第529話 王様に竜の顎の殲滅を宣言する
タラップを下りると近衛ハゲのフランソワ団長のお出迎えである。
「お前の派閥員に状況は聞いた。で、人質は救出したのか? 秘密結社員は捕まえたか?」
「人質は無事に救出しました、秘密結社員は四人確保しました。大神殿に送りましたよ」
「なぜ近衛に引き渡さないっ!! 王家の威信を賭けた学園のパーティに暗殺者を送り込まれたのだぞっ!! 近衛騎士団がこの事件を解決する権利があるっ!!」
むかっ!
「うるせーなっ、近衛騎士の誰が事件に気がついたってんだ? テロリストを見過ごしていた癖に権利だけ主張すんのか?」
「い、いや、だがっ、この行事を警備しているのは……」
「お前達が警備してたのはテラスの上のお偉いさんだけだろうがっ! 学生なんか何人死んでも気にしない癖にガタガタ言うなっ!! この件は王様に話を通して教会が仕切るからなっ!」
「ふざけるなっ、貴様あっ!!」
激高して腕を振り上げたフランソワ団長に後ろからリックさんとジャックさんが組み付いた。
「まあまあ、団長」
「まあまあ、団長」
「放せ、放せーっ!!」
リックさんとジャックさんが、目で、テラスに行けと示している。
感謝するぜー、二人とも。
巨乳の女近衛騎士のコロンブさんが私を先導してくれる。
「俺らはー?」
カーチス兄ちゃんが聞いて来た。
「私は王様に話を通してくるから、あんた達は人質さん達をもてなしなさいよ。アダベルはメリーちゃんをお願いね」
「わかったーっ」
人質さんは派閥員にまかしておけば大丈夫でしょう。
カトレアさんが仏頂面だが、たぶんドレスとヒールで思うように動けなかった事への苛立ちかな。
と思ったら黒騎士先輩のナゼールさんが来たので逃げた。
ああ、なんだ、飛空艇に乗ったのも説教から逃げる為だったか。
うむ、しょうもない。
大ホールに入ると沢山の人がダンスを楽しんでいた。
聖女派閥のたまり場にお養父様とお養母様と、ブラッドお義兄様が見えた。
わあ、せっかく来たのに話もしないで居なくなってごめんね。
後で行くから。
私はテラスに向かう大階段を上っていく。
おー、なんだかロマンチックな場所だなあ。
ケビン王子ルートだと、卒業パーティのここ大階段で、ケビン王子がビビアンさまに婚約破棄をするクライマックスシーンなのよね。
その後、ポッティンジャー派と大乱闘になるんだけどさ。
鉄扇を持ったビビアン様は、ケビン王子と主人公の二人がかりでやっと倒せる強敵だったなあ。
今日のビビアン様はテラスの長椅子にケビン王子と座って、王様と談笑しておるね。
私を見て、何しに来たのよという感じで睨まれた。
まったく、お前んとこの領から出た麻薬の後始末してんだからなあ。
隣の長椅子にはロイドちゃんとジュリエットさんがいて、小さく手を振ってきた。
「おお、帰ったか、聖女マコトよ。暗殺者が出たらしいが、どうしたのじゃ?」
私はカーテシーをして王様に挨拶をした。
「王様、単刀直入に申し上げます。竜の顎を殲滅いたしますので、関係箇所にご通達お願いしたく願います」
「りゅ、竜の顎をか? して、理由は?」
「奴らは罪の無い学生の妹や母親、姉を誘拐し、私を暗殺しなければ殺すと脅しました」
「な、なんじゃと!」
「もしも奴らを放置しておくと、私の身近な者にも暗殺を掛けると脅してきました。そして、それが嫌なら、これまでに押収した麻薬を引き渡せと」
「そ、それはならんことじゃな。それで殲滅か」
ジェラルドが奥の席から立ってやってきた。
「キンボール、竜の顎に関しては大物貴族が関わっている。王家でも軽々には手を出せない。潰すなとは言わないが、計画を練るべきだ」
「もう、聖騎士団に命令しちゃったわ、三日で殲滅しろと命令したよ、ジェラルド」
「ばっ、三日で秘密結社を壊滅できるものか!」
「やります、私の部下のリンダ師ならば、ねっ」
おっと、アップルの宣伝みたいになった。
私は王様に向きなおった。
「ですのでー、息が掛かった貴族を待避させたり、相手の首魁に隠居を勧告をしたり、色々としてください。教会は慈悲無くまっすぐ進みます」
王族さんたちが、ぐっと息をのんだ。
「無差別に非道な事をして、脅迫してくる相手には、より早い速度で殴り返し、中枢を潰さないといけません。無関係な人間に被害が及んだ時点で我々の負けです。奴らは楽に金が儲かるだけの為に人に迷惑を掛けても気にしない外道なんで、もう潰す以外の選択肢がありません」
「キンボールさんはそうするんだね、王家が反対しても」
「はい、ケビン王子、決めました」
王妃さまがため息をついた。
「ほんとうにまあ、マコトさまは、ひいお婆さまを思い出させる事ね」
「そうだな、ひい婆さまもこうじゃったな」
王様は深くうなずいた。
「わかった、聖女マコトよ。王家は竜の顎殲滅に全力を傾ける。教会がやらかした不始末があれば、こちらがなんとでも処理することを約束する」
「ありがとうございます。私の要求は黒幕の貴族の隠居を望みます。黒幕の家を取り潰すまでは望みません」
「わかった、その線でいけば、交渉の余地もあろう。たのんだぞ、聖女マコト」
「はい」
よし、王家の協力の言質はとったぞ。
ジェラルドが寄って来て私のドレスの裾を引っ張り、ケビン王子の席へ誘った。
ビビアンさまがイヤーな顔をした。
「ビビアンさまは、こちらでお話をしましょうよっ、私、あまりビビアンさまとお話してないので興味があるんですのよっ」
「そ、そうね、ジュリエットさま。王子さまたちは、何やら男爵家の娘と火遊びの相談があるみたいですしねっ」
そうだな、ビビアン、現実に火が点くやつで色っぽい奴じゃ無いけどな。
ジュリエットさんに目で感謝を伝えると、ばっちんと眼帯を掛けてない方の目でウインクをしてくれた。
そしてロイドちゃんも無言でよってきた。
王様はこちらを暖かい視線でみてくれている。
「どうするつもりだキンボール、お前はどう動くんだ?」
「リンダさんに丸投げだよ、私はなにもしない」
「『塔』と連動した方が確実だよ、キンボールさん」
「『塔』との連携は、この前拾った『塔』の諜報員がやるよ」
「ああ、マコトっちが、切った首をつなげた奴か」
「そうそう」
「お前はいったい何をしているのだ?」
ジェラルドが呆れた声を出してきた。
「フランソワ団長がうっかり容疑者の首を切り落としたんで、つなげただけだよ」
「うわ、そんな事出来るんだ。蘇生じゃないのそれ」
「まだ、蘇生とかは出来ないよ。斬られたてだったから間に合っただけだよ」
「聖女はむちゃくちゃだ」
否定はしないよ、ジェラルド。
「とにかく、ポッティンジャー領からの麻薬の供給を止めないとどうにもならないぞ。麻薬の儲けは悪漢の心の琴線に触れるからな」
「それは考えてある。思い切った事をするから、王家は何も聞くな」
「「「……」」」
王子二人とイヤミ眼鏡は押し黙った。
「飛空艇か……」
「飛空艇だろうなあ……」
「そうか、飛空艇か……」
「ノーコメント」
カロルにもノーコメントだから、君らにもノーコメントなのだ。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




