第564話 吸い込まれて着いた先は
ごろごろごろと、カロルとチェーン君とアダベルと私は暗い石の床に転げ落ちた。
やっべ、魔法陣が光ってんぞっ!
別の異世界に召喚されたかっ!!
「わーはっはっはっ、馬鹿者どもめっ!! 召喚は成功したっ!!」
なんだか痩せて黒いローブを着た老人が壇上で高笑いをした。
こいつが召喚者か!!
「みよ、これがっ!! 我が結社の信仰するっ!! 邪竜アダベルドだっ!! 恐れおののけっ、狂乱の大天使よっ!!」
「はははっ、ドラゴン退治はまだやった事が無い!! せっかくのチャンスだ、ありがたく邪竜を……」
老人の前で魔剣を振りかざしたリンダさんがこちらを見て目を丸くした。
「なんだ、ど、どうし……」
じじいも振り返って、私たちを見て目を丸くした。
「な、なんじゃお前達、じゃ、邪竜アダベルドを呼んだのだ、じょ、女学生に用はないぞっ!」
「ぎゃーっ!! クロがほどけたあああっ!!」
アダベルの手のなかで哀れ黒猫は紙切れに変わっていた。
ああ、ポッティンジャー領から王都じゃあ、距離が遠すぎるよな。
「お前達のせいかーっ!! よくも私のクロをっ!! ゆるさーんっ!!」
アダベルは怒りのあまり、一瞬でドーンと竜に変わった。
「うおおおっ!! 我が信奉する邪竜アダベルドよっ!! 我が願いを……」
『うるさいっ!!』
アダベルトはでっかい手で爺を殴った。
「ぎゃーっ!!」
爺はごろごろ転がって壁にぶつかって倒れた。
あー、あれは死んだかな。
やべー。
良く見ると、リンダさんとローランさんのまわりには黒ローブの怪しい集団がいて、何人も斬られて倒れていた。
あー、これは秘密結社の修羅場に飛びこんだのか。
さらに異世界に行かなくて良かった。
「なぜだー、邪竜アダベルド、私たちはあなた様を一心不乱に信仰してーっ!!」
「我々の怨敵、聖心教の聖騎士を倒したまえ~~!!」
竜の顎の構成員は口々にアダベルドに懇願する。
『なに言ってるのだ、お前達は?』
「我々はー、あなたのー、信仰のー、ピンチにー、秘宝にてー、あなた様をー、召喚してー、願いをー、叶えてもらいたくてー」
『なんで?』
「わ、われわれはー、あなた様のー、信徒でー、あなた様がー、この世に君臨する時だけをー、一心不乱にー、祈り続けー、今この時ー、あなた様が顕現しー」
ああ、解った、これはヒカソラのファンディスクの追加シナリオのお話か。
発売する前に死んじゃったからピンと来なかった。
たしか、ゲーム雑誌の紹介だと、王都を襲う秘密結社と背後にいる邪竜と戦うストーリーだったっけ。
アダベルドはそっちの敵だったのね。
邪竜シナリオはビアンカさまが先に手を打って潰したのかな?
アダベルドはシュンとアダベルに戻った。
「しらん、くそう、クロを元にもどせーっ」
「……、ア、アダベルドさま、じ、人化なされると、お可愛らしいのでありますね……」
「うえーーん、クロが死んだ~~」
いや、死んでねえから。
「マコトさま」
「マコトさまーっ!!」
リンダさんは喜びにあふれた声で、ローランさんは泣きそうな声で私を呼んだ。
いや、ローランさんには悪い事をしたかもしれない。
目の下にくまがくっきりでているな。
「アダベル、クロはまたヴィクターに貰えばいいわよ」
「カロルは解って無いよ、新しいクロは、元のクロじゃないんだっ」
アダベルはカロルに抱きついてわんわん泣いた。
いや、だからさあ、さっきのクロからして、猫じゃないから。
子供の執着は解らないな。
「こいつらは?」
「竜の顎です」
「ここは?」
「古代墓地のカタコンベの中です」
うっは、墓場のお骨を安置しておく場所じゃ無いか。
さすが秘密結社、集会の場所も趣味が悪いぜ。
「奴らを、ここまで追い詰めたんですが、敵の首領が古代の秘宝を使って邪竜を呼び出すとか言い出しましてね。んで、出てきたのが、アダベルちゃんとマコトさま達だった訳です」
なるほど、強制的に竜を指名して召喚できる秘宝なのか。
それがあると、用事があるときにアダベルを呼出し放題だな。
「見たかっ!! 貴様らのご本尊、邪竜アダベルドは、いまや光の聖女マコトさまの手の内にあるっ!! 貴様らの負けだっ!!」
リンダさんが朗々と大声で宣言した。
黒いローブを被った秘密結社の面々はがっくりと膝を付いた。
まあね、長年信奉していた邪竜さんを呼び出したら、可愛いアダベルだったら膝もつこうってもんですよ。
哀れであるな。
リンダさんと、ローランさんと、私たちで手分けをして秘密結社の構成員を縛り上げた。
生きている奴には治療魔法を掛ける。
アダベルドパンチを受けた爺も生きておった。
頑丈だな。
「マコトさまは飛空艇でどちらにいらっしゃっていたのですか?」
「ポッティンジャー領で麻薬畑を焼いてきたよ」
「なんと、なぜ私を呼んでくださらないのですかっ!」
「リンダさんには秘密結社の方をお願いしたから」
「うぐぐ」
「それで、向こうの方はどうなりましたい?」
ローランさんが聞いてきた。
「麻薬畑は全滅させてきた。山高帽は斬ったよ」
「そいつは……、じゃあ、麻薬禍は終了ですかね」
「うん、売る物がもう無いからね。あとは王家が何とかするでしょう」
「教会としては終了ですかい?」
「終わり終わり」
ローランさんはほっとしたように胸をなで下ろした。
よほどリンダさんの下で苦労したようだね。
ごめんなあ。
「終わりですか、何よりです、マコトさま」
リンダさんがニッコリ笑った。
「秘密結社の方も良く三日で終わらせましたね。偉いです、リンダさん」
リンダさんは黙って頭を差し出した。
私は伸び上がって、頭を撫でた。
まったくもう。
「ローランもやってもらえ」
「え、そんな、悪いですよ」
私はローランさんの頭も伸び上がって撫でた。
「はあ、これはいいもんですね」
「そうだろうそうだろう」
おまえら、聖女候補が好きすぎだ。
地下墓地を出た。
ここは王都外の墓地群の一つだ。
もう日も暮れたが、馬車で帰れば晩餐まで間に合うだろう。
サイラスさんが教会の馬車を持って来た。
私とカロルとアダベルは馬車に乗り込んだ。
アダベルはまだ、ぐすぐすべそをかいているな。
ヴィクターが王都に来たら、頼んで、またクロを作ってもらおう。
聖女派閥の情報が奴に筒抜けになるのが困りものだけどね。
ごとごとごとと馬車は王都の門をくぐり、中央道を学園に向かって走る。
「終わったね」
「終わったよ」
私はカロルの肩に頭をもたれかかりまどろむ。
【エイダです、現在、王都上空です。マスターはご無事ですか】
「無事よ。エイダさん、格納庫に蒼穹の覇者号を収めておいて」
【了解しました。お疲れさまでした】
蒼穹の覇者号のふぁんふぁんという飛行音が馬車の上空を横切った。
さあ、晩餐を食べて、カロルとお風呂に入って、ベッドに入って寝よう。
ああ、長い一日だったなあ。
今はちょっとだけ眠らせて。
明日からまた頑張るからさ……。
( 第二章 新入生歓迎ダンスパーティ 了)
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第二章完結です。
しばらく大相撲令嬢Zを連載して、その後、三章を再開いたします。
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