第549話 カロルと一緒に焼き畑攻撃開始
蒼穹の覇者号はポッティンジャー領に向けて全速前進中である。
「だけど、なんで私が焼き討ちに行くって解ったの?」
「今日昨日とマコトの受け答えが変だったし、ジェラルド卿がそれっぽい事を言ってたし」
ジェラルド、貴様だったのかっ。
まあ、いろいろカロルの前でキョドってたのは確かだけどね。
カロルは副操縦席に座って船長帽を被った。
お揃いだね。
「それで、本当に麻薬畑を焼くの? 領軍が出てこないかな」
「大丈夫、空中だし」
「ポッティンジャー公爵と教会の戦争にならない?」
「戦争になると、ポッティンジャー公爵が麻薬を裏で売ってた事になるので、それはそれで問題ないです」
「あ、そうか」
「彼が教会に宣戦布告した瞬間に、逆賊としてポッティンジャー公爵は王家の勅命を受けて、ビビアンさまは婚約破棄、王軍が領内に侵攻するよ」
麻薬畑を保護すると政治的には詰んでしまうのよね。
ただ、こちらとしても内戦の火蓋を切りたくはないなあ。
畑を焼いた後、ドナルドのおっさんと話を付けるか。
今の所、剣弓毒の条約は結んでいるわけだし。
教会と山高帽との私闘、という形にすればドナルドのおっちゃんも文句は無かろう。
嫌なら王家と戦争しろよ、だな。
「ブドウブドウ~~、あれ、春にはブドウ無くないか?」
ち、気がつきおった、アダベルのくせに。
「なんか、現地で見繕って食べよう、イチゴとかサクランボとかがあるだろうし」
「そうかー、サクランボかー」
なんだか日に日に腹ぺこドラゴン化していくな、アダベルは。
「アンヌ、アダベルにクッキーをあげて」
「かしこまりました」
「うわーーいっ!」
「マコトさまもいかがですか? 松風堂のものです」
「あ、二枚ください」
松風堂は王都で有名な老舗だな。
ぼりぼり。
ああ、この味は……。
いつものルーベラもどきは松風堂の物か、今度買って食べよう。
アダベルはクッキーの缶を抱えてもっしゃもっしゃ食べているな。
「うまーい!」
「それはよかったわ。ドラゴンに騎乗するなんて初めてだからドキドキしたわ」
「クッキー一缶で、また乗せてあげるよっ」
「また今度お願いね」
チェーン君で鞍を作って無ければ危なかっただろうなあ。
万能だな、チェーン君。
飛空艇は順調に速度と高度を上げて空を行く。
ジャンボジェット並の速度が出るというから凄いよなあ。
一気にアップルトンが狭くなった感がある。
馬車だと行けてホルボス山ぐらいまでだもんな。
丘陵地帯の上を飛び、湖の上を飛ぶ。
湖畔の古城はどこの城かな。
飛空艇の運転はなにげに楽しいな。
アダベルは退屈になったのか、後ろのベンチで寝転んで足をぶらぶらさせていた。
「アダベルは今日は何してたの?」
「みんなとガクエンチョの家で勉強~~。算数が難しい」
「そうかあ、コリンナちゃんに教えてもらいな」
「勉強の時間以外に算数とかしたくない~~」
それもそうだな。
「キルギスが算数得意で悔しい。ナタリーには国語で勝てない~~」
うんうん、子供同士で競い合ってお勉強は良いね。
しばらくすると、蒼穹の覇者号はポッテンジャー領に入った。
しかし、この広い公爵領から麻薬畑を探さないとならないのか。
手間だなあ。
「エイダさん、広域魔導レーダーを照射」
【対象物は阿片、覚醒剤、銃器でよろしいですか?】
「あと芥子と……」
覚醒剤って何から作るんだ?
あっ。
「カロル、咳止めの薬草の名前は?」
「色々あるわよ、 麻黄とか」
「エイダさん、麻黄は感知できる?」
【……はい、前にビアンカさまが麻黄も芥子もサーチしておりました】
あ、そうか、先に探知物質を入れておいてくれたんだな。
ビアンカさまは隙が無いな。
というか、未来が見られるから当然か。
探す植物が解らなくて私たちが右往左往している世界線もあるんだろう。
「それらをざっとサーチするのに、ポッティンジャー領全体だとどれくらいかかりそうかな」
【三時間ほどですね】
とりあえず、感知漏れが無いようにざっとでもポッティンジャー領全域を走査しないとね。
「では、広範囲サーチをお願いします」
【了解です】
いくらなんでも領の反対側に麻薬畑と工場が離れている事は無いだろう。
能率を考えても、わりと隣接しているはずだ。
あとは、阿片と覚醒剤の工場が離れている可能性があるな。
あと、コカインだ。
コカインはコカの木をこの国に持って来たのか?
ああいう物は熱帯の南米とかにしか生えないのでは無いのかな。
「コカの木の走査実績は?」
【……あります。同時に探しますか】
「おねがいします」
登録してある、という事はあるのか?
コカインの流通は少なかったからポッティンジャー領で育てた可能性もあるな。
とりあえず絨毯爆撃みたいに走査していこう。
蒼穹の覇者号はポッティンジャー領を上空から走査しはじめる。
一時間ほどたった後、反応があった。
山村、痩せた小山の所に芥子の畑が見つかった。
「どうやって焼くの?」
「ビアンカさまがナパームマジックミサイルをくれた。十発。これだけで足りるっぽい」
「ねえマコト……。あなた、ビアンカさまに良いように使われてるんじゃない?」
「そ、それは思うけど、必要だし」
「マコトはお人好しだから心配よ」
「だ、大丈夫。多分」
カロルは不満そうだが、しかたがない、ほっとくと世界大戦が起こってしまうのだ。
私は嫌だよ、世界大戦でカーチス兄ちゃんとかエルマーとかが死んだりするのは。
コイシちゃんの故郷だって戦火に沈むかもしれないしね。
「エイダさん、ナパームマジックミサイルは普通に発射すれば良いの?」
【はい、再走査しましたが、手前の芥子畑に人は居ませんでした。畑の中央に発射してください。千クレイド平方に火がはしります。同時に三千クレイドの高さの筒状の結界が発生し有害な煙を高空に排出します。根元には微細な穴があいておりますので燃焼効率も上がります】
うっはー、煙突効果か。
結界で作ったロケットストーブだな。
「マコトは操縦していて、私が発射するわ。エイダさん、火器管制ハンドルを出して下さい」
【了解しました、サブマスター】
カロルの席の火器管制ハンドルがガチャリと下りた。
「ちょ、カロル」
「畑の真ん中ね、エイダさん」
【燃焼予想範囲を照準器にマークしました】
ディスプレイに燃焼予想範囲の円がでて中が赤くなった。
「ナパームマジックミサイル発射!」
カロルが引き金を引くと同時に足下でバッシューと音がして、マジックミサイルが発射された。
「おお、かっけーっ!!」
アダベルが歓声を上げた。
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