第550話 毒殺執事ヴィクターが来る!
芥子畑の真ん中に火の柱が上がった。
もの凄い火力で飛空艇の位置まで炎が巻き上がっている。
煙と炎で結界の境界がはっきり見えて炎の塔のようになっているよ。
かなり上空でモクモクと煙が広がっていく。
「雨とかに混じって有害物質が降らないかな」
「かなりの高温の火みたいだから大丈夫じゃない。じゃあ、次ね、発射!!」
カロルは嬉々として炎の塔を立ち上げいく。
三カ所の芥子畑を火柱に変えた。
近くの建物から人が出てきて火柱を見て騒いでいる。
蒼穹の覇者号を彼らの上に移動させた。
『あーあー、こちらは聖心教会です。ご禁制の作物を焼却中です。危ないので火柱に近づかないでください。くりかえします』
船外放送で声を掛けるとこちらを見てわあわあ騒いでいる。
【阿片工場は緑色の屋根の建物です。隣に倉庫もあります】
「マジックミサイルで壊しちゃう?」
【ナパームで焼き尽くすべきでしょう。瓦礫からでも掘り出されますので】
そうかー。
製品も焼いてしまうのが手っ取り早いね。
【ですが、従業員が六名建物内におります】
「退去命令を出そうか」
『こちらは聖心教会です。緑の屋根の建物を麻薬工場と認定、隣の麻薬倉庫共々焼却いたします。中にいる六名は退去してください。繰り返します……』
建物から人相の悪い人々がかけだしてきた。
あの中に山高帽はいるのか?
『そちらに工場の責任者はおりますか?』
わたしが問いかけると人々は顔を見あわせた。
「ディラルさまはいねえ、留守だ!」
にゃろう、運の良い奴だな。
まあ、どこかにいるだろうさ。
というか、山高帽が帽子を脱いで六人の中に紛れていても解らないけどな。
『焼却しますので下がってください』
六人は走って逃げた。
後ろを見ると依然として芥子畑の炎の塔は消えていない。
どれくらいで鎮火するものなのだ?
一人が走って戻ってきた。
「か、金っ!! あと作業伝票っ!! それだけは取りにいかせてくれっ!!」
『解った、だけど、こちらには感知装置があるから、麻薬を収納袋に入れても隠せないからね』
ぎくりとおっちゃんの体が震えた。
『一回だけ、手に持てる量だけ許可します』
「わ、わかったっ!!」
森に逃げた五人も戻って来て、建物の中に消えた。
「エイダさん、奴らが麻薬を持ち逃げしないか監視をおねがいします」
【了解です】
程なくして六人は手に手に荷物を持って建物から出てきた。
【金銭と帳簿ですね】
「製造工法が書かれたノートとか持ち出されると困るな」
「無いわ、そういう書き付けがあったら山高帽が居なくても麻薬が作れちゃうから。保険の為に作らないわ」
おお、カロル冴えてるな。
「じゃあ、発射するわ」
「おねがい、カロル」
カロルは建物と倉庫に照準を合わせて結界式ナパームマジックミサイルを発射した。
ズドオオオオオン!!
轟音と共に火の柱が上がり、建物も倉庫も溶解していく。
どんだけ高温の火魔法なんだよ。
【この近辺の麻薬畑の焼却は終わりました。隣の山に麻黄畑と覚醒剤工場があります】
「わりと固まっていたね」
【首謀者の支配している地域なのでしょう】
山高帽の貰った領地なのか。
そうすると、ここら辺を走査すれば全滅させられるかな。
まあ、後でざっと領内を走査するけどね。
麻黄畑にも行きナパームミサイルで焼き払う。
同じような建物があって、倉庫も同じ形式であった。
畑が三枚で三発、建屋と倉庫に一発。
十発のうち八発使ったな。
麻黄の畑がある丘の隣に、コカの木の林と建屋があった。
よくもまあ、アップルトンの気候で育ったもんだな。
なにか魔法的な栽培法でも使ったかな。
コカ林に一発、建屋に一発で、ナパームマジックミサイルは無くなった。
きっちりしてんな。
「焼き討ち終わり?」
「終わり終わり」
「わーい、近くの街でなんか果物を買おうぜっ」
もう、アダベルは食べる事ばかりだな。
意外に早く片付いたから、三時のお茶ぐらい良いかな。
と、思ったら操縦室の片隅にモヤモヤした影が現れた。
なんだっ?
【魔力反応。闇魔法です】
黒い影は黒いマスクを被った怪人の姿に変わった。
「ここはポッティンジャー領だ、聖心教会が何をしている」
ヴィクターの術だな。
「やあ、ヴィクター久しぶりだね」
「……お前なぞ、しらぬ」
「ご挨拶だね、ジェームズ翁と一緒に何度も会ったじゃんよ」
アダベルがヴィクターの影におそるおそる近づいていた。
「これ、虚像かな?」
「そうですわね」
いつの間にか、アンヌさんとダルシーが現れて戦闘態勢を取っていた。
「おーっ」
アダベルが虚像をちょんとつついて歓声を上げた。
ディスプレイが数回点滅して、地図の所に赤い点が灯った。
ヴィクターめ、近くの森の中に居るのか。
「ここはポッティンジャー領だ、領民の財産を勝手に焼くのは許されない」
「へえ、ここはポッティンジャー公の命令で栽培されている作物の畑なのかい?」
「……違う。ディラルという男が代官をしている村だ。作物に関しては公爵は関知していない。だが、領民である村人の私有財産を勝手に焼くことは許されない」
さすがはヴィクター、上手い事逃げるね。
「山高帽はどこ? ディラルという代官でも良いけど。同じ人でしょ。ポッティンジャー十傑衆の一人。言ってみれば麻薬のディラルかな?」
「なぜ、お前にそんな事を言わねばならない? とりあえずお前達を領法にて私有財産の損壊で逮捕する」
「やってみろ、毒殺執事のヴィクター」
私がすごむと、ヴィクターからギラリとした殺気が漏れてきた。
「後悔するぞ、聖女候補、お前はまだ攻撃光魔法を知らない……」
言葉の瞬間、ヴィクターの影は私に向かって走り寄ってきた。
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