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第5話 納得できない二つ名が爆誕したんだよ

 こんにちわ、マコトです。

 現在、講堂前広場で、悪役令嬢ビビアン様と対峙中です。


 どうしてこうなった。


 いやあ、昨晩の、友情エンドを目指すため、ビビアン様は徹底的に避ける。という誓いはどこに行ったんでしょうねえ。

 まあ、友情エンドへの大切な相棒、カロルが虐められていたら、切れますな、前に出ますな、ビビアン様とでも対決しますよな。

 友情のためなら、命でも捨てられる女なんだぜ、あたしゃあ。


 カロルの隣に出ると、ふんわりとラベンダーのような良い匂い。

 うっはー、カロル、小さい、かわいい、栗毛のくるんくるんで愛くるしい。

 あー、よだれでそう、でそう。

 尊い、萌える!


「え、えと、キンボール様、お気持ちはありがたいのだけど、あのお方は……」

「公爵家令嬢、ビビアン・ポッティンジャー様」

「知ってて……」

「大丈夫、私も学園にいるだけで、ビビアン様に絡まれるから」

「……たしかに、元平民ながら光魔法の素質を持った、聖女候補生、マコト・キンボール様なら……」


 ビビアン様は、気を取り直すように、緋扇をくるくると回し、ぱしりと閉じた。

 おお、かっこいい。

 結構練習していたとみた。


 ビビアンさまは豪華な赤毛をくるくるとドリル状に巻いて、赤いドレス、赤いハイヒール、赤い扇と。ポッティンジャー公爵家のみに許される赤備え。

 くっきりした顔のつり目の美人で、結構長身だ。


「これはお笑いぐさですわ。お前は聖女を名乗っているというのに、純潔を否定するのねっ」

「私、聖女候補で、聖女じゃあないですよ、ビビアン様」

「誰が答えて良いと言いましたかっ! 無礼者っ!」

「だってー、許しをまってるのって、時間掛かるじゃないですかー」

「わ、わたくしを誰だと思ってますのっ! 王家に連なる偉大なるポッティンジャー公爵の娘なのですわよっ! お下がりなさいっ! 恐れおののきなさいっ! 跪きなさいっ!!」

「やあ、私、平民上がりで無礼なもので、一つお許しを」


 きいいいいっ! と超音波を発して、ビビアン様は地団駄を踏んだ。

 うおお、本当に地団駄踏む人を初めて見たぞ。


「お前もっ、お前も、自主退学なさいっ!! これは命令よっ!! 平民風情が断る事は許しませんわっ!!」

「普通に嫌ですよ。なんでまた」

「わたくしは、平民も、淫売も、見るのが嫌だからですわっ!! 高貴な人間の気持ちは下々が尊重し、自分で動くべきですのっ! そんな事もわからないのかしらっ!!」


 私は、ちょっと考えた。


「私、元は平民ですけど、今は男爵令嬢ですし、カロリーヌ様も淫売じゃあ無いですよ、ねえ」

「え、私? そ、そうですね。その、売春ですか、そういう事はしてませんね」


 少し性的な事を言われ、頬を赤らめるカロル。

 可愛い、尊い、私的には、普通に性的にカロルを抱けるぞ!


「存在自体が平民で、事実上、淫売だからと言っているんですのっ! 公爵令嬢である、このわたくしが、そう言ってますのっ!!」

「学園の校則では、生徒は貧富身分の差無く、平等となってますが、これは?」

「くだらない校則よりも、わたくしの言葉の方が重いに決まっておりますでしょうっ!! 何を言ってらっしゃるのっ!」

「……、この学園は王立ですよね」

「そうですけれど、それがなにか?」

「あんたの言葉は、王様の決定より重いんですか?」


 場が再び凍り付き、シンとした。


「あんた……」

「ビビアン・ポッティンジャー公爵令嬢様に向かって、あんた……」

「ど、どんだけ身分差を無視してしゃべるんだ、この聖女候補は……」

「だが、嫌いでは無い……」

「学園の理想の体現でもあるけど、空気が読めない馬鹿でもあるわ……」


 う、まずったか。

 あんたは良くなかったね。


 先生とか、王子とか来ないのかな。

 さすがに身分差が死ぬほどあるので、ビビアン様を追っ払う事ができないな。

 イベントのつながり方から推察すると、そろそろ、ケビン第一王子が来ると思うんだけど。


 ビビアン様の顔が真っ赤になった。

 般若、般若、ザ・般若という感じの表情の悪役令嬢がそこにいた。

 そして、何か思いついたのか、にやああと嗤い始めた。

 正直、コワイ!


「カロリーヌも、パン屋の娘も、一度に退学させる策を思いつきましたわ……」

「ほお」


 それはなんだい?


「マイケル! 来なさいっ!」

「はっ」


 ビビアン取り巻き衆の中から、大柄なイケメンが出てきた。

 私は吹き出しそうな気持ちを無理矢理抑え込んだ。


 マイクーじゃんっ。

 よりによって、マイケル・ピッカリンじゃあ、ありませんか。

 カーチス兄ちゃんルートがメインの出番のかませ騎士だ。

 通称、マイクーとか、ピッカくんとか呼ばれている。

 主人公たちより一年先輩で、年に一度ある学園の剣術大会で優勝、近衛騎士団への入団が確約されている魔法騎士の生徒だ。


 マイクーは、悪役令嬢の派閥の表の武力担当で、大抵カーチス兄ちゃんにボコボコにされて泣く。


「まずい……」


 カロルが小さい声でつぶやくと、ジャリンジャリンと鎖が地面に落ちた。

 これは、カロルのゴーレム、チェーン君(通称)の部品かな。


「どこに入ってたのこれ?」

「え、あ、その、ふ、服の下、え、あ、何するのっ?」

「本当だ、生暖かい」


 チェーン君の生暖かい部品をしゃがんで触って見ると、カロルが困ったような恥ずかしいような顔をした。

 しかし、制服の下に、この量の鎖が入るとは思えないのだけど、まあ、そういうお約束は指摘しないのが親切だね。


「今から、マイケルに、そこのパン屋の娘を打擲ちょうちゃくさせますわ! なにしろ、平民相手だから、うっかりやりすぎて殴り殺してしまうかもしれないわねえ、それが嫌なら、カロリーヌ、お前は、私の前に跪いて謝罪し、自主退学すると約束しなさいっ!!」

「ははは、良いアイデアでございますね、ビビアン様。私も、あなた様を無礼な呼び方をする、天井知らずに思い上がった平民をこらしめたかった所でございます」


 ビビアン様と、マイクーはニヤニヤと笑った。

 カロルは歯を食いしばった。

 鎖が蛇のように動いて、ジャリジャリと音を立てる。


「これは決闘なの?」

「は? 何を言ってるのっ? これは、生意気な口をきくお前への誅伐ちゅうばつよっ」

「僕が一年の女子相手に、決闘なぞありえまいよ、パン屋の君」

「決闘にしようよ、どっちが倒れても恨みっこなしで」

「貴様ーっ! 私をなめているのかっ、私は、私は、昨年の校内剣術大会での優勝者! マイケル・ピッカリンであるぞっ! 分際をわきまえろっ! 地にひれ伏し泣いてあやまれっ!」


「駄目よっ、キンボールさん、わたしがやるわっ」


 カロルが私の肩を握って言い放つと、ジャリジャリジャリーンとチェーン君が立ち上がった。

 うおー、結構でっけー、かっけー、まさか生チェーン君が見られるとはーっ。


「く、鎖ゴーレムか、むむむ……」

「まさか、あの淫売の木偶人形に勝てないとは言わないですわよね、マイケル」

「……、正直な所、錬金令嬢が相手では、勝敗がわかりませぬ。どんな恐るべき薬物をスカートの下に仕込んでいる事か……」


 あー、やっぱりカロルってば、かなり強いって事になってるのね。

 そりゃまあ、身長二メートルの鎖ゴーレムといっしょに戦うんだからねえ。

 錬金令嬢の二つ名もかっこいいぜ。

 いいなあ、いいなあ、私も格好いい二つ名がほしいなあ。


「ふん、では、こうしましょう」


 ビビアンさまは艶然と微笑んだ。


「パン屋の娘、あなたとマイケルとの一対一の決闘を受けましょう。だから、カロリーヌの参戦は認めませんわ」


「ひ、卑怯よっ!」


 カロルが叫んだ。

 おっと、チェーン君の手をペタペタ触っていたら、反応が遅れた。


「わかった、一対一の決闘でいいよー、その代わり、私が勝ったら、二度とわたしたちに退学しろとか絡んで来ないこと」

「キンボールさんっ、駄目よっ!」

「大丈夫大丈夫、お友達を信じてよ、カロリーヌさん。カロルって呼んでいい?」

「えっ、その、い、良いけど、本当に大丈夫なの?」

「だいじょーぶ、信じて、カロル」

「う、うん、ぜんぜん信じられないけど、あなたを、信じるわ……、マコト……」

「うひひ、呼び捨てって、お友達っぽいよね」

「もう、変な人ね」


 ちょっと頬を赤くして、口をとがらすカロルが、めちゃかわいい。

 ふへへへへ。

 

 マイクーは、長剣をさやごと抜いて、抜けないように紐で縛った。

 さすがに、一年女子相手に真剣で戦う事はしないようだ。

 しかし、マイクーはでっかいなあ。

 対峙しているだけで、そうとうな圧がくるね。


「まさか、勝てる気ではなかろうなあ、パン屋の娘!」

「勝つけど? マイクーはたいしたことないしさ」

「マイクー、マイクーとは、お、俺の事かああああっ!」

「イエス、マイクー」

「殺す、怪我ですませてやろうかと思ったが、騎士の誇りを踏みにじるとは、ゆるさぬっ! たたき殺してくれるっ」

「やってみろよ、マイクー」


 ビシリ、と、場の空気が殺気を帯びた。

 マイクーは、長剣を構える。


「さすがマイケル卿、女子相手でも油断がない」

「訓練も受けてない令嬢が勝てる訳もないであろう、愚かな選択だ」

「やや、聖女候補が剣を抜く」


 私は後ろ腰に回していた、短剣を抜いた。

 真っ白な拵えで、キラキラと光る業物だ。

 ブラッド義兄様おにいさまに、あれ買って買ってーっと、涙目でおねだりして買って貰った逸品であるよ。


「ははっ、構えが隙だらけだぞ、パン屋の娘」

「剣での勝負なんかしないさ、マイクー、私は聖女候補だよ、魔術をつかうんだよ」


「聖女候補は魔術を使うのに、なにゆえ短剣を抜くのだ?」

「ぬ、あの拵えはユニコーンの柄、まさか魔法の発動体だとでもいうのかっ」


 観客の皆さん、解説ありがとう。

 この剣は、魔法の杖とかと同じ、魔法発動体なんだ。

 魔法の発動補助、効果増幅に使うものだね。

 剣型は高いんだけどねー。

 義兄様おにいさまはボーナスが吹っ飛んだと泣いていたが、かっこいいので仕方が無いのです。


「ふ、治癒しかできない光魔法がなんだと言うのだ」

「そう思うなら、かかってこいよっ、マイクーッ!!」

「なめるなっ! パン屋っ!!」


 マイクーが、ずわりと大上段に長剣を振り上げた。

 なるほど、大会優勝者だけはあって、構えが綺麗で隙がない。


 マイクーは歩く速度で間合いをつめていく。


 私は短剣を持たない左手を前に出した。

 そして、目を半分つぶって、詠唱。


『ライト』


 瞬間、ポンッと軽い音と共に、爆発的な閃光が、私の手のひらの向こうに生まれた。


 さて、問題です、私を長剣の鞘でぶん殴ろうとしているマイクーはどこを見ていたでしょうか。


 そう、私だね。


 しかも、目の前に手が差し出されたら?

 私が何をするのか、どうしても差し出された手の方を注視してしまう訳で。


 そこに、通常の三倍の魔力をつぎ込んだライトの魔法を崩壊させて、大閃光を作るとどうなるか。


「うぐあああ、目がー、目がーっ!!」


 と、こうなる訳です。


 バルスバルス。


 さて、目を押さえてグネグネしているマイクーに向けて、全力ダッシュする。

 狙いは、彼の体の中心だ。

 

「なんだ、聖女候補生は、何を狙っているっ!」

「蹴り技? まさか、狙いはっ!!」


 そこは、私には無い器官なので、打たれると大変と聞くがどれだけ痛いのかはしらないぜ。

 悶絶するほど痛いと聞くから、マイクーを一撃で沈めるには絶好の目標なんだ。


 私は、マイクーの股間を目がけて、思いきり足を蹴り上げる。


 めきょり。


 と、なにか嫌な音とともに、柔らかい何かを潰すような感じが足の甲に伝わった。


「金的……?」

「まさか、金的を」

「き、金的?」

「と、殿方の大事な所を、そ、そんな……」

「聖女のくせに、金的狙い、だとっ!」


 怪鳥のような絶叫が広場に響き渡った。

 マイクーは股間を押さえて地面を転げ回る。


 え、そ、そんなに痛いの?

 ごごご、ごめんよ、マイクー。


「ぎよぐげああああああっ!!!!!」


 白目をむき、汚い悲鳴をあげながら転げ回るマイクー。


「蹴り抜きおった……、令嬢が……、金的を……」

「そんな、まさか、あのマイケル卿を一撃で沈めるとは……、金的で」


「金的を……、令嬢が……」

「金的、令嬢……」

「まさに、金的令嬢だ……」

「金的令嬢」


「金的令嬢っ」

「金的令嬢っ!」

「「金的令嬢っ!!」」

「「「「「金的令嬢ーっ!!! 金的令嬢ーっ!!! 金的令嬢ーっ!!!」」」」


 ぐわーと盛り上がる観衆のみなさん。

 広場に響き渡る金的令嬢の掛け声。

 みんなノリノリで、拳を天に打ち上げ、金的令嬢の大合唱だ!


 や、やめろー、なんだその、こっ恥ずかしい二つ名はっ!

 そんな名前で私を呼ぶなーっ!!


「うごげげげっ、げぶっ、ごえーっ!」


 うわあ、マイクーがゲロを吐きまくりながら転げ回っておる。


「ひやああっ、汚いっ! マイケルっ、何をしますのっ!!」


 うはははは、ビビアン様の赤いスカートに、マイクーのゲロが掛かりおった。

 うひひひひ。


「ざまあっ」


「お、覚えておきなさいっ、パン屋の娘と、カロリーヌは私の敵よっ、絶対に学園から追い出してやるわっ!!」

「やれるものなら、やってみなー」


 私はニヒルに笑って、腰に短剣を戻した。

 ビビアン様はぶりぶり怒って講堂の中へと入っていった。

 マイクーは取り巻き衆の人たちに担がれて、どこかへ消えた。

 観客の皆さんも、興奮冷めやらずという感じで騒ぎながら、講堂へ向かって流れていく。


「あなたに、お礼をいうべきか、たしなめるべきか、迷っちゃうわ」


 カロルが、私を見て、あきれたような声で言った。


「礼にはおよばないぜー、カロルー」

「迷ってるっていってるでしょっ、もう、なんで変に男前なのかなあ」

「いいじゃん、いいじゃん、さあ、行こうよ、カロルもA組でしょ、一緒に講堂いこう」

「ふう、まあ、いいわ。かっこよかったわよ、マコト、ありがとう」


 カロルが手を出してきた。

 私は握り返す。

 ああ、小さくてスベスベで可愛い手だなあ。


 うへへへへ、これはカロルとの百合エンドもありかもしれない、ありかもしれない。

 カロルの生足舐めたい。


「な、なんで、猫がマタタビ嗅いだような顔で笑うの?」

「んー、なんでもないなんでもないよー、うへへ」


 あ、ドン引きした顔のカロルに手を引き抜かれてしまった。

 残念。

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[一言] 実は金的は女性相手に通用する・・・まあ野郎よりは狙われないけど
[良い点] 恥骨への攻撃は……やめようね!
[良い点] >王家に連なる偉大なるポッティンジャー公爵の娘なのですわよっ! この時点では、まだ連なってない設定じゃない?
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