第612話 交渉はまとまりリーディア団長は涙を流す
「聖女~~!! お前、どういうつもりかっ!!」
どどどとディーマー皇子がメイン操縦室にやってきた。
「なりゆきだ」
おっと、後ろにお養父様と王家主従も見えるな。
「カーチス、発光ハンカチはある?」
「ん、どうするんだ?」
カーチス兄ちゃんのハンカチを貰った。
魔力を入れて光らせる。
「外に出て、交渉してくるよ」
「危ないわよ、マコト」
「一番上が話を付けないと駄目なんだよ」
「でも……」
「カロルは操縦席で見ていて。何かあったら撃っていいわ」
「わ、解ったわ」
アダベルが立ち上がって私の方へクロを出した。
「マコト、クロを持っていけ」
「な、なんで?」
「モフモフとして可愛いので心が安らぐ」
「あ、はい……」
相変わらず何を考えているのかアダベルは解らないな。
とりあえずクロを小脇に抱えた。
廊下に出てハッチの方に行こうとしたら、皇子がついてきおった。
「なんだよ」
「わ、我も同席しよう、ジーン皇国としては傘下の騎士団が寝返るのは避けたい」
「甲蟲騎士団って正式にジーン皇国傘下なの?」
「それは……」
「叔父様、皇弟閣下の私兵だと思いますわ」
グレーテ王女が教えてくれた。
「じゃあ、いいじゃん」
「だがっ」
「うるせえ、居ても良いけど邪魔すんなよ」
「わ、解った」
「では、私が護衛しよう」
ナーダンさんが皇子の後ろに付いた。
「グレーテ王女は?」
「私は操縦室で成り行きを見ていますわ、寝返らせてくださいませね、聖女さま」
「まかせて」
私たちはハッチから降りた。
高台だから景色が綺麗で良い風が吹くね、ここは。
将来は展望台とか作ろうかな。
光るハンカチを振りながら甲蟲騎士団に近づく。
金甲虫のリーディアは仮面を下ろして素顔を見せている。
やっぱりこの前すれ違った女の人だな。
ちょっと困ったような顔をしている。
『マコト、テーブルを出す?』
「いいね、お願い、カロル」
蒼穹の覇者号のマジックハンドが動いてテーブルと椅子を四脚地上に降ろしてくれた。パラソル付きだ。
ダルシーとアンヌさんが現れてテーブルをセッティングしてくれる。
私は飛空艇側に座り、皇子にも勧めた。
甲蟲騎士側はリーディア一人だ。
クロをテーブルの上に置いた。
大人しくしているな。
「で、リーディア団長は教会に寝返る気はある?」
「……王子と王女が幸せに暮らせるなら、あります」
「で、では、帝国の皇太子たる、我に寝返れ! 我が王子と王女を助けてやろう」
横入してきたディーマー皇子をリーディア団長は冷たい目で見た。
「私はジーン皇国の皇族を信用できない、皇帝は降伏条件として王と王妃の命を要求し、皇国の傘下に入れば属国としての存続を許す、という事であったのに、サイズ王国を占領後に軽々とそれを破り、旧王府の貴族を粛正し、王子と王女をさらい、国を滅ぼした。ディーマー皇子はそれについて何か申し開きができるのか?」
「そ、それは……」
「私が聖女さまを信用するのは、甲蟲騎士の負傷者を分け隔て無く治療してくれた事からだ。テロリストの我々なぞその場で打ち殺されても文句は言えない所だ、だが、聖女様は人間として扱ってくださった。だから話を聞きたいのだ」
ぐぬぬ、とディーマー皇子は唸った。
「皇子、甲蟲騎士団が欲しければ自分で動く事だよ、旧サイズ王国領を皇弟から分捕って善政を布けば、リーディア団長も話を聞いてくれるだろうさ」
「そ、そうか、そうすれば、あなたは話に乗ってくれるか?」
「良いだろう、サイズの民が安堵できるならば、我々も望む所だ。善政を布き、降伏条件時の属国に戻してくれるならば、皇太子に忠誠を誓わなくもない」
「わかった、努力する」
「では、それまでは、甲蟲騎士団は、この私の領地、ホルボス山で生活しなさい。もしもジーン皇国とアップルトンとの戦争になったら参加してもらうし」
「それは、気持ちが高ぶります。是非、我々をジーン皇国との戦争にお使い下さい」
「かんべんしてくれ」
皇子がげんなりとした顔をした。
戦争しなきゃ良いんだよ。
「さて、王子と王女はどこに?」
「ジーン皇国の皇弟領に捕らわれています。救出はどうやってするつもりですか?」
リーディアは蒼穹の覇者号を見上げた。
「そう、飛空艇で殴り込む。王子と王女が閉じ込められているのは塔、蜻蛉二匹に蜂ではかなわないぐらいの戦力が詰めている、合ってる?」
リーディアは目を丸くした。
「合っています、甲蟲騎士団の戦力では瞬時に塔は制圧出来ず、王子と王女を殺されてしまうのでこれまでは手が出せませんでした、ですが……」
彼女はうっとりと飛空艇を見上げた。
「とりあえず、魔導機関銃で壁をぶち破り空中で王子と王女を救出する。迎撃に皇国飛空艇はでてくるかな、皇子?」
「うむ、天頂の彗星号は帝都だし輸送船だ、皇弟領まで迎撃に出る事は無いと思う」
「覇軍の直線号じゃなきゃ蒼穹の覇者号には追いつけないし、行けそうね」
「ほ、本当にお助けくださるのですか?」
「うん、とっととこのドタバタは終わらせたいわ、アップルトンにはなんの得もないしね」
「おねがいします、おねがいします……」
目にいっぱいの涙を浮かべてリーディア団長は泣いた。
うんうん、辛かったね。
うつむいたリーディア団長の頬をクロがポンポンと前足で叩いた。
よし、交渉締結。
だが、ジーン皇国の皇弟領までの魔力をどうしようかねえ。
溜まるまで待つのもなあ。
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