第568話 学園の第三グラウンドに覇軍の直線号
あまりに魔力を使いすぎて艇長席でうつらうつらしている。
ああ、勝手に他の人が飛ばしてくれるのは楽で良いなあ。
前面ディスプレイにはアップルトン郊外の田園風景が広がっている。
やっぱり空を飛ぶのはいいね。
こっくりこっくり。
「寝ちゃったわ」
「昨日も……、大暴れだったんだろう……?」
「うん、寝かせておきましょう」
起きてる、起きてるよう。
すやあ。
【マコト艇長、入電です】
はっと目を覚まして顔を上げる。
寝てません、寝てません。
ディスプレイに映る景色は王都近くだった。
結構寝て居たかな。
「はいはい、エイダさん繋げて」
【ザザッ、こちらは王宮管制室、コールサイン335685。蒼穹の覇者号応答願います】
「こちら蒼穹の覇者号、コールサイン、ええと、547498です」
私はコールサインを暗記していなかったので、壁に貼った羊皮紙から読み取った。
しかし、王宮管制室は生きていたのだなあ。
初コールだね。
【蒼穹の覇者号、艇長マコト・キンボールを王様がお呼びです。つきましては王城中二階の飛空艇発着場に蒼穹の覇者号を着陸させてください】
「王宮管制室、了解いたしました。王城に向かいます」
【飛行経路は南から王城の西側に付けるように進入ねがいます】
「かしこまりました、ありがとうございます」
【王城への着陸の場合はこちらの管制室に一報を入れて下さい、ダンスパーティの時のようにいきなり飛びこんでこられると困ります】
「は、はい、ごめんなさい」
【では、お待ちしております。オーバー】
王宮管制室からの通信は切れた。
怒られちゃったよ。
「王様に怒られるわね」
「怒られる……」
「うう、嫌だなあ。エルマー進入路は解る?」
【いま画面に出します】
エイダさんが王都の地図に誘導線を表示してくれた。
「王都の東側から侵入……、学園の上を通過……、南から王城西側に侵入……」
わざわざ飛空艇で怒られに行くのはやだなあ。
飛空艇は東門の南側から王都に入った。
「あ、あれー? 学園の第三グラウンドに……」
「覇軍の直線号が着陸しているわね」
「なんでだ……」
魔石が切れて緊急着陸とかしたかな。
あとちょっとで王城だから頑張れば良かったのに。
馬鹿皇子の船が学園に停まってるとウザくて嫌だなあ。
蒼穹の覇者号は覇軍の直線号の上を飛び越して王城へ向かった。
ダンパの時に着陸したテラスが、飛空艇発着場だったようだ。
正解なんだけど、勝手に止めてはいけないらしい。
まあ、そうだよな。
エルマーは危なげなく、すいっと着陸した。
なんだか、私たちは三人とも操縦初心者だからだいたい技量は一緒ぐらいのようだ。
カロルとエルマーがチートなんだよなあ。
エイダさんの教え方が上手いのもあるだろうけど。
私は艇長席からぴょんと跳び降りた。
「じゃあ、怒られてくる」
「私も行くわ」
「行く……」
「わたしは行かない、クロと遊んでる」
まあ、アダベルは大人しくしておれ。
私たちは連れだって、メイン操縦室を出た。
ヒルダさんがいた。
「一緒に参ります」
「それはどうも」
ちょと足下がふわふわするが、ちょっと居眠りをしたので結構楽になったな。
私たちが船を下りると、ケビン王子とジェラルドが待ち構えておった。
学園方向を視線をやって時計塔を見ると、放課後のようだね。
「キンボール、ジーン皇国の覇軍の直線号の上部構造がボコボコになっているのだが、あれはお前がやったのか」
「やったぞ、マジックハンドでボコボコにしてやった」
王家主従は空を見上げ、あーあと声を出した。
「貴様はーっ!!」
「まあまあ、ジェラルド、父上がお呼びだ、マコトくん」
「解った、行くよ」
王家主従に連行されるようにして私たちは歩き出した。
階段を上がり、謁見室の前を通り過ぎ、執務室に連れて行かれた。
「父上、キンボールさんをお連れしました」
「入ってくれ」
ドアが開いて執務室に入ると、王様はぐったりした顔をしていた。
「ジーン皇国皇太子ディーマー閣下から正式にアップルトン王国に抗議が来た。アップルトン船籍の蒼穹の覇者号と高空で行き会い、無警告で攻撃をされたとの事だ、本当かね?」
んにゃろう、クズ皇子め、口から出任せを。
「向こうから蒼穹の覇者号を鹵獲すると追いかけて来ました。撃墜する事も考えましたが国際問題になるかと思い逃げていましたら、覇軍の直線号はバリスタをこちらに向けて発射してきましたので、防衛のために船をボコボコにしました」
「事実です」
「真実……」
【映像記録も提出できますが】
王様はふむ、と言ってうなずいた。
「映像の記録を出してくれるかね。それがあれば少しは心強い」
「向こうからは何を要求してきましたか?」
「覇軍の直線号の修理費と蒼穹の覇者号の引き渡し、あと、マコトくんの身柄もよこせと、ジーン皇国らしい強欲な事を言ってきおったよ」
「蒼穹の覇者号は教会の所属なので、教皇様に言えとつっぱねてください」
「教皇様に迷惑はかからないだろうかね」
「かまいませんよ、大神殿にはリンダさんがいますから、たわけた事を言うと斬られるでしょう」
王様と、王家主従は苦い顔をした。
「皇太子が斬られるのはなあ、なんとか避けたい。だが、そうだな、王家は関係が無いとつっぱねるのが良いか」
「何か譲歩することはできないのか、キンボール」
「何を譲歩すんだ? 相手は自分の非を認めないどころか、こっちを批難してやがるんだぞ、ほっとけば領土割譲まで言い出すぞ」
「それは困るな」
「火と風の魔石を無償で供与せよなどとも言っておる、まったく頭が痛いよ」
カロルが一歩前に出た。
「市場にある火と風の魔石を大量に買い付けましょう」
「「「!」」」
うわ、エグいこと考えるなカロルは。
王様と、ケビン王子と、ジェラルドは笑い出した。
「そうだな、うん、やつらが大量買い付けをすると魔石相場が上がるな。安く買わせる事はないか」
「いや、それは儲かりますな」
「ナイスアイデアだよ、オルブライトさん」
みな、悪い感じにニヤニヤと笑った。
うんうん、ああいう馬鹿な事をいう仮想敵国に良くしてやる事はないやな。
ジーン皇国人なんざ、みんな山賊なんだから。
いっしっし。
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