第611話 蒼穹の覇者号でホルボス山視察へ
「お知らせします、こちらは艇長のマコト・キンボールです。本日は蒼穹の覇者号にご乗船ありがとうございます。本船はホルボス村に向けビアンカ基地を発進します。到着予定時刻は三時ちょうど、飛行時間は約三十分となっております」
私が伝声管で船内アナウンスをすると、エルマーが出力レバーを押した。
今日はエルマーが操縦してくれるのだ。
バッバッバッバと四枚のゲートが開いていく。
エルマーは微速前進で蒼穹の覇者号を前進させていく。
飛空艇は峡谷に飛び出し上昇を始めた。
エルマーも上手くなってるな。
い、いかん、私の艇長としての威厳が……。
高度を上げるとホルボス山が遠くに見える。
空を行くと結構近くなんだよね。
「エイダさん、甲蟲騎士は感知できる?」
【甲虫タイプは可能です】
魔力蠅は無理か~。
サンプルがあれば大丈夫そうだけどね。
「甲虫タイプを探査してみて」
【了解しました】
ピッピッピという音と共に王都の地図上に光点が現れた。
映像も映し出される。
ぬおー、屋根の上を走って追いかけてるな。
ひときわ目立つ金騎士と銅色の一般甲虫が十匹ほどだ。
離れているので見つからないと思っているなーっ。
しかし、速度が結構速い。
城壁を飛び越し、ヒューム川の川岸から跳び上がり、船を足場に渡りきりおった。
「すごい運動能力ね」
「すげえな、やっぱり強いぜ」
メイン操縦室には、副操縦席にカロル、機関士席にエルマー、火器管制席にカーチス、航法士席にコリンナちゃんがいる。
そして、後ろのベンチにはアダベルがクロを抱いて座っていた。
「おー凄い、クロも見ろ」
「にゃーん」
イケボで鳴くなクロ、吹き出しそうになるぞ。
「村でまちかまえる?」
「村だと住民が巻き沿いになるかもねえ」
「それはいかん……」
さて、このまま反転して魔導機関銃で撃退するか?
うーん、森の中に隠れられるとやっかいだしなあ。
「エイダさん、ホルボス山の地図を」
【了解しました】
私は席を立って航行士席に行った。
ここはディスプレイがテーブルになってるので見やすいし、他の人の意見も聞きやすい。
「どこか切通みたいな逃げられない場所があればいいのだけれど」
「どこもひらべったいな」
「逃げにくければいいんだろ、ホルボス山山頂で待ち構えて、上がって来た所に魔導ミサイルでどうだ?」
「ふむ、それは一理あるね」
さすがはカーチス兄ちゃん戦略眼があるな。
【最適位置を算出します】
地図上にホルボス山山頂での最適な待ち伏せ位置が表示された。
「向かう……」
甲蟲騎士を片付けてからホルボス山基地に入るか。
エルマーが舵輪を動かしてホルボス山に向けて飛行する。
ホルボス山はテーブルマウンテンと呼ばれる台状の山だね。
前世では上州の荒船山みたいな感じだな。
蒼穹の覇者号はホルボス村上空を通過。
甲蟲騎士はこちらの方向を確認するように街道近くの森の中を高速で移動中だ。
森の中も早く動けるのだな。
森林兵なのか。
ホルボス山山頂へと飛空艇は到着した。
エルマーは舵輪を回して船体を反転させた。
細かく位置取りをして、着陸脚展開、着陸した。
よし、この位置なら山に登りきらないと船は見えないな。
平たい岩棚みたいになっていて見通しがいい。
頂上には這松のような低木しか生えていなかった。
甲蟲騎士はこちらを見上げながら追っていたから船には魔力蠅は付いていないようだ。
状況を確認されちゃうと不意打ちができないからね。
【甲蟲騎士の登攀予想コースはこうなります】
地図上に甲蟲騎士が登ってくるであろう赤いラインが引かれた。
待つ。
待つ。
地図上に甲蟲騎士の光点が灯った、赤い線上をまっすぐ駆け上がってくるようだ。
『聖女よ、なぜ止まっている』
「うるさい、黙ってろ」
『ぐぐっ』
だまってお養父様と談笑しておれ。
皇子め。
「エイダさん、私に武器管制を」
「お、おい、マコト、俺がやるよ」
「いや……」
なんか、なんかね。
「私がやるっ」
「そうか……」
【艇長席に武器管制を移行、トリガーハンドルを展開します】
ガチャコンと現れたハンドルを握る。
「魔導ミサイル発射準備」
【魔導ミサイル発射管、一番から四番、五番から八番、開きます】
下の方でカシャコンと音がした。
地図の光点が頂上に近づく。
キラキラした金甲虫と赤い銅甲虫の姿が見えた。
待ち構えている蒼穹の覇者号を見て、甲蟲騎士達は動きを止めた。
私は伝令管の蓋を開ける。
「止まれ! こちらは魔導ミサイルでお前達を狙っている」
金の甲蟲騎士はゆっくりと手を上げた。
ここで甲蟲騎士を殲滅するのは簡単なんだが……。
どうしようか……。
『ディーマー皇太子をこちらに引き渡して貰いたい、グレーテ王女は必要はない』
「そんな事は出来ない事は解っているだろう」
『解っている、だが、我々はそうしなければならないのだ、聖女よ』
「皇子の首を持って帰っても、お前達は殺されるだけだぞ」
『知っている』
「では、なぜだ? 首を持って皇弟を襲おうとしても無駄だぞ、向こうもそれくらい折り込み済だろう」
『聖女よ……、亡きサイズ王国の王子と王女が皇弟に捕らわれているのだ。幼い遺児なのだ、我々は騎士として本分を尽くしたい、双子の王子と王女を助けるためならばこの身が滅びようとも何の悔いも無い、頼む、この通りだ』
金の甲蟲騎士はホルボス山の岩稜にひざまづいて頭を付け土下座をした。
「……そうか、お前達が馬鹿なのはよく解った。一度だけお前達に素晴らしいアイデアをだしてやる、良く聞け」
「マ、マコト……」
カロルがなんかドン引き声を出した。
「甲蟲騎士団はアップルトン、いや違う、この私、聖女マコト・キンボールに寝返れっ!」
「は?」
「「「「「は?」」」」
は? が船の内外から聞こえた。
クロの声までしたぞ。
「助けてくれと聖女に懇願しろ、双子の王子と王女も私が助け出してやるっ!!」
「ええっ!?」
「「「「「ええっ!?」」」」
いや、船の内外でハモるなというんだっ。
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