第552話 銃器工場火薬工場を破壊しつつ領城へ向かう
ヴィクターはベンチに座り黙って操縦室内を観察しているようだ。
アダベルがじゃれつくが、それに言葉少なく対応している。
「あの影凄いな、出してみて出してみて」
ヴィクターは黙って両手の平を向かい合わせ、影で出来た猫を作った。
「うおっ! 猫、影の猫っ!! すげえっ、可愛いっ!!」
アダベルが大喜びである。
【向こうの村に銃器制作工場と火薬製造工場があります】
「潰そう!」
「自立魔導頭脳があるのか……」
ヴィクターがぽつりとつぶやいた。
アダベルは影の猫と絶賛遊び中である。
私は隣接する工場に近づくと伝声管の蓋を開けた。
「銃器工場と火薬工場の中にいる作業員につぐ、こちらは聖心教です。今からその建物を破壊します。巻き込まれたくない人は建物から待避ねがいます」
二つの建屋から人がばらばらと逃げ出した。
【銃器工場、火薬工場共に作業員は待避しました】
「マコト、マジックミサイルで壊すの?」
「そうそう」
「エイダさん、マジックミサイルの準備ねがいます」
【了解しましたサブマスター、発射管一番から八番にマジックミサイル充填します】
床下から、ウイイン、カシャコンとマジックミサイルが充填された音がした。
カロルが武器管制ハンドルを握って照準を合わせる。
「マジックミサイル、一番二番、四番五番、発射!!」
シュパオオオンと白煙をなびかせて四発のマジックミサイルが銃器工場、火薬工場に吸い込まれた。
銃器工場は建物が崩れただけだが、火薬工場は火薬に引火して派手な爆発が起こった。
ズドドーーン!!
キノコ雲が発生し、衝撃波で船が揺れた。
ヴィクターが眉間にシワを寄せて操縦室内を見回した。
「遊覧船と思ったが、駆逐飛空戦艦ほどの武装をしているのか」
「この船は小さいけど戦闘力は高いよ」
「教会の戦力……」
とはいえ、魔導機関銃とか聖女ビーム砲を説明してあげる必要はないな。
ヴィクターは敵方だし。
「領城に行ってどうするつもりだ、ドナルドさまと交渉が目的か?」
「そうだよ」
「無意味だ、全員拘束されて終わりだ。王都に戻った方がいいぞ」
「ヴィクターに心配される事じゃないさ」
「……」
アダベルがきょとんとした顔でヴィクターを見上げた。
彼女は影の猫を胸に抱いている。
「ヴィクターは悪者なのか?」
「……悪い事をしているつもりは無い、聖女候補とは正義の形がちがうのだ」
「そうか、むずかしいな」
そういうと興味を失ったようにアダベルは影の猫を床に下ろし遊びはじめた。
飛空艇はレーダー走査をしながらポッティンジャー領城に向けて飛んでいる。
時々眼下に村や街が見える。
どの村も街も煤けて貧乏そうだな。
「どこも貧しそうだ」
「……」
ヴィクターは答えない。
「あんたほどの諜者を釘付けにするほど、住民の反乱が頻発しているそうだな」
「え、街は貧乏なのか、美味しい物は?」
アダベルが絶望的な声を上げたので私は笑ってしまった。
「しょうがない、クッキーを食べよう、ヴィク、食べるか?」
「けっこうだ」
「そう言わずに、美味しいぞ、アンヌ、お茶を入れてくれ-」
「かしこまりました、アダベルさま」
アンヌさんが現れて操縦室を出ていった。
「アダベルは本当にドラゴンなのか?」
「本当だよ」
「大きくなれるのか?」
「なれるよ」
ヴィクターは頭の中でアダベルの脅威度を測っているのだろうな。
駆逐飛空戦艦並の船とドラゴンを合わせると結構な戦力だな。
ポッティンジャー領を沈める事もできそうだ。
遠く領城が見えてきた。
これまでの道中に麻薬工場も銃器工場も無かったな。
山高帽の領地に固まっていたみたいだね。
奴の作った半端物の銃器を思い浮かべる。
山高帽はああいう人間なのだろうと思う。
命中率が悪く、武器として完成されていない物を作って満足している。
中途半端な男だ。
職人気質が足りない。
性能の悪い銃をいくら作っても、世界の脅威ではない。
この世界の人間の大半が投射型系魔法が使えるのに、銃を作れば流行ると思っているのが考えが足りない証拠だと思う。
麻薬はきちんとした物が作れる。
覚醒剤と阿片だ。
たぶん、どこかの国で生産基地を作っていたのだろう。
そして、小国を乗っ取る方法も覚えたに違いない。
悪の知識チートだな。
麻薬で不幸になった生徒達の顔がうかぶ。
山高帽が居なかったら起こらなかった不幸だ。
マダムエドワルダも、ダガン子爵も山高帽の犠牲者だ。
「ヴィクター、ポッティンジャー公は山高帽を引き渡すと思うか?」
「……交渉によるだろう」
ふむ。
では、無理矢理にでも交渉で奴を引き渡して貰おうか。
飛空艇はポッティンジャー領城に近づいた。
「エイダさん、着陸可能な場所はある?」
【中二階のテラスに下りる事ができます】
「俺が先に入ってドナルドさまに面会を取り付ける、城外でまて」
「めんどくせえ、押し通る」
「衛兵に捕まるぞ」
「蹴散らしてやる」
ヴィクターは苦い顔をした。
うるせえ、こちとら聖女さまなんだよ。
礼儀なんかぶっ壊して推して参るぞ。
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