第58話 襲撃の後始末をしてから大神殿へ向かう
切り落とされた指がさあ、芝生にごろごろ落ちてるのよ。
なんだか芋虫みたいでドン引きであるよ。
「コケシの蓬莱刀はもの凄い切れ味だな」
「切れるけどもろいみょん、下手に鎬を当てっと曲がるみょんよ」
落ちた指の群れは、コイシちゃんの蓬莱刀での籠手打ちの仕業でございますぞ。
「あー、髑髏ども、指をくっつけてやるから、自分の指をもってこっちにきなよ」
「うぐぐ、い、いいのか?」
「申し訳ありません、ぐぐぐ」
「指が無いと困るでしょ、並べ並べ」
とりあえず、髑髏どもにハイヒールを掛けていく。
まあ、指ぐらいならくっつくし。
蓬莱刀というか、日本刀は西洋刀に比べて軽くて切れ味が鋭い。
コイシちゃんの戦闘法は剣速を生かして変化による籠手打ちだね。
振った軌跡を途中で数センチずらすように変化させる。
そうすると、指とかが逃げられなくてすっとぶわけさ。
えげつない戦法だねえ。
「指が余った……」
三本ほど指が余りおった。
うーむ。
学生っぽいひょろい髑髏に押しつける。
「指がない逃げた髑髏は、自分で医者に掛かるように言って、私もそこまでは面倒みきれないし」
「そうだな。治療に感謝する、俺たちは敵なのに……」
「いいって、つまらない事で一生指が無くなるのは辛いでしょ」
ひょろい髑髏は口元をかみしめて、無言でうなずいた。
怪我が治った髑髏どもに手を振って逃がす。
髑髏団どもは全力疾走で逃げていく。
「良いのかマコト」
「捕まえてもなあ。めんどうなだけだし」
「こちらが殺されて……、いたかもしれないのに……」
「派閥のみんなが強かったので、なんとかなった、で良いじゃん」
私はにっこり笑った。
役人の聴取とか受けてると時間が掛かるし、どうせポッティンジャー公爵家が裏で動いてもみ消しちゃうだろうから、逃がしても別に問題ないよ。
むろん、今回、派閥のだれかが傷ついてたら、キレてますけどね。
普通に聖戦を発動したりしたかもしれない。
カーチス兄ちゃんが聖女派閥をはじめるように言ってくれて助かった。
私とカロルの二人だけだったら三十人近くの暴漢はしのげなかったと思う。
コリンナちゃんとかメリッサ嬢をさらわれて脅迫されていたかもしれない。
やっぱり、戦いは数だねえ、カーチス兄ちゃん。
三人の髑髏が芝生で正座していた。
マスクを脱ぎ捨て土下座をかましてくる。
中身は小汚いおやじたちだ。
なんだい?
「聖女さまとは知りませんでしたーっ!」
「スラムに何度も炊き出しに来てくれて、住民を助けてくれたあなた様に剣を向けてしまいましたーっ!」
「罰を、罰をお与えくださいーっ!」
「何よ、あなたたちは、スラムの人たちだったの?」
「「「ははーっ」」」
三人のおやじは額を地面にこすりつけた。
「まあ、お金のためならしょうがないよ、気にしてないから行きなよ」
「し、しかしっ!」
「これからはあんまり荒っぽい仕事はやめときなさいよ、はい、邪魔だから帰った帰った」
「お優しいっ」
「ああ、ああ、なんという聖人」
「もう、ヤクザな仕事はやめます、申し訳ありませんでしたー」
三人のおやじは泣きながら公園の出口に向かって駆けていった。
もう、悪いことすんなよー。
「マコトはスラムの人間にも慕われてんのか」
「大神殿はちょくちょくスラムに炊き出しをやってるからね。好かれてるのは教会だよ」
「そうかねえ」
「あたりまえじゃん」
聖女候補なんて言われてるけど、私なんざ、おばちゃん尼さんたちに比べれば社会貢献なんか小さい小さい。
光魔法使えるぐらいで、私自身はたいした人間じゃあないしねえ。
その点、おばちゃん尼さんたちは凄いよ、優しいし社会経験豊富だし。
没落貴族さんとかもいるぜよ。
貴族の本道からは外れているけど、幸せそうにエネルギッシュに社会奉仕しておりますぞ。
「さて、私は大神殿に行ってくるよ。寮には明日の朝に帰ってくるね」
「わかったわ、気を付けてね」
カロルが心配してくれるのは嬉しいなあ。
「大神殿近くで私に襲いかかるのは死を意味するから、襲うとしたら学園の近くだけど、もう撃退しちゃったから大丈夫だよ」
カトレア嬢が立ち上がり、私に頭を下げた。
「私はポッティンジャー公爵家の第二公邸に行って、黒の髑髏団について問いただしてくる」
「カトレアさま、あぶのうございますわ」
メリッサさんがカトレア嬢の手を取って、そう訴えかけた。
そうだね、彼女が池に突き落とされたのは一昨日だしね。
「心配してくれてありがとう、メリッサ嬢。でもな、これは、私にしか出来ない事で、私がしなくてはならない事なんだ」
カーチスが立ち上がり、カトレア嬢の肩をポンと叩いた。
「よく言った、カトレア、骨は拾ってやる行ってこい」
「カーチスさまっ、ありがとうございますっ」
「カトレアに何かあったら、カーチスしゃまと二人で……、エルザしゃまも交えて三人で殴り込むみょん。安心して行ってくるみょん」
「コイシも、ありがとう」
「正妻としてカトレアに命じます、何があっても死んではなりません、いいですね」
「はっ、エルザさまっ!」
私は、ナノサイズの細さの光の輪を再び周囲に放った。
おわっ、アンヌさんが意外と近くに居たっ。
びっくりして振り向くと、アンヌさんは何で解ったというように眉を上げた。
この人、本当に気配を消して身近に潜んでいるんだなあ。
さらに光の輪を広げると、森の中に二、三人のメイドが潜んでいた。
これはシャーリーさんかな。
シャーリーさんっぽい気配の方に向けて、大声を出す。
「ああ、カトレアさんが酷い目に遭ったら、私は怒ってポッティンジャー公爵家に聖戦を発動してしまうかもなあっ!」
「何を言ってるの、マコト?」
いぶかしげにコリンナちゃんが問いただしてきた。
「一応、潜んでいる諜者に宣言してみた」
「なるほど」
カトレア嬢が頬を赤くして震えていた。
「ありがとうマコト、本当にお前は良い奴だな……」
感動しすぎだろう、カトレア嬢。
そのうち、君は友達になるんだから、あたりまえの事だよ。
彼女はぺこりと頭を下げて、ポッティンジャー公爵家の第二公邸の方へ歩き出した。
死んじゃだめだよ、カトレアさん。
怪我だったら何でも治してあげるから、頑張れ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
みんなと別れて、てくてく歩いて、ひよこ堂の前を通って、しばらく行くと大神殿だよ。
というか、別に馬車を使うほどの距離じゃないのよね。
ひよこ堂の角を曲がると、黒騎士が三人、のっそりと立っておった。
うお、やべえっ、マーラー家が居たかっ。
私が警戒して、腰の短剣に手を伸ばすと、先頭の黒騎士が頭を下げてきた。
「害意はございません、聖女さま」
「なんか用?」
「わが主、グスタフ・マーラー様が、聖女さまに謝罪したいと申しております」
「謝罪なんかいらないよっ、これまで食堂から奪ったお金を返し、王都広場の掲示板に謝罪文を載せなさい。そうしたら許してやるよ」
黒騎士どもは顔を見あわせた。
「あの、我が主は謝罪をしたいと申しておりまして、聖女さまをマーラー家のタウンハウスへご招待したいと……」
「誰が毒蜘蛛のすみかに一人で行くんだよ、謝罪したいならグスタフ伯爵自らが大神殿に来い、と伝えなさい」
「わ、わかりました、伝えておきます」
三人の黒騎士は頭を下げて路地の奥に去っていった。
「馬はちゃんと帰ってきた?」
「はい、ありがとうございました、三頭とも帰ってきましたよ」
最後尾の黒騎士が振り返り、明るい声で返事をした。
よしよし、馬に罪はないからな。
あと隊長の足もしっかりくっついたようだ。
まったく、謝罪したいなら自分の足でやってこい、だ。