるのにやぶさかではないぞ」
「ホルボス領の地つきの騎士団として登録しようね」
「う、うん、そうだね」
「うむ、素晴らしい朗報だ」
王家主従にとっては棚ぼたの戦力だから嬉しいだろうなあ。
給料も払わなくて良い訳だしさ。
メイン操縦室に入るとカロルがテーブルをマジックハンドで回収していた。
「おう、聖女派閥に騎士団が出来たな」
「うはー、そうなるのか」
「今度、お手合わせしましょう、リーディアさん」
「は、はい、喜んで」
カーチス兄ちゃんはあいかわらず武闘派だな。
「テーブルと椅子の回収終わったわよ、マコト」
「ありがとうカロル」
「まずは基地に飛空艇を置くか、マコト?」
「そうだね、コリンナちゃん」
私はアダベルにクロを渡した。
「おお、お前とお前、椅子に座りなさい」
「はい、ありがとうございます」
「ど、どうも」
アダベルが甲蟲騎士さんの甲胄を引っ張ってベンチに座らせた。
「なんて豪華な魔導機器かしら……」
「すごいですね……」
「凄いでしょー、この船っ」
いや、なぜアダベルが誇らしげか。
「エルマー、お願いね、ホルボス山基地に船を入れて」
「わかった……」
エルマーが舵輪を握り、出力レバーを押し上げた。
頭上でファンファンとプロペラが鳴る。
ふわりとした浮遊感と共に蒼穹の覇者号は空に浮かんだ。
んで、すぐそこの渓谷の岩棚に降りていきホルボス山基地に入った。
私は伝令管を開いた。
「お知らせします、こちらは艇長のマコト・キンボールです。本艇は到着時刻を大幅に遅延しましたが、無事ホルボス山基地に到着しました。お忘れ物の無きよう、押し合わず下船してください」
私は艇長席から立ち上がった。
「さて、リーディアさん、悪いのだけど先に乗客を降ろして、ホルボス村に領主の就任の挨拶をしてきますね。作戦会議はその後で」
「かまいません、あの、付いて行っても良いですか。団員が住む場所の確認もしたいので」
「ええ、良いですよ」
もうすでにメイン操縦室の外では学者さんが下り始めたらしく、どやどやと人声が聞こえる。
「私たちはどうしましょうか」
「グレーテ王女とディーマー皇子も一緒に村に来たら? もう脅威は無いから外でも泊まれるでしょう」
「ああ、そうだな。一緒に行こう」
「村で泊まれますのね」
「温泉もありますよ」
「それは楽しみだわ」
アンヌさんがドアを開けて入って来た。
「マコトさま、お客様はみな下船なさいました」
「それでは、私たちも下りましょう」
メイン操縦室のクルーとベンチに座っていたアダベルや甲蟲騎士さんたちがぞろぞろと部屋を出て行く。
私は艇長だから最後なのさ。
ホルボス山基地に降り立つと山の上なので結構寒いね。
そして、学者さんたちが魔導カタパルトに取り付いて研究しておる。
「これは、ガドラガ大玄洞で見つかったカタパルト装置を移転した物か!」
「あの断片から、実用になるまで復元するとは」
「あー、やはりドワーフ山の技術だな、さすがだね」
うーん学者さんは放っておこうかな。
「わ、私も行ってくるよマコト」
「だめですー、村長さんに挨拶もありますし」
「だが~~」
だがー、じゃないですよお養父様。
「さあ、行きますよ」
「はい……」
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