第528話 とっととダンスパーティに戻る
悪漢の四人はリンダさんたちに任せた。
聖騎士を乗せた馬車もやってきたから輸送には困らないようだ。
「じゃあ、後はよろしくね、リンダさん、ローランさん」
「かしこまりました、三日後までに必ず」
「なんとかしますよ、聖女さま」
よし、聖騎士団に任せておけば秘密結社の方は大丈夫だろう。
まことに教会の政治力は便利だな。
私たちは墓場の広場に戻り、男子生徒たちと人質の女性陣を飛空艇に乗せた。
「このまま、王宮のダンスパーティに戻るわ。あなたたちは近衛騎士団に保護してもらいます」
「なにからなにまでありがとうございます」
「え、お兄ちゃん、私もダンスパーティを見れるかな」
「だ、駄目だよ、メリーはまだ中等生だからさ」
まあ、覗くぐらいは良いんじゃ無いかな。
怖い思いもした事だし。
皆が乗ったので飛空艇を離陸させる。
【蒼穹の覇者号、テイクオフ】
このフワッとした感じはいつまでも慣れないなあ。
人質の女性陣と男子生徒は操縦席後ろのベンチに乗せた。
「あなたはどうして泣いているの?」
「ドレスを切っちゃった。ガクエンチョに作って貰ったのに」
「まあ、なんてこと、どうしてこんなになったの?」
「悪者をこらしめようと窓をぶち破ったの」
「まあ、あなたはお転婆なのね。でも私たちを助けてくれようとしたのね。ありがとう」
「うん、助かって良かった……」
アダベルがナタンくんの妹のメリーちゃんに慰められていた。
あれだよなあー、お気に入りの服を汚したりすると凹むよなあ。
私も前世で、コミケの打ち上げの居酒屋でお気に入りをソースとかドレッシングで駄目にしたよなあ。
打ち上げは酔っ払ってるから注意力が無くなるんだよね。
「アダベルちゃんにはこれを上げるよ、お礼だし」
「良い匂いの石! 良いの?」
「メリーを助けられたのもアダベルちゃんのお陰だしね」
「そうなんだ、ありがとうアダベルちゃん」
「うん!」
うお、バリバリという凄い音がしてるぞ。
「うわ、食べてるよ、お兄ちゃん」
「りゅ、竜の血を引いてるらしいから、アダベルちゃん」
「うっまーっ!!」
そうか、美味いのか。
それは何より。
「私のも上げるから、元気だして、アダベルちゃん」
「ありがとう、もらうー」
バリバリバリー。
宝石をかみ砕くからこんな凄い音なのかー。
「うまーいっ!!」
アダベルのご機嫌も直ったみたいだね。
……。
この世界のドレスって、総絹製なんだよね。
グレードが違うだけで。
アダベルのドレスのグレードは伯爵家ぐらいかな。
学園長はそれくらいの爵位だしな。
絹はモスラみたいなお蚕さんが出す糸で出来てるんだよね。
生物由来の糸か……。
「エルマー、操縦を替わってくれる?」
「わかった……」
私は操縦席を降りて、アダベルの近くに歩いた。
ドレスを改めて傷を見る。
ガラスでギザギザに切れてるなあ。
二三の傷はかなり大きい。
マーラー家のタウンハウスに降りてお針子さんに繕ってもらおうかと思ったけど、上手く行けば。
『ヒール』
おっ、おっ、青白い光の下で、少しずつ傷が塞がっていくぞ。
回復魔法は焼けた押し麦を治療できるのだから、絹地も治せるのか。
「おーっ!!」
『ハイヒール』
ああ、ハイヒールの方が早い。
生体の傷の半分ぐらいの効果だな。
これは便利。
「直った!!」
「まてまて、全部治す」
私はドレスの全部の傷にハイヒールを掛けて治した。
なんというか、聖女の回復魔法は万能だな。
今度、サーヴィス先生の馬車も治してみよう。
木製だからワンチャンあるぞ。
アダベルのドレスは卸したてのようになった。
「まごとー、ありがどーっ!!」
「や、やめろう」
泣きながらアダベルが抱きついて来そうになったので、頭をもって止めた。
私のドレスが涙と鼻水で汚れるじゃんか。
「あ、ごめん、マコト。ありがとう、ありがとうっ」
「わあ、良かったね、アダベルちゃん、切れてないドレス、素敵っ!!」
「そうだろうそうだろう」
アダベルはご満悦である。
メリーちゃんとも良いお友達になれそうね。
さて、操縦席に戻る。
「エルマー、着陸してみる?」
「まかせろ……」
「では、おねがいね」
エルマーは、エイダさんの誘導で王城の飛空艇離着陸場へ向けて飛空艇を降下していく。
結構上手いね。
覚えるのが早いぜ。
「なんで俺には操縦させてくれねえんだよ」
「カーチスは戦闘のセンスが良いから火器管制専任してよ」
「そ、そうか、それじゃしょうがねえな」
本当は、カーチス兄ちゃんに操縦権を委譲すると、色々とやばそうだからなんだけど、そういう事は言わない約束である。
【蒼穹の覇者号、タッチダウン】
ずしんと音がして、蒼穹の覇者号は王城に着陸した。
「さあ、下りてね。まだダンスパーティはやってるから」
「本当にありがとうございました」
「なんとお礼を言っていいやら」
「ありがとうございました……」
マルスラン君(一年生)は泣き上戸なのかな。
涙がつたっていて、お姉さんにハンカチで拭かれていた。
本当に無事で何よりだ。
「メリーちゃん、お腹空いたよねっ、一緒にご飯を食べにいこぅーっ、美味しいものいっぱいだよっ」
「ほんとう、アダベルちゃんっ、楽しみっ」
「あ、こら、メリー」
「おほほ、ナタンさま、後で会費を払えば良いと思いますわ。私もこんな普段着で恥ずかしいですけど、ご飯をいただこうかしら」
「奥様、ご一緒しますわ」
うんうん、人質の三人も親睦を深めてるようだね。
さて、私はテラスに上がって、王様に事情を説明しないとな。
ああ、めんどうくさい。
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