第582話 歓迎パーティの警備計画は踊るよ
「甲蟲騎士たちは昨日の学生寮襲撃でだいぶ人数を減らしました。そして奇襲の強みも失ってますね。なので、王宮の庭に騎士の壁を作りましょう」
「ふむ」
王城の図面を見ながら王様は唸った。
「四階の大ホールにいたるまでに確実に全滅する勢いで。神殿騎士も貸し出しますよ」
「それは助かるな。警護騎士も動員するか」
「警護騎士さんたちは麻薬禍で頑張ってくれたので庭で宴会させてあげましょう」
「おお、それならば非番の者も動員できるな」
「酒を飲ますと、いざという時に役に立たちませんので、ご馳走だけにすべきですな」
「そうだねジェラルド、いっぱい食べてもらおう」
警備騎士を全力動員すると市中の治安が心配だな。
極力増員したいところだけれど。
蠅の偵察があるので、とりあえず量で突入を諦めさせる感じが良いんじゃ無いかな。
「一階は神殿騎士に頼むとしよう、四階は近衛騎士団を詰めさせよう」
「……、近衛騎士団長をディーマー皇子に会わせて大丈夫なんですか?」
斬りかかったりしないか? あのハゲ。
「ああ、それは大丈夫だよ、キンボールさん、おじさんは身分が上の者には、すごく丁寧だよ」
「お前の身分が解りにくいのが良くない所もあるな。陞爵して、せめて伯爵位まで上がればどうだ」
「そうだな、麻薬禍で伯爵の席次が幾つか空いた、領地も一緒にどうだ?」
「いりません」
高位貴族なんざ面倒臭いですよ。
家来とか一杯雇わなきゃならないし。
まあ、こんな所かな。
こちらの意表を突いて奇襲してきたら空に逃げればいいし。
一階のリンダさんで全滅するんじゃないかな。
甲蟲騎士がいくら堅くても魔剣ダンバルガムなら叩き斬れるだろうし。
「あ、私も出ないと駄目ですか?」
「「「それはそうだ」」」
王家三人がハモりおった。
「新入生歓迎ダンスパーティのドレスを着て来たまえよ」
「あれは綺麗でしたな」
「うん、それが良いよ、キンボールさん」
「聖女候補の礼服で参ります」
王家三人が一斉にがっくりした。
意外にドレスは動きにくいんだよね。
ペタ靴でOKの聖女服の方がいい。
派閥からは、カーチス兄ちゃんとエルザさんを呼ぶか。
聖剣が二本揃うし。
ホウズとリジンだな。
エッケザックスはパーティでは使いにくいから今回はお休みだ。
「それでは会場を偵察してから帰りますね」
「うむ、よろしく頼む。マコト嬢が会場に居てくれると心強い」
王様は心強いかもしれないが、私は忙しくてやだなあ。
金曜日にまた魔力を使うと、土日のホルボス山行きがまた大変になりそうだ。
まあ、近所だから良いけどね。
執務室を出ると、王家主従が付いてきた。
「しかし、奴らが昨晩に襲ってきてくれて良かった」
「よかないよ、人が一人死んでるんだよ」
「たしかにそうだが、歓迎パーティに突撃してきたら、もっと人的被害が出て、しかも皇子も王女も殺されていた所だ」
「そうだね、甲蟲騎士は学生寮の方が警備が甘いと踏んだのだろうね。本当にキンボールさんが居てくれて良かった」
「感謝するぞ、キンボール、お前は戦争を回避させた」
「よせやい」
ジェラルドに感謝されるとこそばい。
しっかし、馬鹿皇子王女は迷惑だな。
早く帰さないとなあ。
会場に入る。
楽しかった新入生歓迎パーティの面影はなくて、なんだかガランとしていた。
ちょっと寂しい感じだね。
「パーティが始まったら皇子と王女はテラスへ?」
「そうだ、一曲ぐらいは誰かと踊るだろうが、基本はテラスに行く」
ふむ、万が一、金色とかが全てを突破しても、テラスまで一拍の猶予があるか。
最悪ダルシーと組んで迎撃……。
リンダさんと組んだ方が強いか。
まあいいや、サーチ。
カアアアアン!
特に怪しい所は無いね。
「ケビン王子、大広間への抜け道は?」
「ああ、それは……。うん、秘密」
そりゃまあそうだな。
「あるなら、起点と終点に重騎士を置いて」
「極秘の抜け道だぞ、使われると?」
「蠅が道を暴き出してるかもしれない。抜け道で直通されたら痛い」
「たしかに、近衛を置こう」
「そうして下さい」
防衛戦は考える事が多くて面倒臭いなあ。
攻める方は選択肢が少なくなって有利なんだよね。
皇子と王女は蒼穹の覇者号で送迎しよう。
コクピットにはカロルかエルマーに居てもらう感じで。
【マスターマコト、王宮の調理班という者が武道場地下入り口に来ておりますが】
「ああ、私が手配した」
「あ、手が早いね。エイダさん、知ってる人はいる?」
【近衛騎士団のコロンブさまがいらっしゃいます】
「入れてあげて」
【了解いたしました】
「……、魔導頭脳は便利だな」
「本当に凄いよねえ」
「魔導頭脳だけを取り出して白銀の城号につけられないだろうか」
「邪悪な事を考えんなっ」
エイダさんの居ない蒼穹の覇者号なんて魅力が半減だよ。
そして、墜落せずに操縦できる気がしないよ。
「ジェラルド、お国の為にこれだけ尽くしているキンボールさんから何かを分捕ろうとはあまりに非道だよ」
「そ、そうですな。すまん、キンボール」
まったくもう、ジェラルドはずうずうしいわね。
『おい、聖女候補!』
「なんだよ」
ったく馬鹿皇子め。
通信に割り込んでくんな。
『暇だ、どこかに連れていけ』
「本でも読んでろ」
『あの、聖女候補さま、せっかくアップルトンに来たのですから、大神殿に参拝して、教皇さまにご挨拶したいのですけれども』
なにげに信心深いな王女め。
「わかった。エイダさん、コックさんたちは乗った?」
【みなさん、搭乗なされて、ミニキッチンを見ています】
「それではみんなごと王宮の飛空艇発着場へ来て。それから大神殿に行くわ」
【了解いたしました】
「通信機に中継、王宮管制室へ」
【つなぎます】
『コールサイン335685、王宮管制室です』
「コールサイン、ええと、なんだっけ、54とかなんとかの蒼穹の覇者号」
目を上げると窓越しに。発着場の塔にいるお姉さんと目が合った。
『なんですか、マコトさま』
「着陸許可を、今来ますので」
『私はいつもここに居ますので、王宮で用があったら来て下さいね。コールサイン335685、王宮管制室、着陸を許可します』
「ありがとう、次はそうしますね」
『はい、おねがいします』
お姉さんは手を振ってくれた。
意外と気さくだな。
「女官さん?」
「いや、クルーベ子爵家のリディさんだ、女騎士だぞ」
ジェラルドは何でも知ってやがるな。
「おーう、武官さんでしたか」
「クルーベ子爵家は昔から王宮付き飛空艇管制官の家なんだよ」
ケビン王子が笑って言った。
そういう世襲もあるのか。
中世だなあ。
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