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第561話 山高帽視点:流れて行く野良犬⑤

 どうするか判断がつかなかった。

 マコトちゃんたちが食べ終わり、食堂を出て行くのをただ、見ていた。


 マコトちゃんを殺す事はできたかもしれねえ。

 だが、そんな事をしてどうする。

 マコトちゃんが死んだあと、俺は何を楽しみにこの世界を生きて行けばいいんだ?

 手がぶるぶると震えた。

 中身が別の日本人だからといって、マコトちゃんはマコトちゃんだ。


 なんだ、俺はマコトちゃんに依存してるのか。

 食堂を出た。

 カツ丼の味は覚えていなかった。

 せっかくのカツ丼なのに。



 アントニアの馬鹿がマコトちゃんに喧嘩を売って返り討ちにあった。

 マダムエドワルダまでたぐられたら不味いなと思ったが、彼女はしれっと中間に売人をはさんでいた。

 夢の世界を作るのは大変ですわね、と彼女はやわらかく笑う。

 まったくだな、と笑顔で返す。


 これで学園に売人を入れる事は出来なくなったな。

 マコトちゃんに警戒されたのは痛い。


 『タワー』のユーインと連絡が取れなくなった。

 最初に落とした工作員から連絡があり、聖女候補に麻薬の事を嗅ぎつけられたと伝えられた。


 どうしてだ?

 『タワー』の諜報員の麻薬をどうやって嗅ぎつけた?

 たとえ、現物を見たとしても、コカインなんか素人は何なのか見分けもつかねえはずだ。


 マコトちゃんの中身の前世は警察関係者か?

 まさか麻薬取締官が転生してるんじゃなかろうな……。

 しかし、切り札の『タワー』の高官が捕まるとは。

 浸透している事がばれたら芋づる式に事が露見しかねないぞ。


「ロイド王子と組んで、次はスラムの拠点を狙うようです」


 街角のオープンテラスで背中合わせに座った『タワー』の諜報員は声をひそめてぼそぼそと語った。


 スラムの基地をつぶされるとヤベエ。

 ただでさえ、王都内の四つの集積地のうち、一つを潰されている。

 麻薬の密売は、悪者が悪者に手渡ししていくような原始的な物じゃねえ。

 コンビニの流通にも似ている倉庫と需要を読んだ配送がセットで作られている。

 ガサ入れに備えて複数の流通路、複数の倉庫に分けてはいるんだが、スラムは一次集積地として重要な拠点だ。


 マコトちゃんに俺の商売が潰される。

 やべえ、彼女の中に入ってる奴はよほど切れ者だな。

 そして、噂だが、マコトちゃんは治癒魔法で麻薬の依存症を消す事も出来るらしい。

 やべえやべえ。

 なんだそのクソチートは。


 スラム基地にガサ入れが入るといっても、そんなすぐにはこねえだろう。

 とりあえず、王都外の集積地を四つに分けて運営するか。


 だが、マコトちゃんはそんな甘い相手ではなかった。

 ユーインが捕まって、すぐ、警備騎士団と聖騎士団がスラム基地を襲撃し、その日のうちに壊滅させた。

 うそだろう……。

 逃げ帰った部下は聖騎士の部隊長リンダ・クレイブルの恐ろしさに震え上がっていた。

 リ、リンダは教会のお世話係のモブだろ!

 なんでそんなに強いんだよ。


 やべえなあ。

 一年かけて作った麻薬の販売網が、たった一日で半壊している。

 何とかしてマコトちゃんを排除しないと。

 キャラへの思い入れで手加減してる場合じゃねえぞ。


 俺は懇意にしているエドモン組長を訪ねて、マコトちゃんの暗殺を依頼する。

 本当はポッティンジャー十傑衆を使って必殺の計画をぶつけたいところだが、王家側の捜査速度が速すぎる。

 虎の子の銃を渡しておいた。


 銃の生産も始まってるが、どうも工業品質にばらつきがありすぎて不良品が出過ぎるな。

 まったく使えない訳じゃ無いんだが。


 俺はその足でマダムエドワルダを訪ねた。

 マコトちゃんの事を愚痴ると、彼女は怒りに燃えたようだ。


 あの捜査速度だと、いずれマダムエドワルダまで到達するな。

 その時がきたら王都の麻薬販売網は終わる。

 俺は王都に隠してある火薬のありかを教えた。


「最悪の時が来たら聖女候補をここに招いて一緒に自爆しろ、それが夢の国を作る第一歩なんだ。お前には尊い犠牲になってもらう。夢の国が来たら、お前は偉人として永劫に褒め讃えられる。厳しい役目だが、やってくれるか?」

「あ、ありがたいことですっ、ディラルさま」


 頬を上気させてマダムエドワルダは笑った。


 まったく、俺の言う事を微塵も疑ってねえ。

 こういう馬鹿な奴らが沢山いねえと、俺は生きづらいんだよな。

 俺の為に死ね、マダムエドワルダ。


 俺はもう一人の狂信者のダガン子爵に会い、銃を渡した。


「これで聖女候補を撃つのですな」

「そうだ、王宮の審問会議があれば必ず聖女候補は出てくる、そこを撃て。可哀想だが彼女が居ると夢の国の実現が遅れるのだ。アップルトンの未来の為に頼むぞ」

「素晴らしい任務を与えて頂き、感謝いたします」


 ダガン子爵は銃をかき抱くようにして俺に頭を下げた。

 お前も俺の為に死ね。

 マコトちゃんがいなくなれば、俺の勝ちだ。


 そして俺は王都を逃げ出した。

 後で聞いたが間一髪だったらしい。

 マコトちゃんとリンダが俺を鬼の形相で追っかけて来ていたらしい。

 まったく、怖い奴らだぜ。


 俺の二件の暗殺計画はあえなく失敗したとポッティンジャー領の俺の領地で聞いた。

 そして、王都の麻薬ルートが、ほとんど切られた事を俺は知る。

 下町のヤクザルート、西の商業街ルート、夜会ルート。

 残ったのは秘密結社ルートだけだ。


 どうやってルートを感知しているのか、訳がわからなかったが、王都の門に麻薬感知魔導具が配備されたと聞き納得した。

 だれか知恵のある魔道士が魔導具を作って捜査してたのか。

 想定外だった。

 だが、それにしても、感知が早すぎるような気がするな。

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― 新着の感想 ―
[一言] >どうも工業品質にばらつきがありすぎて 工業製品の品質を安定させるのは難しいからね 個人の技量に頼らない品質管理は統計学を応用して20世紀に生まれたものだし
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