第558話 山高帽視点:流れて行く野良犬②
芥子の花を森の中で見つけた。
こっちの世界は錬金術の薬品とか治癒魔法がある関係で医術が進んでいねえ。
だから麻薬なんかも発展してねえ。
麻薬を作れば天下を取れる。
天啓が走った。
だが、俺は芥子の花に向けた手をふと止めた。
麻薬を作って、マコトちゃんに顔向けできるのか?
前世の知識を使って麻薬王にはなれるかもしれねえ。
だけど、王都の乙女ゲームの世界の奴らとは肩を並べて笑い合う事はできねえ。
やり直すって決めたんじゃねえのか?
ここで麻薬を取ったら、行き着く先は結局前世と一緒だぞ。
そう思った。
芥子の花の前で俺は膝を付いて苦悩した。
どうしたら良いのか解らねえ。
乙女ゲームの世界に入り込むなら、絶対に芥子の花に手を伸ばしてはいけない。
そんな事は俺にも解った。
麻薬は闇の世界への切符だ。
光の世界で笑い合う奴らとは絶対に相容れねえ。
だが、麻薬以外で俺はのし上がれるのか?
今は算数の能力で村長に取り入っている。
なんとか、頑張れば郷長ぐらいまでは行けるかもしれねえ。
でも、そんな地位では王都には行けねえ。
ちょっと偉くなって、誰かの為にあくせく働いて、そして爺になって死んで行く。
マコトちゃんと知り合う事なんかできねえ。
ロイド王子と友達になって遊び歩く事もできねえ。
カーチスと殴り合って親友になることもできねえ。
アンソニー先生に勉強を教えて貰う事も、できねえし、カロルちゃんと友達になってポーションを売ってもらう事もできねえ。
ケビン王子の部下になって活躍することもできねえ。
ジェラルドとも、エルマーとも知り合えねえよ。
あの世界にはこのままじゃ絶対に行けねえ。
だったら。
だったらさあ、麻薬を作ってなりあがって、暗黒街の顔役になれば。
そうすれば、あいつらの顔だけでも、姿だけでも一目見れる。
どうして、俺は農奴の息子なんだ。
どうして、俺は王都の商家にでも生まれなかったんだ。
どうして、俺は下級でも良い、貴族に生まれなかったんだ。
どうして、どうして。
俺は芥子の花に手を伸ばした。
決意は固まった。
世界が俺の居場所を作ってくれないなら、俺の出来る事で自分の居場所を作ってやる。
失敗して、また南米の時のように破滅するかもしれない。
だが、麻薬で成り上がる以外、俺にはマコトちゃんたちと同じ時間を過ごす事が出来なさそうだ。
また、日陰の道を進む事になるが、俺はあいつらと同じ時間が過ごしてえんだ。
ただ、働いて、爺になって死ぬのは嫌なんだ。
麻薬で成り上がると決めてからは早かった。
次の年の芥子から阿片を作り、村長一家を麻薬漬けにして操る事は簡単な事だった。
こっちの世界の人間は麻薬の耐性が低いのか、中毒になるのが早い。
中毒患者になれば分別はガキ以下になるので俺の思い通りになる。
阿片を作り、麻黄を見つけ覚醒剤を作った。
大きい街の顔役に麻薬を流し、そして操る。
俺は前世から自分では麻薬をしねえ。
あんな薬をやる奴は頭がいかれてるとしか思えねえな。
金がジャブジャブ入ってくる。
その金で農民を雇い、畑を広げた。
こっちの家族も金を欲しがったが、あまり分けてやらなかった。
なんでろくに飯も食わせてくれなかった奴に恩返ししなきゃならないのか解らなかったからな。
ただ、農奴の借金を返し、家族を本物の農民にしてやった。
これも、俺の身分を上げるだけの為だった。
さすがに平民じゃねえとな。
農奴は地主の所有物あつかいの奴隷だしよ。
派手に動いていたら、ポッティンジャー十傑衆の一人、ヴィクターに見つかった。
逆に始末してやろうとしたら、奴はとんでもねえ凄腕で、俺は捕まった。
ここで終わりか、と思ったが、ポッティンジャー家の当主、ドナルドさんが麻薬に興味をしめした。
俺は全力を込めて麻薬の販売計画を、麻薬を使った敵の切り崩し工作を話した。
膨大な金が生まれると言った時に、ドナルドさんの目が輝いた。
ヴィクターは憮然としていた。
先代は麻薬なんかには手を出さなかったとも言った。
うるせえ、執事風情が公爵さまに口答えすんじゃねえよ。
先代が言っていた麻薬は迷宮由来の物で、俺が作る麻薬はそんなもんじゃねえんだ。
と、思っていた。
俺はドナルドさんに取り立てられた。
部下も出来、王都への販売工作や、敵派閥の切り崩し工作を任された。
いや、つけられた部下がグレイブって言って、まったく使えない奴だったんだけどな。
グレイブは公爵家のクソみたいな工作を受け持つ奴で、腐ったゲス野郎だった。
まあ、そういう奴を使うのは前世から慣れてる。
主に金だ。
取り立てられてポッティンジャー十傑衆の一人に入れて貰ったが、他の奴らはみんな貴族やそれに類するもので、農奴の俺を馬鹿にしていた。
悪役令嬢のビビアンさまにも会った事がある。
なんだか、高慢ちきで嫌な雌ガキだった。
WEB小説のように、悪役令嬢と呼ばれていたんだが、実は心が綺麗な御姫様、では無かった。
性格がいいなら、今後の破滅的な運命を救ってもいいな、と思っていた。
でも、奴の本性を知って、勝手にマコトちゃんに滅ぼされろ、と俺は結論を下した。
そして、俺は念願の王都に行ける事となる。
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