第607話 飛空艇でチョコボンボンを分け合う
蒼穹の覇者号に入った。
皇子と王女は奧に入って行った。
私はメイン操縦室へ。
帽子を被ったカロルが振り返って笑ったよ。
「マコト、お疲れ、具合はどう?」
「マジックポーションを飲んだからまあまあ大丈夫」
「そう、気を付けてね」
嫁の気遣いが嬉しいぜ。
私はカロルに折り詰めを渡す。
「お料理貰ってきたよ」
「ありがとう、お腹がペコペコだったの、アンヌお茶を入れて」
「はい、お嬢様、ただちに」
アンヌさんが現れてメイン操縦室を出て行った。
「わ、チョコボンボンが三つも、嬉しい」
「レセプションが中止になったから結構余ってたよ」
「そうなんだ、沢山持ってくればいいのに」
私は収納袋から自分の折り詰めを出し、ずらりと並んだチョコボンボンを三つ、カロルの折り詰めの中に入れた。
「わあ、ありがとう。マコト大好きよ」
「えへへ、抜かりはないのだよー」
ああ、カロルとお話していると、胸がほっこりするなあ。
私もカロルが大好きだよ。
「さて、格納庫に帰ろう」
「私が操縦するから、マコトはラウンジに行って、皇子さま達の相手をしていてよ」
「いや、悪いよ」
「大丈夫、任せて。マコトはホウズ使って魔力切れかけでしょ」
「うん、まあ、エッケを持ってくるんだったと思った」
「飛行タイプの甲蟲騎士がいるなんてねえ。想定外だったわ、まだ居るかしら」
「もう居ない、居たら今日出しているはずよ。蜂があと一人いたら危なかった」
「モニターで見ていたけど、大変だったわね」
アンヌさんがお茶を運んできた。
カロルは脇机にお料理を広げた。
「あ、まだ暖かい、おいしいわね」
「アダベルが全種制覇していたよ」
「あの子は食いしん坊よね」
「どうぞ」
アンヌさんが私にもお茶を入れてくれた。
「ありがとう」
良い匂いのハーブティーだ。
美味しい。
カプリカプリと飲んで飲み干す。
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いするわ」
「任せて、食事が終わったら飛ぶから」
「ゆっくり食べてね」
「うんっ」
私は手を振ってメイン操縦室を後にした。
廊下でメイドさんとすれ違う。
なんだかもう、客室は皇国領みたいだな。
螺旋階段を上がってラウンジに入ると、皇子と王女がどっしりとくつろぎながら折り詰めを食べていた。
「おう、来たか聖女よ。お前はもう食べたのか」
「会場で食べましたよ」
「王城のお料理はおいしゅうございますね」
「そうだな、アップルトン料理は素晴らしいものだ、コックを連れて帰りたいぐらいだ」
「なんでも欲しがりなさんな。ジーン皇国の料理はどうなの?」
「宮廷の料理は、まあ、美味いな」
「味が濃いんですわよ」
「そうなんだ」
私はソファーに座り込んだ。
「しかし、蜂に蜻蛉は想定外だった、びっくりしたよ」
「ああ、あの蜂がやっかいだったから日程を早めたのだ」
!
「おまっ!! なんでそれを私に伝えてないんだっ!!」
「……言ってなかったか?」
「言ってませんわ、お兄さま」
「そ、それはすまんっ、こんなに早く蜂と蜻蛉が皇国から来るとは思わなかった」
存外素直に皇子は頭を下げた。
くそー、蜂の事を知っていれば、いろいろ対策が取れたのに!
「他に甲蟲騎士の種類は無いんでしょうね」
「我が見たのは、普通の甲虫と蜂と蜻蛉だけだな」
「そうですわね、蜂によってかなりの兵が死にましたわ。毒針が凄いんですの」
そうか、蜂は結構アップルトン人に遠慮してたのか。
ブルブルと船体が振動し、ファンファンとプロペラの音がした。
ふわりと浮遊感がして、蒼穹の覇者号が動き出した。
窓から王都の夜景が見えた。
皇子が片手にワイングラスを持って窓際に立った。
「素晴らしい。夜のアップルガルドは宝石のようだな」
何をかっこつけておるのかっ。
「あらあらあら、これは美味しいですわ」
「なに、どれを食べたのだ」
「普通のチョコレートだと思ったのですが、中にブランデーが入ってますわ」
「おお、これは確かに美味しいっ」
洋酒入りチョコボンボンは皇子と王女にも好評のようだな。
「あと、一個ですわ」
「ぐぬぬぬぬ」
折り詰めのチョコボンボンを真ん中に置いて皇子と王女がにらみ合いを始めた。
私は収納袋から自分の折り詰めを出して真ん中に置いた。
「おおっ!」
「ああっ!」
「チョコと砂糖なんであまり食べると太るよ」
「そうか」
「そうですか」
返事をしながらも彼らのチョコボンボンを運ぶ手は止まらなかった。
「これは美味いな、製法は秘密か!」
「街の本屋に行ってお料理の本でシュガーボンボンの作り方を書いてあるのを買うんだね、それにチョココートしたら、これよ」
「シュガーボンボンは帝都でもありますわね」
「では、チョコだな、うむ、宮廷の料理人に作らせよう」
甘い物はやっぱり全世界の共通語なんだな。
私はチョコボンボンを口に運びながらそう思った。
うは、ブランデーキツイ。
飛空艇は夜の中を飛び、格納庫にバックで入っていった。
カロル上手いな。
トンと突き上げが来て船が地上に下りたのが解った。
前面のゲートが外から一枚ずつ閉まっていく。
「今日もすまなかったな聖女よ、感謝するぞ」
「気にしなさんな」
「明日はホルボス山とやらに外遊ですわね、甲蟲騎士は来るかしら」
「来るね。ただ、来たらちょっとおびき出して一網打尽にするつもりよ」
「おお、そうか、それは助かる!」
「危ない事はしないでくださいましね、聖女様」
「大丈夫だよ、グレーテ王女」
なんか、アレだな、皇子と王女とも、すっかり仲良くなってしまったな。
知り合うと何でも許しちゃうのは、私の悪い癖だぞ。
気を付けないとな。
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