第524話 チョコミントボンボンをかじりながら銃口を待つ
パスタを噛んで、冷えたお茶を飲む。
メリッサさんがワインをカプカプ飲んでいるなあ。
大丈夫か。
と思ったら、近くの令嬢が倒れそうにふらついた。
顔が真っ赤であるな。
飲み過ぎだ。
「大丈夫、サリー?」
「だいじょうぶれすようっ、まだまだ~~」
結構駄目そうだな。
やばい感じ。
と、思ったらイケメンロマンスグレイの執事さんが、ひゅっと肩を抱いて、口にチョコボンボンを放り込んだ。
「あふっ」
「噛んで中身をお飲み下さい」
「甘っ、……、はっ!」
顔色が平静に戻り、サリー嬢はしゃんと直立した。
「わ、わたしったら……」
「少しお酒が過ぎましたようですね。お気を付けて、また気分が悪くなりましたらお申し付けください」
「あ、ありがとうございます」
「わあ、良かったねサリー」
「すごいの、一瞬で酔いが覚めたわ」
よしよし、酔い覚ましボンボンは役に立っているな。
メリッサさんが酷くなるようなら、食べさせよう。
……。
ヒールが早いか。
ちょっとふらついているメリッサさんの後ろに回って、指先で首筋をちょんと突いた。
『ヒール(小声)』
効果はてきめんで、メリッサさんはシャンとした。
「あ、あ、マコトさま、いやだわ恥ずかしい」
「大丈夫そうだったけど、念のためね」
「ヒールボンボンはちょっと味わってみたかったですわ」
「中身は薬だからねえ、ミントボンボンの方が美味しいよ」
「そうですのね」
ロマンスグレイ執事さんが、私に向かって頭を下げてきた。
「ありがとうございます、聖女さま、素晴らしい発明です、このチョコヒールボンボンは」
「いやあ、最初は壜にしようかと思ったのだけど、食べられた方が楽しいし」
「確かに壜の方が治療という感じがいたしますな。ですが、これはお菓子でもあるので、雰囲気を壊さず酔いを覚まさせてあげられます。本当にすばらしい」
「分量は足りてますか? 酷い酔いで一個では足りないとかは?」
「今の所問題はございません。新入生歓迎ダンスパーティでは、それほど酷い事になる方はあまりおりませんので、秋のダンスパーティでは多目に作っていただけるとたすかります」
ああ、やっぱり秋の方が荒れるのか。
卒業ダンパだと、しんみりした感じもあるし、歓迎ダンパだと最初だし、受け入れるから緊張するのだな。
「具合が酷い人や、病気の方がいらっしゃいましたら教えてくださいましね。回復魔法を使いますので」
「はい、とても心強く感じております。聖女様」
ロマンスグレイ執事さんが深々と頭を下げてきた。
まあ、そんなにたいした事はしてないから、ありがたがる事はないのだぜー。
さてと、おかわりをして、お食事は終わりにするかな。
また、ダンスしたいけど、相手をする男子がいないなあ。
ライアン君とバルトロ部長と踊るかな。
ダンスは楽しいからなあ。
「マリリン、なにか美味しい物あった?」
「なんでも美味しくて困ってしまいますわ。コンソメスープは女子寮食堂の物でしたわね」
「あのコンソメはどこに出しても大丈夫だしね」
やっぱり、ミニステーキかな。
あと、カップトマトと。
海老フライは美味しかったけど、大きいからなあ。
お腹の隙間は有限だから別の物を食べよう。
汚れたお皿をテーブルに置いて、チョコボンボンを口に二つほおりこむ。
ガリガリ。
スウスウ。
やっぱ、美味しいよねえ。
アダベルがお皿にお料理を山盛りにして来る所にすれ違った。
ドラゴンは沢山食べるから、味わい尽くせていいなあ。
お料理ブースに着いたので、新しいお皿を貰って、まずはミニステーキを焼いてもらう。
熱々が食べられるのは良いねえ。
あとは、ミートパイと、舌平目のムニエルの切り身かな。
トマトカップを取って、ピクルスを食べよう。
うんうん、美味しそう。
「ダルシー持って-」
「かしこまりました」
お皿をダルシーに持って貰って、コンソメスープをカップについでもらう。
また、チョコボンボンを二つ取って、おかわり終了。
いそいそと卓に運ぶと。
またアダベルとすれ違った。
何回おかわりに行くのか、あの子は。
卓にお皿をとカップを置いて、また冷たいお茶を貰う。
色んなパンを入れたかごをもったメイドさんに、二三選んで貰う。
白パンとライ麦パンだね。
パクリ。
んー、白パンは満月堂だ。
さすがの美味しさだなあ。
コンソメと良く合う。
ミニステーキを食べ、ミートパイを食べ。
トマトカップを食べる。
うまいうまい。
ピクルスで箸休めだね。
舌平目のムニエルを口に入れて、お腹いっぱい。
はあ、食べた食べた。
アダベルは何回行ったり来たりしているのか。
四回目かな?
肉ばっかり食べているなあ。
野菜も食べなさいよ。
食後のお茶をダルシーに入れて貰ってのんびりしていると、ホールの方から三人の男子生徒がやってきた。
目付きが堅く、思い詰めたような表情だ。
ポケットに手を突っ込んでいる。
チョコミントボンボンを一口かじる。
先頭の生徒の肩が下がった。
ポケットから銃を取り出した。
小走りになって、私の方へ来ている。
「マコトさまっ」
ダルシーが前に立ち塞がろうとしたので手で制する。
「しかしっ!」
私はチョコミントボンボンをかじりながら銃口を待つ。
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