第600話 学園への帰り道、ダルシーと話し込む
学園に向けて王都大通りを歩き出す。
ダルシーと一緒に歩くのはなにげに新鮮。
いつもこの子は姿を隠してしまうからね。
「ダルシーはいつも、ご飯をどうしてるの?」
「午前中と夕方の空いた時間に取っていますよ」
むむ、何時も呼べば来るから、席を外している時間があるのは気がつかなかった。
一日二食なのか。
「お腹すかないの?」
「お腹がすいた時はメイド丸を食べます」
「なにそれ?」
ダルシーがポケットから缶を出して見せてくれた。
あめ玉ぐらいの大きさの物だな。
「食べていい?」
「はい、どうぞ」
パクリ。
あ、甘々、木の実を砕いて粉にして固めた物っぽい。
真ん中に蜜っぽい甘いどろっとした物が入っている。
「これを食べていれば結構持ちます」
「そういうのがあるのかー、どこで売ってるの?」
「先ほどの女中通りに三軒専門店がございます」
そうなのか、メイド丸かあ。
忍者の兵糧丸みたいな物だな。
ひよこ堂の前に出た。
「よお、兄ちゃん」
「おう、マコト、今度、飛空艇に乗せてくれ」
「いいよー、また今度ね」
「楽しみだー」
実家の家族も飛空艇に乗せてあげないとなあ。
お貴族さまが乗ってない時で、パン屋が暇な時って、結構レアだな。
「ダルシー、お兄ちゃんにメイド丸を渡して」
「は、はい?」
「ん、なんだこれ」
「メイドさんが仕事の合間に食べる軽食だって、ひよこ堂で作れるかな?」
クリフ兄ちゃんはポイッとメイド丸を口に含みかみ砕いた。
「お、面白い味だな、カシューナッツの粉かな、うんうん、出来るよ」
「よし、作ってくれ、メイドさん御用達らしいから売ろう」
「そうか、学園にはメイドさんが一杯だしな、面白い」
「たのんだぜー」
「ダルシーさん、作っておくから今度味見してよ」
「は、はい、よろこんで」
兄ちゃんに手を振って私たちはひよこ堂を後にした。
「あ、ありがとうございます、マコトさま」
「気にしないで、ひよこ堂で買えればダルシーも便利でしょうし」
「みんな喜びます」
「意外とみんな食べてるの?」
「はい、私のまわりは皆、食べていますよ」
それは何より。
メイドさんにはお世話になってるしね。
あと、メイド丸だが、ダンジョンに持っていく行動食にも良いな。
手軽に食べられて携帯に便利。
ガドラガ行きにには持っていこう。
学園の門をくぐった。
校舎の時計を見ると午後の授業が終わっているので放課後であるな。
あ、ホームルームをさぼった。
アンソニー先生に叱られるかもしれない。
まあいいけど。
「学園長は部屋にいるかな?」
「……、現在学園長さまは学園長室でお仕事中のようです」
「よしっ」
しかし、メイド人物探索能力は便利だなあ。
どうやっているやら。
ピッ。
と、サーチ。
カアアアアアン!
校内には四匹ほど魔力蠅がいるな。
しかし、監視されているのは不快だが、認識しているとばれる訳にもいかないし、面倒くさいな。
まっすぐ校舎に入って、職員室の向こうの学園長室へ。
ドアをノックする。
「はい、誰かね」
「こんにちは、マコト・キンボールです」
「おお、どうしたのかね?」
私は学園長室に入り、彼の机の上にドシャンと鞄を置いた。
「甲蟲騎士団からの慰謝料だそうです」
「おお、こんなに、どういう事だね」
私はリーディア団長からの手紙を見せて顛末を語った。
「そうか、なるほど。謝罪してきたか」
「まあ、許される事じゃあないんですけど、お金は助けになりますし。学園長権限で被害者に分配してください」
「わかった、預かっておこう」
「では、よろしくおねがいいたします」
私は学園長室を後にした。
あら。
ダルシーがおらん。
学園に入ったので姿を消したようだ。
すばやいな。
【マスターマコト、よろしいでしょうか】
「はい、なんですかエイダさん」
【グレーテ王女がお話があるそうです】
『あ、聖女さん? 私、歓迎レセプションの前にお風呂に入りたいのだけれど』
あー、そりゃ入りたいわな。
「メイドさんと一緒に地下道でお風呂場まで来て、そこで落ち合いましょう」
『助かるわ、さすがにシャワーだけだとね』
「私も出なきゃいけないから一緒に入りましょう」
『くっそー、ずるいぞ、我はっ?』
『お兄さまはシャワーをお使いなさいましなっ、殿方ですのでそれでいいのですよ』
『不公平だっ』
自業自得だ、馬鹿皇子め。
女子寮にはいり、階段を下りて大浴場の前に出る。
「あ、聖女さん、こっちこっち」
「こんにちは」
「さあ、入りましょう、今日は聖女の湯ではないの?」
「今日は違うね」
「残念ね~~、あの湯の元は売ってるの?」
「量が無いから売れないよ」
「んもう、持って帰りたいのに、すごい自慢が出来るわ」
外国用にもの凄い値段で売りつけるかなあ。
売れそうだから怖いな。
グレーテ王女と連れだってお風呂である。
中に入ると、何時ものお洒落部の二人とヒルダさんが居た。
「マコトさま、こんにちは。わあ、王女さまもごきげんよう」
「お先にいただいていますよ」
「こんにちわ、領袖、グレーテ王女殿下」
「こんにちは、みんな」
「あらあら、皆さんもこの時間なの?」
「今日はマコト様が早く来るかなと山をはりましたよ」
「夜からレセプションですものね」
そういやいつもより、ちょっと早いね。
私はかけ湯をして湯船に入った。
ああ、今日も良い湯だなあ。
「アップルトン式の入浴法は気持ちいいですわね、癖になってしまいそうですわ」
「もっとアップルトンの良い所を知って欲しいのに、無粋なテロリストが憎いですわ」
「そうですわ、そうですわ」
「ありがとうございます、メリッサさま、マリリンさま」
なんだか、お洒落組の二人はすっかり王女と仲良くなったな。
さすがは社交系のメンバーであるよ。
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