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第556話 山高帽とガチのタイマンをする

 発射の瞬間、山高帽はペッパーボックス銃を投げ捨てた。

 奴の手を離れたところで銃は暴発した。


「あぶねえあぶねえ、お前は銃を暴発させられるんだったな」

「ちっ!」


 手の中で暴発してれば後は楽だったのに。

 山高帽は懐から短剣を取り出し、抜いた。


「まあ、高等生の嬢ちゃん相手なら銃を使うまでもねえか」

「なめんなよ山高帽」


 奴は短剣を構えた。

 私が子狐丸で斬りかかると奴は丁寧にはじいてしのぐ。


 キンキンキン!


 意外に訓練された剣の腕だ。

 とはいえ、リンダさんとは比べものにはならない。

 カトレアさん以上、カーチス兄ちゃん以下だな。


 くるくるまわりながら私たちは闘犬のように街道の上で剣と小刀を打ち合う。


「くそっ! 頭がわりいなお前は、どうして人より有利なのにそれを使ってのし上がろうとしねえんだっ!! くだらねえ教会の仕事にせっかくのチートを使いやがってっ!」

「お前こそ、なんで人を踏みつけにして平気なんだよっ!!」

「俺は俺の為に力を使う、当然のことだろうがっ!! この世の中はなあ、弱肉強食だっ!! つええ奴がなんでも思い通りにして良いんだっ!!」

「じゃあ、私の方が強いから、お前を良いようにするぞ」

「ざけんなっ!! 小娘がっ!!」


 私には障壁がある。

 閃光も使える。

 だが、なぜだか山高帽には使う気にならなかった。

 正々堂々、とも違うんだが、なんとなくだ。


 山高帽の短剣がくねって私の二の腕を深くえぐった。

 激痛が腕から走る。

 奴はニヤリと笑った。


『ヒール』


 私の腕は一瞬で治る。


「なっ、きったねえぞっ!!」

「汚い? お前が狙うのは、私の心臓か、脳だ。それ以外はまったく有効な攻撃じゃ無いぞ」

「なっ! ば、馬鹿な……」

「お前は何と戦ってるつもりでいたんだ? こちとら聖女だ、魔王とタメで戦う生き物だぞ?」

「そ、そんな……」

「そして、私の右手の刀は聖剣だぞ」


 山高帽の防御に使った短剣を、私は子狐丸の特殊能力ですり抜ける。

 そして、奴の手首を斬る。

 それだけで、奴の右手は動かなくなる。


「な、何をっ!!」

「こいつは敵の神経だけを断つ事ができるんだ。元よりお前に勝ち目なんかねえよ」


 動かなくなった右腕から左腕に得物をチェンジして、山高帽は真っ青な顔で短剣を構える。


「お前の攻撃は何発入れても私には有効打にはならない、私の攻撃はかすっただけでその部位を動かなくできる。どうだい、汚いだろう聖女ってやつはさ」

「ち、ちきしょうっ!!」


 山高帽は必死になって左腕で攻撃してくるが、動きが悪い。


「死にたくないっ!! 死にたくないっ!!」

「マダムエドワルダも、ダガン子爵も破滅したくなかったろうさ。お前が騙したおかげで沢山の人間が地獄へまっしぐらだ」

「騙される奴が悪いんだっ!! 俺は、俺はこのゲームのプレイヤーだっ!! 選ばれた存在なんだっ!! こんな、こんな所でっ!!」

「このゲームでも、お前はルール破りの敗北者だよ」


 私は山高帽の間合いに踏み込んだ。

 左手からの斬撃を避け懐に飛びこむようにして、子狐丸を奴の喉に鍔元つばもとまで突き刺した。

 山高帽の目がまんまるに見開かれた。


 人の命を初めて奪うのに、何か気の利いた事を言おうと思ったけど、何も思いつかない、ただ目で奴にさらばと告げた。

 私はそのまま頭部に向けて切り上げる。

 山高帽が二つに割れて飛んだ。

 子狐丸はまっすぐ天を指していた。


 魂が一つ、天蓋に向けて飛び上がっていくのが見えた。

 山高帽だ。

 魂を衛星軌道で虫干しして、また地上に生まれ変わってこい。

 次は良い人生を歩めるといいな。


 私は盾剣と子狐丸を納刀する。

 チンと澄んだ音が街道に響いた。



「マコトー!!」

「マコトーっ」


 カロルとアダベルが飛空艇から下りてきて私に駈け寄ってきた。


「終わったの?」

「終わった」

「だけど、そいつ生きてるじゃんっ」


 アダベルが胸に抱いた黒猫の手で地に伏せたディラルを指した。

 彼はわなわなと手を震わせている。

 子狐丸は斬りながら治癒させるので、顔に傷一つないのだぜ。


「もう、只のディラルさんだ、山高帽じゃないよ」

「え? どういう事マコト?」

「山高帽は別の世界の前世の記憶をもって生まれた転生者だったから、その転生者の魂を記憶ごと斬って天に送り返したんだ」

「転生者?」

「ああ、そうだったのか、なるほどね」

「な、なんでアダベルが納得できてるの?」


 カロルはアダベルの方に向いた。


「ああ、竜は大人になると次元転移できるから。色んな別の世界があるらしいぜ」

「そ、そうなのっ?」


 竜の魔法は凄いな、異世界転移できるのか。


「マコトも……、その、転移者なの?」

「あ、うん、まあ、そう」

「そう……」


 あーあ、これでカロルと距離ができるかな。

 やっぱ転移者とかうさんくさいよねえ。

 まあ、しょうがないか。


「この刀で私の頭を斬ると、この世界のマコトだけを残して異世界から来た私は消せると思うよ」


 うん、まあ、カロルが望むなら、それでも良いかな。

 パン屋の娘のマコトだけになっても、まあ、大丈夫だろう。

 ゲームではそうだったしね。

 ちょっと寂しいけど。


「駄目っ!!」


 カロルがいきなり抱きついてきた。


「わ、私が好きなのは、今のマコトよっ!! か、変わっちゃ駄目っ!!」

「そ、そう?」

「うん、大丈夫、だから泣かないで」

「う、うん」


 カロルの胸に頭を抱かれて、なんだか泣いてしまった。

 鼻の奥がツーンとなって、涙があとからあとから出てきた。

 良いんだ、このままの私で。

 ありがとう、カロル。

 大好きだよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ルール破りの敗北者」(ルビ チーター)
[良い点] 無事に決着を付けて、カロルさんにも受け入れてくれて、本当に良かったです〜
[一言] これ、ひょっとしたら普通の人の魂的なものも切れる?そうだとしたら防ぎようが……金的令嬢こわい!
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