第606話 戦い済んで後始末と折り詰め
「良くも私に恥をかかせてくれたな」
皇子が縛られた蜂と蜻蛉二人の近くに行き、剣を抜いた。
私は前に出た。
「なに勝手にアップルトンの罪人を斬ろうとしてんだよ」
「だ、だが、こやつらのせいで……」
「やめろ、殺したらどこから情報を引き出すんだ」
「ぐうっ」
「お兄さま、聖女さまの言うとおりですわ」
皇子は悔しそうな顔で剣を収めた。
「今日の所は聖女の顔を立てて生かしてやる、だが皇国に帰ったら只ではすまんぞ」
三人の甲蟲騎士は、へっと鼻で笑った。
リンダさんが大ホールに駆け込んできた。
「マコトさま、ご無事ですか!」
「特に被害はないよ、下はどうだった?」
「甲蟲騎士が十人ほど現れて交戦、一人を斬りましたが他は逃げました」
下でも陽動の兵が動いていたのね。
サーチ。
カアアアアン!
魔力蠅が五匹、目立たない場所に居るな。
くっそ、めんどうくさい。
退治しても良いんだけど、蠅の事に気がついてるとばれるし。
難しい所だな。
アダベルが死んだ蜂をつついて遊んでいた。
「罪人どもを大神殿に移送しろ」
「「「はっ」」」
聖騎士が甲蟲騎士を引き立てようとしたら、フランソワ団長が立ち塞がった。
「甲蟲騎士を全員、聖騎士団が独り占めするつもりかっ」
「その通りだ、フランソワ団長、蜻蛉はマコト様が斬った者、蜂は聖女さまの派閥員が捕らえた者だ、何がおかしいかっ!」
「リンダ、貴様あ、たかが隊長の分際で生意気だっ!! 大ホールの警備は近衛騎士団の管轄であるっ!! 罪人は全て、近衛騎士団が貰う!!」
「やってみろっ、腰抜け近衛に死人がでるぞっ!!」
聖騎士たちが一斉に剣の柄に手を掛けた。
対して近衛騎士団も剣の柄に手をやる。
「あー、待って下さいよ、二方、そんなに怒っちゃあいけません」
ヘラヘラ笑いながらローランさんが間に入った。
「フランソワ団長、甲蟲騎士を『塔』に持ち込んで尋問しようってんですよね」
「そうだっ!!」
「どうも、甲蟲騎士に下水道を案内してるアップルトンの国民がいる事には気がついてやすよね」
「そ、それは、いるようだな」
「でしたら大神殿で拘留しましょうよ。あそこは聖女さまを裏切る奴は一人もおりませんぜ」
「ぐうううっ」
「「「よろしくおねがいします」」」
ジャックさん、リックさん、コロンブさんの近衛騎士の三勇士が頭を下げた。
ハゲは悔しそうだ。
「ローランさんありがとう」
「なんのなんの」
ローランさんはにっこりと笑った。
新品の聖騎士の服が良く似合ってるよ。
「マコト、お腹がすいた」
アダベルが私の袖を持って引っ張った。
「ご飯食べて帰ろうか」
さすがにこの状況ではパーティは続けられないだろう。
私はアダベルの手を引いて立食コーナーへと向かった。
学園長は王様と壊れたステンドグラスを指さして何か相談しているな。
あれを修理するとなると凄く時間がかかりそうだなあ。
立食コーナーに行くとご馳走が沢山並んでいるのに、お客さんはいなかった。
まあ、ご飯の雰囲気じゃないよね。
「蜂とか来ませんでしたか」
「あっはっは、お盆で叩いてやったわよ」
おお、凄いメイドさんだ。
たのもしい。
「ここで食べて行きますか、それとも折り詰めにしますか?」
「お、折り詰めにもできるんだ」
「こういう時には食事どころではない人が多いので、折り詰めにするんですよ」
そうか、お料理勿体ないものね。
「どうする、アダベル?」
「食べるし、折り詰めも持って帰る!」
食いしん坊だなあ。
「はい、ではお皿をお持ち下さいね」
「わかった、この前と一緒だなっ」
アダベルはお皿を持ってテーブルに走っていった。
私もお皿を貰って、お料理を乗せる。
あとでカロルのために折り詰め持っていってあげよう。
私が食べていると、カーチス兄ちゃんとエルザさんがやってきた。
「第三波は無いか?」
「もう無いね、三波目が来るんだったら、重ねないと」
「一段落ですわね。でも蜂は強敵でしたわ」
「ホウズの光の刃はかっこ良かったな。いつものマコトより振りが上手かったが」
「ああ、あれはビアンカさまの動きよ」
「あの動きを教えてくれるのは便利だよな」
「リジンには女性の動きの記憶が少ないのでこまりますわ」
パクパク食べながら、カーチス兄ちゃんとエルザさんと話した。
その間もアダベルがテーブルを駆け回って食べ散らかしていた。
やっぱり王宮のお食事は美味しいね。
私たちが食べていると、だんだんと人が集まって来て食事を取り始めた。
ここで食べて行く人と、折り詰めを持って帰る人と半々だね。
「ふーっ、食べた食べた。折り詰め頂戴、アレとアレと、その青いのと……」
アダベルがメイドさんに折り詰めに料理を入れて貰っていた。
あれもこれもと頼んだので折り詰めが三つぐらいになったぞ。
王様が壇上に立った。
「さて、みなの者、今日は災難であったな。アップルトン王城に暴漢が暴れこんでくるなぞ、何百年ぶりであろうか。みなも怪我は無いか? 小さな傷でも聖女さまに治してもらうんじゃぞ。今日はこんな次第となったがディーマー皇子とグレーテ王女はまだしばらく王都におる。次の機会もあろう。では、これにて歓迎レセプションを終わる」
わあっと拍手が轟きわたった。
「さて、皇子たちを送って行くよ、みんなありがとうね」
「なんのなんの」
「それは言わない約束ですわ」
「また、明日なあ、マコト」
みんなに手を振って私は皇子たちに近づいた。
「さあ、帰ろうよ」
「そうだな、なんだか盛りあがらなかったが」
「しかたがありませんわ」
皇子が私の持つ折り詰めを見た。
「それはなんだ?」
「お料理の折り詰め、あそこで貰えるよ、あんた達も貰ってくれば?」
「うむ……。サラ、行ってこい」
「はいっ!」
皇国メイドのサラさんが食べ物ブースに走った。
「じゃあ、あんた達は飛空艇に、あの中ならだいたい安全だし」
「そうですわね、助かっています」
「とても快適だ。感謝している」
「お客さんだから気にすんな」
テラスに向かう途中で、エルマーとヒルダさんが居た。
「領袖、お帰りですか?」
「うん、ヒルダさんもありがとうね、蜂騎士を捕まえてくれて」
「遠距離型ですからね、接近戦は弱かったですわ」
「エルマーもありがとう」
「アダベルに……、蜂落としで……、負けた……、くやしい……」
「あの子のはブレスだからね、しょうがないよ」
「広範囲魔法を……、おぼえねば……」
がんばれ。
私たちはテラスに出て、蒼穹の覇者号のタラップを上がった。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




