第541話 ジャンヌお義姉様(ねえさま)が採寸に来る
A組に戻って席に付く。
アンソニー先生がやってきてホームルームである。
ダンスパーティは終わったので、中間テストに向けて頑張りましょう。
だそうである。
中間が始まるまで二週間だな。
お洒落組とカーチス兄ちゃんを鍛えねばなるまい。
基本的に出来ない人というのは、勉強の仕方が解らないのと、勉強をする癖が付いてないだけなのよね。
お洒落組も頭は悪くは無いのだから、きっと大丈夫。
えらく大変かもしれないけど、私の苦労じゃないから耐えられるよ。
うんうん。
起立して礼。
さあ、放課後だ~~!!
今日は特に予定は入ってないな。
ずいぶん久しぶりな気がする。
麻薬捜査に時間が掛かったからなあ。
捜査もそろそろ終わりだし、そうすれば暇になるぞっ!
たぶん……。
「マコト」
「ん、何、カロル」
「マコトは何か私に隠し事をしてない?」
「し、してないよ、してないっ」
うっは、恋する相手に詰問されると怖い!
「そう……。後で解ったら、怒るからね……」
「う、うん、大丈夫」
怖い。
後でばれたら、きっとすんごい怒るだろうなあ。
でも、カロルを巻き込む訳にはいかないんだなあ。
これは転生者の事だから。
私は転生者だって、カロルに告白しても良いとは思うんだ。
だけど、まだ話すきっかけが無いしなあ。
事情を話すと心配して付いてくるだろうし。
カロルに重荷を背負わしてはいけないと思うんだ。
この世界の人には、転生者が麻薬や銃をばらまいて自分の思い通りの国を作ろうとしてるってのは、関係の無い事だからね。
相談するなら、同じ転生者のカマラさんなんだけど、あんまり下着屋さんに協力してもらう事じゃないし。
やっぱりこれは聖女の光魔法みたいなチートを貰った私の仕事なんだと思う。
だから不実じゃあ無いと思いたいんだよ、カロル。
カロルは疑わしそうな顔で私を見ているので、いたたまれない。
「さて、今日は何をしようかな。聖女の湯の元は足りてる?」
「来週に作れば大丈夫ね」
「そうか、だったら集会室に行って、お洒落組に話を聞いて中間テスト対策でもしようかな。カロルは?」
「ダンスパーティが終わったから、また冒険用薬品の需要が上がるから錬金しないと」
カロルは真面目だなあ。
「秘密結社退治の方は大丈夫なの?」
「さあ? 何も言ってこないから大丈夫じゃないかな」
「丸投げねえ」
「たまにはね」
「うん、良いと思うわよ、リンダ師も聖騎士団の部隊長なんだから大丈夫でしょうし」
現場が血生臭い事になってなければ良いのだが。
まあ、知らん。
「じゃあ、別行動ね。あ、その、今日は聖女の湯の日だけど……、くる?」
「う、うん、行くわ。一緒のお風呂は楽しいし……」
なんだかお互い真っ赤になった。
カロルも胸に甘酸っぱい物が湧いているのだろうなあ。
照れくさいけど幸福感が広がるね。
女子寮に戻るカロルと玄関まで一緒に下りて別れた。
なんだかなあ。
恋愛って楽しいなあ。
私は知識だけあって実感してなかったよ。
こんなんなんだなあ。
心がふわふわするなあ。
うしし。
「マコトちゃんー」
おろ?
振り返るとジャンヌお義姉様がいた。
「よかった、探すところだったわ」
「お義姉様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、マコトちゃん。さっそくウエディングドレスの採寸に来たのよ」
「あ、そうなんですね。ダルシー、ヒルダさんはどこにいるかな」
ダルシーがいきなり現れたのでジャンヌお義姉様は目を見開いた。
「……、ヒルダさまは校内にはおりません」
「あ、リンダさんの方に行ってるのか」
「お針子さんが一人集会室におりますよ」
「おお、それはラッキー」
お針子さんに採寸して貰えば問題無いね。
「じゃあ、お義姉様、聖女派閥の集会室に行きましょう」
「あら、集会室を持ってるのね。さすがは聖女派閥ね」
「立ち上げ時に取った部屋なので、あまり広くは無いんですけどね」
「そうなんだ、楽しみね」
ジャンヌお義姉様を連れて中庭経由で集会棟を目指して歩いた。
「あらー、池に柵ができかけてるのねー」
「ちょっと事故がありまして」
「良く新入生が落ちて溺れるのよね。私の時も何人か落ちていたわよ」
意外に手つかずの池だったんだな。
あ、そうか、王子の入学があったからかな。
落ちる生徒が年に二三人だと学校側も動かなかったみたいだね。
「あー、卒業して二年ぐらいだけど、すごく懐かしいわね」
「お義姉様の学生時代はどうでしたか?」
「まー、夏は暑いし、冬は寒いけど、楽しかったわ。ブラッドと知り合えたしね」
「お義姉様のクラスはどこでしたか?」
「一年生はB組、でもブラッドと知り合って同じクラスになりたくて勉強を頑張ったから二年生からはA組よ」
「それは素晴らしいです。聖女派閥でもB組の子がいるので、二年からはA組になって欲しいんですよね」
「お義姉さんにまかせなさいっ。試験対策法を教えてあげるわよ」
「それは助かりますっ」
良かったなあ、お洒落組。
心強い味方が来たぞ。
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