第60話 諜報メイドの面接は難航する
リンダさんに連れられて大聖堂の東側階段へ。
「地下?」
「はい、地下に呼んであります」
「なんで?」
大聖堂の地下って言ったら、牢獄と拷問室しか無いでしょうが。
「教会諜報女官の本部は地下にあるんですよ」
「へー」
なんだよ、そのスパイアクションドラマみたいな設定は。
リンダさんと一緒に階段を降り、地下へと侵入した。
かび臭くて薄暗くて、陰気な所だね。
両方を牢屋に挟まれた廊下を歩いて行く。
カツンカツンと足音だけが響く。
牢屋には人はいない。
「今は捕まえている人は居ないのね」
「そうですね、今代の教皇様は温厚なので」
温厚で無い教皇さまだとここが使われるのね。
やだやだ。
廊下の奥に重厚な扉があり、リンダさんが開いてくれた。
意外に明るい室内に、三人の女性が座っていた。
「聖女様、これが選ばれた諜報メイドです」
ふむふむ、おばちゃんに、細い女性、あと暗そうな女の子か。
「こんにちは、マコトです」
「こんにちは、聖女様、お目にかかれて光栄ですわ」
「聖女さま、ご機嫌はいかがですか?」
「こんにちは……」
私は三人の対面に座った。
リンダさんが私の後ろに立つ。
「学園で、私付きの諜報メイドが一名必要なの、それぞれ自己紹介と得意な事をおしえてください」
おばちゃんと女性は嬉しそうににっこり笑った。
女の子は無表情だな。
「私からやらせていただくわね。私はジェシーです。ハウスメイドとしての実力が高いです。諜報方法は気さくなおしゃべりで広く情報を集めますわ」
ジェシーさんは家政婦型の諜報メイドさんか。
これはこれで有能かも、戦闘はできなさそうだけどね。
色々な所で秘密を目撃しそうだ。
「ハナです聖女様。わたくしはデスクワークを得意とします。情報の分析精査を得意とします。メイドとしてはいまいちですが、確実にお役にたてます」
情報分析官系かあ。
有能そうだね。
ただ、学園だと解析するほどの情報量はなさそうだけどな。
「ダルシー。家事も諜報も何もできないわ……」
ふむう。
リンダさんの方を見る。
なんで、こんなの連れてきた?
「とりあえず、戦闘力はありますので」
「なるほど」
「あたしはジェシーをおすすめしますね。ハナは有能ですが、学園では持ち味を発揮できないでしょう」
そうだね、私もそう思う。
ジェーシーさんに決めようかな……。
なんか。
ダルシーが気になる。
なんだろ。
「ダルシーは諜報技術をどこで習ったの?」
「……」
ダルシーはぼさぼさの前髪で目を隠している。
歳は私と同じぐらいかな。
地味な感じだなあ。
「メイドの里?」
「いいたくない」
「ダルシーッ、貴様っ、聖女様にっ!」
「リンダさん、黙って」
「ぐぬぬ」
「あなたのことをアンヌさんが、手練れだって言ってたわ」
アンヌさんが言っていた、神殿に入った手練れが、たぶん、ダルシーなのだろう。
しかし、なんで、こんなにやさぐれておるのだ?
「アンヌが……。そう、ですか……」
ダルシーは少しさびしそうに言うと、うつむいた。
「戦闘方法は?」
「素手」
なんか事情がありそうだなあ。
なんですか、私はやっかいな人が大好きっ子ですか?
本当にもうー。
「決めた、ダルシー、あなたが来なさい」
ダルシーは驚いた表情で私を見た。
「何があったかしらないけど、有能な人がやさぐれているのは気分が良くないわ。私と一緒に学園に来て、ダルシー」
「私は……」
「あたしは反対ですよ。こいつはやる気がありません」
「大丈夫、身の回りの世話はいらないし、諜報メイド激戦区の女子寮界隈で動くなら、体術が得意な方が安心だわ」
「まったく、聖女さまは変な人間が好きですね」
私の変人コレクションは、あんたが筆頭だよ、リンダさん。
「マコトさま……」
「なに?」
「私を、私を選んでくれるんですか?」
「選ぶよっ、ダルシーあなたは、私の諜報メイドだよっ」
ダルシーは天井を見上げた。
そして、大きく息をつく。
「わかりました、聖女さま」
ダルシーは頭を下げた。
「よろしくね、ダルシー、最初の仕事だけど、後で食堂のイルダさんから女子寮食堂のメニューをもらって、学園の女子寮まで届けてちょうだい」
「わかりました」
ダルシーは控え室を去っていった。
私は、ジェシーさんとハナさんに頭をさげた。
「ごめんなさいね、せっかく来ていただいたのに」
「いいのですよ、聖女さま、すべてはあなた様の思うままに」
「ダルシーは腕っ節だけは強いですから、よろしくしてあげてくださいね」
「あなたたちは、諜報メイドとして大神殿でがんばってくださいね」
「もちろんですわ」
「ご期待に添えるようにがんばります」
リンダさんが頭をかいていた。
「まったく引き立て役に連れてきた奴を選ばれては困りますよ」
「……選ばれそう、とか思ってたんじゃない?」
「否定はしませんけどね。聖女さまは趣味がお悪くていらっしゃるし。ダルシーも神殿でだらだらしているよりは良いかもとは思ってました」
そうだろうと思ったよ。
あと、ジェシーさんも、ハナさんも将来の私付けの諜報メイドなんだろう。
今日は顔見せだね。
こう見えて、リンダさんは意外にやり手なのだ。




