第527話 怪しい道化師が挑戦してくる
奥のドアを開けると、女性が三人縛られてソファーに座らせられていた。
「メリー!! メリー!!」
「お母さまっ!!」
「姉さんっ!!」
三人の男子生徒が人質に飛びついて縄を解き、猿ぐつわを外した。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃんっ!!」
「ジャコブや、助けにきてくれたのっ!」
「マルスランッ! よくここが!!」
人質と男子生徒たちは抱き合って泣き笑いをしていた。
うんうん、良かった良かった。
「さあ、皆さん帰りましょう。王宮まで飛空艇でお送りしますよ」
「聖女さまっ!! 助けに来てくれてありがとうございますっ!!」
「本当に生きた心地がしなかったわ」
「弟が犯罪者になるのを防いでくれて、本当に感謝します」
人質の人が口々にお礼を言ってくる。
いやあ、いいんですよ、別に。
当たり前の事をしただけなんで。
悪漢三人を縛って歩かせて、私たちは家を出た。
リンダさんが馬でやってきた。
「マコトさまっ!! 敵はいずこにっ!!」
「あ、リンダさん、ありがとう、でも終わった」
「えっ!!」
そんな悲しそうな顔をしなさんな。
サクッと終わって何よりなのだよ。
「ま、まあ、マコトさまの晴れ姿を見る事ができて嬉しいですけど……。お美しい」
熱い視線をくれるない。
「人質を使って暗殺未遂ですか、敵はどこですか」
「竜の顎という秘密結社だって」
「ふむ、次は秘密結社ですか」
暗い森の中に高笑いが響き渡った。
『ほーっほっほっほっ、無駄無駄無駄でーす。我々竜の顎はどこにでもおります、いかな聖女さまでも撲滅は不可能でーすっ!』
森の遠くにピエロの面をかぶった怪人がいた。
仮面には夜光塗料が塗ってあるのか、光ってうごめいている。
『ここで取引といきましょー。あなた方が押収した麻薬を卸値の二倍の値段で引き取りましょうー。どうですかー、教会の損にはならないはずでーすっ』
クソ、やっぱり麻薬の流通狙いか。
山高帽がらみの組織だな。
上級貴族がつるんで秘密結社ごっこをしてるんだな。
「嫌と言ったら」
『おほほほっ、それならあなたが死ぬまで同じ事を繰り返しまーす。あなただけではありませーん。あなたのお友達。あなたが好きな殿方にも、同じ攻撃をしまーす』
サーチ。
カーーーン!
よし、あそこでうごめいてるのは人形。
操作している奴は少し遠くに居る。
あと一人、別の方角から歩いて来てる奴がいるが、これは教会の人間かな。
『我々を舐めて貰っては困りまーすっ。次の攻撃の時にもう一度同じお願いをしまーす。その時に気が変わって……』
「崩壊!」
バシュッ!
森が閃光で真っ白に染まった。
光球を目立たないように撃って、隠れている馬鹿の目の前で極大閃光を炸裂させてやったぜ。
「ぎゃあああっ!! 目が、目がーっ!!」
リンダさんが藪に飛びこんで馬鹿を捕まえて来た。
礼服を着た身なりの良い紳士であった。
「こいつはなんか色々知ってそうね」
「そうですね、幹部クラスでしょう」
「や、やめろ、私は違う、違うんだ、人違いだっ!」
「藪に隠れて人形を操ってたでしょ。他に人居ないし」
「う、嘘だ、私は竜の顎とは関係がないっ!!」
「リンダさん、こいつから色々聞き出してください」
「かしこまりました」
ひょこっと木陰からローランが顔を出した。
徒歩で近づいてきたのはあんたか。
「やあ、聖女さん、大手柄ですな。こいつはモンゴルフィエ子爵です、竜の顎の重鎮ではないかと疑われていた曲者ですよ」
「ローラン。『塔』での尋問は終わったの?」
「はい、もう、俺はもう大神殿所属ですよ」
おお、『塔』上がりの諜報員の参加は心強いな。
「じゃあ、こいつと番をしていた三人を連れていって情報を引き出して」
「かしこまりましたよ」
「あと、竜の顎を三日で壊滅させてください」
「え?」
「かしこまりました聖女さま」
ローランは聞き直したが、リンダさんは承諾してくれた。
「い、いや、さすがに秘密結社を三日で壊滅とかは、無理かと……」
「ローラン、聖女さまがお望みなのだ、壊滅させねばならない」
「は、はあ、その、竜の顎には大物貴族が関わっていると噂でしてね、王家でも、『塔』でも手を出しかねているのが現状なんすよ」
「黒幕の大物貴族の家を潰さなくても良いわ、ただ黒幕は隠居してもらうから」
「ふむー。解りました、『塔』と協力してなんとかしましょう」
「なんとかしましょう、ではない、聖女さまのお言葉は絶対だ。三日で潰すぞローラン」
「は、はい、がんばりますよ」
ローランは冷や汗をかいて苦笑いをした。
「無駄だあ、無駄だあ、竜の顎は秘密結社だぞっ!! 構成員でもお互いを知らないのだっ!! 俺たちは王国の影だっ!! 撲滅なぞできないぞ」
「させる、三日で。お前達は人としてやってはいけないことを、たかが麻薬の商売のために踏み越えた。お前達はもう終わっている。教会の権力を全部使っても、お前達を壊滅させる。罪も無い学生の家族をさらって暗殺犯に仕立て上げるお前達を私は絶対にゆるさない」
モンゴルフィエ子爵は震えあがった。
「ば、馬鹿な、馬鹿な、わ、われわれは見えない存在で……」
「お前を痛めつけて、順に上をたぐって行けば良いだけの話だ。教会なめんなよ」
「一応『塔』でも首領の目星はついてるんですよ。鉱山貴族の団体なんで王家では手が出しにくいだけなんでね。教会が主体になればそんなのは関係が無いんですよ、子爵」
「利権の話?」
「鉱山貴族は国力に関わるので、王家は手を付けたがらないんです。でも、聖女さまがやる、というならやりましょう、ええ」
ローランは吹っ切れたようにニッコリ笑った。
よし、この悪質な秘密結社ごっこは、さっさとやめてもらおう。
迷惑だしな。
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