第521話 パートナー交換で二曲目が始まる
音楽が終わり、ちょっと離れてお互いに礼。
はあ、楽しかったな。
「ありがとうエルマー、楽しかった」
「こちらこそ……」
さて、どうしよう、まだちょっと踊り足りない感じだな。
おっと、エルマーの元に綺麗なお嬢さん達がやってきてダンスをせがんでいるな。
「マコト、どうだい、一曲?」
カーチス兄ちゃんが寄って来た。
「え、いいけど、コイシちゃんとか、カトレアさんが先じゃないの」
「ま、まあ、そうなんだが、やっぱりマコトと先に踊りたいよ」
エルザさんの方を見たら、ニッコリ微笑んでうなずいた。
ふむ、本妻さんが良いならいいかな。
カーチス兄ちゃんは派閥を立ち上げる時の功労者だしな。
エルザさんは、ホールの隅に引っ込んでいった。
あの階段の横が聖女派閥のたまり場みたいになってるようだ。
コイシちゃんと、カトレアさんも引っ込んでるな。
カトレアさんは、ナゼールさんに説教されているようだ。
ケビン王子と、ロイドちゃんもパートナーチェンジするようだ。
人気のある人は何曲ぐらい踊るのかな。
ダンスパーティの最初の方はワルツで、中盤から輪舞とか、カップルダンス以外の曲が混ざるようだね。
階段の脇の黒板に曲順が書いてあるな。
最初の三曲はワルツみたいだね。
四曲目は輪舞曲だ。
輪舞はカップルダンスと違って、みんなで手を繋いで踊るやつ、フォークダンスみたいなものだから、初心者にも踊りやすそうだ。
「よしきた、踊ろう」
「ふふ、マコトらしい返事だ」
さて、二曲目もワルツ曲だ。
前奏が始まる。
さすがは王宮の楽団で、とても上手いなあ。
カーチス兄ちゃんと密着する。
お、体の感触がエルマーと違うね。
もっと堅い感じ。
筋肉がすげえからか。
エルマーは文系だからねえ。
ダンスは官能的だなあ。
ふわりと、カーチス兄ちゃんの匂いに包まれた感じ。
くるりくるりと回される。
ふわりとスカートが広がる。
「お、マコトは踊りやすいな」
「そうかい?」
「エルザも上手かったけど、マコトは羽のように軽い」
「それはよかった」
おおっと、命令さんとすれ違った。
ストライト隊のジェルマンと踊っていた。
にやけた顔がなんだかなあ。
意外にダンスが上手いのもムカつく。
まあ、気にしないで踊ろう。
しかし、カーチス兄ちゃんもなかなか上手い。
リードがはっきりしていて動きやすいぞ。
「ダンスが上手いねえ」
「辺境伯クラスになると、外交もしないといけないからな。みっちり仕込まれたぜ」
身分が高い男子はダンスも仕込まれるんだな。
運動神経が悪い高位貴族令息は結構大変だ。
いやあ、ダンスが上手い男子と踊るのは楽しい。
くるりくるりとホールの中心あたりで踊るぜ。
みんな注目していて嬉しい。
笑顔を振りまいてやれ。
カーチス兄ちゃんが優しい目で私を見ていた。
なんだよ、惚れんなよ、あんたにはエルザさんがいるだろ。
「マコトには礼を言っても言い切れないな」
「え、なんで、こっちこそ派閥を作る後押ししてくれて助かってるよ」
「そういうんじゃねえよ」
「エルザさんの事? 私が取りなさなくても、カーチスならきっと気づいたよ」
「いやあ、無理だ無理だ、あんなに剣の腕が立つとは夢にも思わなかった。仲直り出来て助かった」
「そうかい?」
ゲームでは、カーチス兄ちゃんはエルザさんの剣才が解らないまま、主人公との恋に邁進していく感じだったけどさ。
今回の私はカーチス兄ちゃんと恋をするつもりは無かったから、そのうち気がついたと思うよ。
たぶんだけどね。
ゲームじゃ無いからやり直しは無いしね。
現実にセーブもロードも無いのだ。
「俺の事じゃ無い、感謝してるのはカロリーヌの事だ」
「へ、なんで?」
「カロリーヌに笑顔を取り戻してくれて、ありがとうな」
「だからなんで?」
幼なじみなだけだろう?
なんで、カーチス兄ちゃんはそんなにカロルを気にするのじゃ。
「カロリーヌは昔、俺の婚約者だったんだ」
「へっ!」
おっと、あんまりびっくりしたんで動きが止まりそうになって、カーチス兄ちゃんに引っ張られた。
いかんいかん。
「本当は高等生活の間に俺がなんとかしたかったんだが、入学早々、お前と笑い合ってる姿を見てな、本当に嬉しかったんだ」
「婚約破棄したのか、カロルが乱暴されたから?」
「ちがう、向こうから断って来た。怒って抗議に行ったら、顔を見ると辛いからもう来ないでっていわれてな、俺はカロリーヌを助けられなかった自分が許せなくて、それで剣の修行を馬鹿みたいにやったんだ」
「それは……」
しょうがないだろ。
隣の領なんだしさ。
そうか、カロルに拒絶されたのか、それでか。
それで、私に派閥を作れって勧めたのか。
あれは、私を守るというよりも、カロルを守りたい気持ちが強かったんだろうね。
「カロリーヌは明るくなった、全部、お前とコウナゴのお陰だよ」
「まだ、コリンナちゃんをコウナゴって呼んでるのか」
「ああ、あいつも凄い女だしな。お前とコウナゴがいればカロリーヌは楽に息ができるだろう。だから、ありがとうなんだ」
「そうかー、でも、私からもありがとう、カーチスがいたお陰で色々助かってるし。これからもよろしくね」
「ああ、たぶんお前達とは一生の付き合いになるだろうよ」
「うん、そうだね」
そうかー、カーチス兄ちゃんとカロルは昔は婚約者だったのか。
なんだか色々と腑に落ちた感じがするよ。
カーチス兄ちゃんはカロルが好きだったんだろうな。
だから、エルザさんも遠ざけていた感じなのか。
なるほどなあ。
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