第515話 飛空艇でグラウンドへ降臨する
「出力上昇」
私はぐいっと出力レバーを上げる。
【出力上昇、蒼穹の覇者号テイクオフ】
いつものフワッとした感覚がして蒼穹の覇者号が少し浮いた。
目の前のゲートが次々と開いていく。
そろそろ第三グラウンドでの集合時間なので飛空艇を操縦中なのだ。
ドレスに船長帽をかぶって操縦席にすわっている。
カロルも、エルマーも、カーチス兄ちゃんも、コリンナちゃんも所定の席に付いているが、皆、晴れ着なのでメイン操縦室の雰囲気がおかしい。
【グラウンドまでは私が操縦いたしましょうか?】
「まあ、乗ってるからには操縦したいよ」
【了解いたしました】
他のみんなも操縦席の後ろで鈴なりになっているので、もっと雰囲気がおかしい。
微速前進で飛空艇を動かして、渓谷の岩棚まで移動させる。
岩棚に着いたら、そのまま垂直上昇して、反転して、前進。
第三グラウンドに着いたら着陸である。
もう、慣れたもんだね。
【蒼穹の覇者号、タッチダウン】
いつものずしんという振動が起こった。
後ろの連中が歓声を上げて拍手した。
というか、君たち部屋に帰りたまえよ。
「メインハッチを開けてください」
【了解しました】
「さあ、降りて第三グラウンドに行きますよ」
「「「「はーい」」」」
カロルが副操縦席で小さく手を振った。
「わたしはこのまま乗って、地下道で女子寮に戻るわ」
「そうか、ではまた夜にね。お料理持って来てあげるよ」
「わ、ありがとうっ。チョコミントボンボンを忘れないでね。ブランデーボンボンでもいいわよっ」
「了解了解。今、ブランデーボンボン、ちょっと持って行く?」
「これから錬金しなきゃだから、後でいいわ」
「わかった、またねー」
私は手をふってメイン操縦席を出た。
みんなでぞろぞろと船を下りる。
第三グラウンドへの道を歩いていた晴れ着の生徒たちがぎょっとした顔をしているな。
わっはっは。
「まさか、飛空艇で乗り付けるとは思っていなかったろうね」
「でも、よく考えたら、飛空艇で王城に着陸したら良かったんじゃないか?」
「いや、学校行事の決まりは守らないと」
「マコトは変な所が律儀だよな」
お針子さん三人が、前に出てきた。
「それでは私たちはこれで失礼しますんで」
「楽しいお仕事でした」
「また秋も呼んでくだっせ」
「ありがとうね。王都の観光を楽しんでね」
「はいっ、聖女さまも頑張ってくださいまし」
「またお会いしまっしょ」
「では、これで」
お針子さんたちは正門の方へ歩いていった。
マーラー領のタウンハウスに帰るんだな。
私たちは着陸グラウンドから出て、第三グラウンドを目指す。
【では、格納庫へ戻ります】
「おねがいしますね、エイダさん」
【また、何かありましたらお呼び下さい】
ファンファンと独特の音を立てて蒼穹の覇者号は空に舞い上がった。
やっぱ格好いいなあ。
「くそ、ヒールが高くて歩きにくい」
「達人はヒールでも斬り合いが出来るようにきたえるものですよ」
「秋までに練習いたします、エルザさま」
やめておけ、カトレアさんや。
とはいえ、みんなハイヒールで道を歩くのでちょっとふらふらしているな。
転んでドレスを汚すんじゃありませんよ。
本来の夜会では、基本的に馬車で乗り付けるのだけど、年に三回のダンスパーティは学校行事だから生徒が多くて馬車禁止なのよ。
王城の馬車溜まりが渋滞するからね。
さて、第三グラウンドに着いた。
みんなそれぞれのお相手と王城入りすることになる。
んで、待ち合わせなんで、相手を探す生徒が沢山いる。
「ジュリエットー!!」
「ロイドさまーー!!」
ロイド王子とジュリエットさんは感極まったように抱き合った。
王子の礼服は黒を基調にしてあって格好いいな。
さあ、ここから新入生歓迎ダンスパーティは始まっているのだ。
私のエスコートはエルマーなので探すまでもないね。
ペンティア部のカーター部長がマリリンを見つけてやってきた。
なかなかイカス礼服姿だな。
「わあ、マリリン、なんて素敵なんだっ」
「まあ、カーターさまったら嫌だわ」
マリリンの頬がぽっと赤くなった。
メリッサさんのお相手の社交デブのセシルくんもやってきた。
意外に赤い礼服でかっちょいいな。
隣でのたのたしていた時とは大違いだ。
「今夜はよろしくおねがいしますね、メリッサさま」
「は、はひ、よろしくおねがいします、セシルさま」
あはは、メリッサさんが赤くなってる。
雰囲気に飲まれやすいなあ。
なんかちょっと可愛い感じの水色のドレスの子がやってきおった。
「ライアン、お待たせ、すっごいつやつやね、どうしたの?」
「ちょっとした聖女派閥のオマケでね。領袖、紹介いたします、僕の婚約者のキトリーです」
「お初にお目にかかります、シャルチエ子爵家の三女、キトリーと申します」
「これはご丁寧に、マコトです。キンボール男爵家になります」
「噂の聖女さまね。ため口でかまわないかしら、地位はこちらが上で、学年も上だし」
「かまいませんよ、キトリー先輩」
「かまいます。キトリーさま、分際をわきまえていただけませんかしら」
「ちょ、ヒルダさんっ」
うっは、ヒルダさんが猫背になって戦闘態勢だ。
「そ、そうなのですか、ヒルダさま……」
「はい、マコト様は身分は低くても派閥の領袖なのです。他派閥に軽く見られては思わぬもめごとが起きかねません」
「いいんだって、ヒルダさん。先輩だしっ」
「いえ、シャルチエ子爵家は王家派ですので他派閥ですし」
キトリー先輩は頭を私に下げた。
「まことに僭越な真似をしてしまいました、お許し下さいキンボールさま」
「そんな、良いのに、ライアンの婚約者さんだし」
彼女はふんわりと微笑んだ。
「おやさしいのですね。でも、貴族のしきたりは厳守いたしませんと、いらぬ混乱をまねきますわ。ヒルダさま、ご注意ありがとうございました。助かりましたわ」
「こちらも差し出がましい口を申しました、お気分を害されましたら謝罪いたします」
「すばらしい、忠告でしたわ。あやうく恥をかくところでした、感謝こそすれ、気持ちのわだかまりを抱くなぞ、恐れ多い事でございますわ」
というか、貴族の礼儀作法めんどくせーっ!!
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