第569話 聖女の湯でのんびりだらだらするぜ、水曜日だし。
一通り説明が済んだので私は執務室から立ち去った。
あとは王子とメガネと王様がなんとかするだろう。
外交は聖女候補の仕事ではないのだ。
「やれやれ疲れた」
「今日は早めに寝なさいよね」
「あ、今日は聖女の湯だからひとっ風呂あびよう」
「良いですわね領袖」
「女子はいいな……」
男子寮の聖女の湯は一週間に一度だからなあ。
舎監の人があまり熱心で無いようだ。
上級貴族の人はあまり地下の大浴場には行かないからね。
などと話ながら三階の飛空艇発着場に戻り船に乗り込んだ。
アダベルがメイン操縦室にいないなと思ったら、ラウンジでジャンヌお義姉様と一緒に遊んでいるのがモニターに映っていた。
お義姉様はコミュニケーションの能力が高いな。
誰とでも、すっと仲良くなれるのは凄い。
さすがの兄嫁であるよ。
「こちらコールサイン547498、蒼穹の覇者号、王宮管制室、これより離陸します」
【コールサイン335685、王宮管制室、離陸を許可します】
やっぱり管制が生きているとなんか航空機関を使っているという感じがしていいね。
まあ、飛空艇の数が少なくて管制システムは有名無実化しているのだけどね。
魔法学園管制は基本的に動いて無いからな。
「私が操縦するわよ」
「いいの?」
「マコトは居眠りしてなさい。エイダさん、操縦権を副操縦士席に移行してください」
【了解、操縦権を副操縦士席に移行します】
カロルは操舵輪を握ると、ふわりと蒼穹の覇者号を空に浮かべた。
さすがに操縦が安定してきたね。
空を行くと、覇軍の直線号が見える。
あの馬鹿兄妹は今どこにいるのだ?
王宮に入ったのかな?
一応、表敬訪問だから泊まりは王城だと思うのだけど。
市中にホテルを取るのかな。
蒼穹の覇者号は学園の北東の渓谷上空に着き、するすると格納庫に入った。
【蒼穹の覇者号、着陸】
さあて、お風呂に入ってだらだらしようかな。
ここの所、なんだか忙しすぎたからな、だらける時間が必要じゃ。
メイン操縦席から廊下に出ると、ジャンヌお義姉様とアダベルがやってきた。
「ありがとう、マコトちゃん、ブラッドと良い時間が取れたわ。本当に飛空艇は速いわよねえ」
「いえいえ、お気になさらずに、週末のホルボス山も一緒に行きますか?」
「そうねえ、男爵家のお父様とお母様とも、もっとお近づきになった方が良いわね」
「そう思いますよ」
「飛空艇は楽しいからな」
「そうね、アダベルちゃん。アダベルちゃんも行くの?」
「行くー。私の前のねぐらがあるんだー」
「そうなんだ。楽しみね」
さて、船を下りて、お風呂に行こうか。
「お義姉様、今日、大浴場は聖女の湯なんですけど、一緒に行きます?」
「あら、あの凄い入浴剤なのね、いいわねー」
「行きましょうよ」
「そうね。お風呂に入ってから帰りましょうか」
よしよし、これから家族になる人とは裸の付き合いが大事だな。
「私も行こう」
「アダベルちゃんもか、良いわねー」
私たちは地下通路を歩き始めた。
「マコト、私は魔石の買い付けをしないといけないからタウンハウスに行ってくるわ」
「あら」
「良い儲け話だからがんばらないとっ、じゃねっ」
「私もタウンハウスで買い付けをしましょう」
「ヒルダ先輩も」
「火と風の魔石の値上がりが見込めるならばやらないと損ですわ」
みなさん儲け話に群がるなあ。
覇軍の直線号みたいな大型船の魔石の補給となると結構な量だしね。
超高速船だから燃費の悪さがとんでもなさそうだ。
コリンナちゃんにも教えて上げようか。
……元手のお金が無いな。
借金して相場するタイプじゃ無いし。
カロルとヒルダさん、あと、エルマーは武道館側の出口のある待合室へ入って行った。
がんばって儲けてくれい。
私はお風呂で英気をやしなうぜ。
私とお義姉様とアダベルの三人で大浴場に入った。
脱衣所でちゃっちゃと服を脱ぐ。
お義姉様は結構胸があるな。
いいな。
大浴場には女生徒が一人入っているだけであった。
金髪の凄い美人だな。
「ダルシー」
「はい、マコトさま」
ダルシーが聖女の湯の元を出してきた。
蓋を開けて、とろとろとお湯に入れる。
ふわっと広がってお湯が白濁する。
んーー、ハーブの良い匂い。
「なにそれ?」
「ん? 聖女の湯の元よ」
ゴージャス金髪さんが気味悪そうに聖女の湯の元を見ていた。
ん?
「アップルトン人は変な事をするのね」
ん?
なんだか、コイシちゃんみたいなイントネーションで喋るな。
生徒じゃない?
「だれ?」
「……ジーン皇国第一王女グレーテよ。あなた気安いわよ、無礼ね」
馬鹿妹じゃあありませんかっ。
「なんでお風呂に入ってるのよ」
「その……、覇軍の直線号のお風呂が使えないのよ、魔石が無いからボイラーが落ちてしまって、だからお風呂を借りに来たのよ。悪い?」
「そうなんだ、ようこそアップルトン王立魔法学園へ」
「ああ、うん、なによ、王女に直答なんてアップルトンは野蛮ね」
野蛮野蛮ってうっせいなこいつ。
やな沈黙が広がりそうになったとき、お義姉様がグレーテ王女に近づいた。
「まあ、ジーン皇国からいらっしゃったの、遠い所からよく来てくださいましたね」
「ほ、本当は来たく無かったんだけど、その、表敬訪問だから……」
「アップルトンには良い所が沢山ありますから、いろいろ楽しんでいってくださいましね」
「う、うん……、わ、なにこれ、すごい肌がすべすべになるわ」
「聖女マコトの作った入浴剤ですのよ、肌に良く、万病に効くと言われている凄い入浴剤ですのよ」
「ああ、あの狂犬みたいな奴ね。私はああいう奴は嫌いよ」
「マコトはそいつだよ」
アダベルっ!!
ばらすんじゃないですよっ。
「なっ!!」
グレーテ王女は湯を蹴立てて後退した。
「お、おまえはっ!」
「はっはっは、奇遇だな馬鹿王女、ここで会ったが百年目だ」
私は立ち上がって格好いいポーズを取った。
「なにいっ!!」
「マコトちゃん、お風呂で喧嘩しないのっ」
「そうだぞ、マコト」
う、アダベルにまで注意されると、なんだか心に来るな。
「まあ、そっちが喧嘩を売ってこないなら、こちらからは何もしないよ、グレーテ王女」
「本当か」
「お風呂だし」
「お風呂は肩まで浸からないとだめだ」
「そ、そうか」
グレーテ王女はお湯に肩まで浸かった。
私も肩まで浸かった。
あー、あったかい。
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