第548話 蒼穹の覇者号を追跡する謎の高速飛行物体
渓谷の上で垂直上昇して高度を上げる。
空に舞い上がるこの感じはいつでも良い物だな。
しかし、ビアンカさまめ、山高帽退治は織り込み済みであったな。
二代前の聖女さまのお墨付きだ、がっつり倒すぞ。
いつかはこの世界でも麻薬や銃が蔓延する暗い時代が来るのだろうが、今じゃ無い。
前世の暗い面を持ち込んで大もうけしようとする奴は敵だ。
私は出力レバーを押し込んで蒼穹の覇者号を前進させる。
目指すはポッティンジャー領だっ!
「エイダさん、ポッティンジャー領まではどれくらいですか?」
【最大速度で約二時間ほどです】
ディスプレイに地図が出てポッティンジャー領までの航路が浮かび上がった。
ジェットの速さで二時間か、結構遠いね。
そういやドナルド公は新入生歓迎ダンスパーティに来てなかったな。
大事な娘のデビュタントなのに怠惰な事だ。
領地の状況が相当悪いのかな。
とりあえず麻薬畑と生産工場、銃の生産工場をぶっ壊して大元を断とうではないか。
ドナルドかヴィクターが何か言ってくるかもだけど気にしない。
こちとらビアンカさまのお墨付きじゃい。
ポッティンジャー十傑衆のうち、何人かが攻撃してくるかもなあ。
極大射程のエーミールは、まだ目が治ってないだろうから助かる。
アレに匹敵する長距離タイプは居ないと思うね。
今の所、名前を知っている十傑衆は、毒殺執事のヴィクターと、山高帽、あとエーミールの三人だな。
リンダさん級の剣客が居るとか聞いたな。
まあ、どうでもいいや。
蒼穹の覇者号は王都の外壁を飛び越して田園地帯の上を飛んでいる。
畑が青々として春だなあと感じるね。
だんだんと速度を上げ、高度を上げる。
視界が開けて遠くまで見える。
ポッティンジャー領は地平線の向こうだろう。
【後方より高速飛行物体接近】
「はっ?」
なんだよ、マーラーでもいるのか?
王都の近くだぞ。
エイダさんがディスプレイを切り替えてくれた。
遠くに青い飛ぶ鳥みたいな……。
鳥じゃねえや、青いドラゴンだ。
アダベルが付いてきおったか。
しょーがないねえ。
速力を下げよう。
ぶっ!
アダベルの姿が大きくなってくると、首の辺りに誰かが跨がってるのが見えた。
カロルがチェーン君で鞍を組んで乗っておる。
うわあ、怒られる~~~。
無表情ですんごく怒ってるなあ。
私は出力レバーを倒して速力を逆転させ、船を空中静止させた。
アダベルはバッサバッサと羽ばたいて近づいてきた。
【障壁を解除します。副操縦士とアダベル氏の乗船を許可しますか?】
「乗せてあげて……」
操縦をエイダさんに任せて私は甲板に行くことにした。
うわー、気詰まりだなあ。
廊下を歩いて階段を上がり、ラウンジのドアを開けて甲板に出ると、アダベルは着地する所だった。
足が甲板に掛かるとボワンと煙を出してアダベルは人化した。
カロルは甲板にすたりと着地した。
「マーコートー!」
「ごめんなさい……」
「ポッティンジャー領に麻薬を焼きにいくのね」
「はい」
「助けてくれー、チェーンが絡まった」
アダベルがチェーンでがんじがらめになっていた。
カロルが近づいてチェーン君を収納した。
「ああ、助かった、鎖で鞍をつけられると喉が苦しい」
「今度はちょっと考えるわ、ありがとうアダベル」
「いいよ。マコト、一人で美味しい物を食べに行くのはずるいぞ」
カロルはアダベルを食べ物で釣ったのか。
「ポッティンジャー領あたりで何か美味しい物とかあるの?」
「さあ、ブドウでも買ってあげましょうよ」
「ブドウか、良いなプチプチで」
アダベルはにんまりした。
カロルは私に向き直った。
「どうして一人で行くの?!」
「だって、殴り込みだから危ないし」
「麻薬の事は国家の事でしょ、マコト一人で背負わなくていいのよ」
「ご、ごめんなさい……」
転生者がらみの事だからカロルを巻き込みたく無かったんだよ。
「もうっ。一人で置いて行かれたら逆に心配だわ、何かあったら正直に言って」
そう言うとカロルはふんわりと私を抱きしめてくれた。
「解った、今後は隠し事はしない」
「約束よ」
「はい」
「ブドウブドウ~~」
アダベルは普通にアダベルであった。
ふう、あんまりカロルに怒られなかった。
良かった良かった。
三人でメイン操縦室に移動した。
あれ?
そういえば……。
「ダルシー」
「はい、マコトさま」
ダルシーはやっぱり付いて来ていたか。
「お茶を入れてください」
「かしこまりました」
ダルシーはメイン操縦室から出て行った。
「もしや、アンヌさんも居る?」
「アンヌ」
カロルが呼びかけるとアンヌさんが魔法のように出てきた。
「おりますよ、マコトさま」
「どうやって乗ったのよ、ドラゴンにはくっついて無かったわよ」
「それは諜報メイドの秘密でございます」
そう言うとアンヌさんは姿を消した。
「アンヌは尻尾の方にくっついてたぞ」
アダベルが真実をばらした。
しかし、危ないなあ。
諜報メイドは命がけであるな。
しかし、五人旅になったな。
一人旅かと思ってたのに。
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