第573話 夜中に緊急事態だぞっ
『おい、起きろキンボール』
ん~~、なんだかイケボが聞こえた。
声のした方に手を伸ばすとモフモフと良い感じの手触りがする。
反射的に抱きしめる。
『やめろ、キンボール』
「ん~~?」
抱きしめていたのは闇よりも黒い黒猫であった。
猫がイケボの訳がないから夢なんだなあ。
ぎゅうぎゅう。
『やめろ、非常事態だ、逃げろ、キンボール』
……。
なんだ、クロじゃないか。
アダベルの所から逃げ出したのか?
??。
「……なぜに乙女のベットに夜這いをかけていやがる、エロヴィクターめ」
反射的にクロをベットの外に投げ捨てた。
奴はカーテンに爪を引っかけてぶら下がった。
『夜這いでは無い、非常事態だ』
「ん~~?」
『王都にジーン皇国の秘密部隊が侵入した、現在諜報メイドどもが応戦しているが、旗色が悪い、地下道へ逃げろキンボール』
「マジな話?」
『俺はそういう冗談は嫌いだ』
猫がイケボで喋るのはなんだか可笑しい。
ジーン皇国からの刺客?
私に?
「刺客は覇軍の直線号に乗ってたの?」
『いや、王都外からの侵入だ』
なんか変だな。
王立魔法学園へジーン皇国の隠密部隊が侵入してくる?
私を殺して蒼穹の覇者号を奪うために?
昨日の今日で、攻撃準備が早すぎないか?
私以外の目標を狙う?
誰を?
そんなの居ない……。
あ、そうか、居るな。
「私が目的では無いんじゃない?」
『なんだと?』
「……、あと、なんでヴィクターが教えてくれんのさ?」
『それは、その、一応麻薬の件の借りを返すためだ』
「義理堅いわね」
私は起き上がり、ベットからハシゴを下りた。
「エイダさん、緊急発進。隠密機動で部屋の窓の所へ」
【了解しました】
『どうするつもりだ、キンボール』
「空へ逃げる」
『地下道の方が早くないか? 今、女子寮に突入したぞ』
足下で闘うような騒ぎが起こった。
「あんたはどこで見てるの?」
『……』
まあ、教えてくれないか。
【マスターマコト、現在205室の外です】
カーテン越しに蒼穹の覇者号がホバリングしているのが見えた。
窓を開き、私は足を桟に乗せた。
「クロ、おいで」
『ちっ』
舌打ちをしてクロは私の懐へ飛びこんできた。
もっふもふ~~。
コリンナちゃんとカリーナさんは寝てるな。
マルゴットさんは出撃しているだろう。
彼女のベットのカーテンが力なく揺れていた。
私はクロを抱いて蒼穹の覇者号へ飛び移った。
「上昇、七階のスイートまで」
【了解】
蒼穹の覇者号は音も無く上昇した。
『そうか、王女と皇太子か!』
「そう、私を狙うには早すぎるけど、元からの計画ならば不自然じゃ無い」
『確かに、アップルトン内でテロで皇太子と第一王女が殺されたら』
「そう、この上ない宣戦布告の大義ができるわね」
あの馬鹿皇子が蒼穹の覇者号を狙ったのも騒ぎにして計画を頓挫させるためというなら説明がつく。
……、まあ、ナチュラルに馬鹿の可能性もあるけどね。
ふあああっ、眠い。
あと、甲板の上でパジャマだと寒い。
クロを抱いてるとあったかいな。
式神のくせに生意気だ。
「魔導機関銃展開」
【魔導機関銃展開します】
ガチャリと足下で機械音がした。
魔導機関銃で窓をぶち破って王女の気を引こう。
六階の窓から目を見開いてこちらを見ている命令さんがいた。
手を振ってやれ。
第一王女が泊まっているのは205号室の直上だ。
見えてき……。
うっは、なんだか金色の昆虫みたいな兵隊に第一王女がベランダで捕まりそうになっておる。
「こっちに飛び移って!!」
王女はこっちを見た。
昆虫の奴もこっちを見た。
思い切り良く、王女はジャンプして甲板に転げ落ちて来た。
昆虫もジャンプしてきおった。
『甲蟲騎士!! 皇国が滅ぼしたサイズ王国の騎士団だ!』
ガチャーン。
金の甲蟲騎士は私の障壁に当たって空中で跳ね返った。
ヨシ!
と、思ったら、寮の壁を蹴ってさらに甲板へ飛んでくる。
なんて反射神経だ!
ダルシーが現れて、甲蟲騎士を拳で打った。
騎士は盾で受けた。
ダルシーは踏み込んで回し蹴り。
ドガシ!
一発目の拳は重力を減らす突きだったようで、ダルシーの蹴りで金の甲蟲騎士は宙に飛ばされた。
「魔導機関銃、発射!!」
【発射します】
ブモーーーーーー!!
牛が鳴くような重低音と共に魔導機関銃が発射されて、金の甲蟲騎士を撃ち抜いていく。
奴は体を丸めた。
ガキガキガキガキーン!
「やったか?」
【吹き飛ばしましたが……、貫通弾無し】
「げえ、あの甲胄は、どんだけ堅いのよ」
金の甲蟲騎士はそのまま落ちていき、くるりと地上に着地した。
「あいつは強いです、マコトさま」
「ダルシー、ありがとう助かったわ」
「いえ、お役に立てて幸いです。……現在男子寮でも敵兵力と交戦中、カーチス様とエルマー様が一階で銀の甲蟲騎士たちと闘っています」
「やばいなあ」
カーチスにはホウズが付いてるから何とかなりそうだけど、エルマーは棒しかもってないから危ないな。
急いでなんとかしないと。
第一王女は甲板に膝を付けて荒い息をついていた。
「お、お兄さまを、お兄さまを助けなさい、聖女候補!」
「おねがいします、と、言え」
「ぐっ……、お、おねがいっ」
「解った。エイダさん、男子寮の七階へ移動」
【了解しました】
『皇太子のスイートは東側だ』
「クロ、ありがとう。エイダさん東側へ」
【了解しました】
第一王女はいぶかしげな目でこちらを見ていた。
「船が勝手に動くの?」
「ええ、作った人が大馬鹿者なのでね」
蒼穹の覇者号は女子寮を離れて、男子寮へと向かった。
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