第497話 こんどこそ礼服を調整するつもりが
ライアンとオスカーの調整を見ているのだが、わりと暇だな。
お風呂入ってくれば良かったかな。
朝にやって貰ってもいいのだが、お針子さんは今晩遅そうだしね。
調整はしておいた方が良いと思うな。
「お針子さんたち、お食事は?」
「夕方に食堂で済ましましたよお」
「美味しい羊肉でしたあ」
「臭みが一つも無いでしたね」
早めに下級貴族食を食べたのね。
何よりです。
お、そうだ。
「ちょっと戻ってくるね、またくるよ」
「はーい」
私は集会室を出て、女子寮に向かった。
やっぱ外は寒いなあ。
人の居ない外周路をぱたぱたと歩いて女子寮に戻る。
そのまま食堂の勝手口を開けた。
「おや、どうしたい? マコト」
メレーさんとクララがいてチョコボンボンを作っていた。
「うわあ、いっぱい作ったねえ」
「みんな食べたがると思ってね、あと王宮から届けてくれって言われたよ」
「ほうほう」
「なんだか王様と王妃さまにヒールのボンボンを二箱食べられたってジェラルドさまが愚痴っていた」
あはは。
王様と王妃さまだと逆らい難いもんね。
「ヒールポーションも追加だって」
「まだ、残ってる? ヒールポーション」
「まだまだ、半分あるし大丈夫だよ」
酔い覚まし用のポーションは冷凍しておいた方が良いかな?
いやでもあんまり持たないしなあ。
「そいで、マコトの用は?」
「あ、チョコボンボンを十五個ください」
「あんたもかい。ジェラルドさんも、ケビン王子も持って行ったよ」
「お金は取った?」
「取った取った、王子さまと宰相の息子なのに律儀に勝手口前で交渉してくれてね、あの人たちは横暴でなくて良いね」
メレーさんが固まったチョコボンボンをお皿に出してくれた。
「なんか、五個ぐらい入る箱はないかな?」
「持ち帰り用の折箱に入れるかい?」
たまにお部屋に持って帰って食べたいという生徒の為に、薄い木で出来た折箱があるのよね。
クララが戸棚から各種サイズの折箱を出してきてくれた。
おっと、カロルへのお弁当用に大きめのも三個ほど貰おう。
「誰かにあげるのかい?」
「うん、ドレスの調整をしてくれているお針子さんにね」
「そりゃ良いね」
私は折箱にチョコボンボンを入れて蓋を閉めてリボンで縛った。
「ありがとう、おいくらかな?」
クララとメレーさんは顔を見あわせた。
「このお菓子の発案者特権で只でいいよ」
「悪いし」
「「いやいやいや」」
二人してブンブンと手を横に振った。
「今度また、アイデアくれたら良いよ」
「そうそう、マコトは食堂に凄い貢献してくれてるから、大いばりで役得しなさいよ」
「そーお?」
なんか悪い感じがするが、二人がそこまで言うなら好意に甘えよう。
「そういや、ボンボンの中に酒を入れるの試した?」
メレーさんが目を見開いた。
クララも口を開けた。
「そっか、蒸留酒入りのボンボンあるもんな」
「チョコだとブランデーかな、わ、大人っぽいのが作れるね」
「くくく、ちょっと作ってみようぜ」
「いいねえ、メレーさん」
「酔っ払っても、ヒールボンボンあるしな」
「くっくっく、あんたも悪よのう」
「ほどほどにね、あんたら」
「わあってるわあってる」
クララとメレーさんは悪そうに笑った。
「そいじゃ、私はもどるね」
「すぐ出来るから、お酒ボンボン食べていかない?」
「明日、朝にでもちょうだいよ」
「解った、作っておくよ。これすげえ売れそうなんだが、新入生歓迎ダンスパーティに出すか?」
「いやあ、どうかねえ、貴族の父兄がバクバク食べそうだ」
「ちょっと実験で出してみるか、チョコだから色が変えられないのがなあ」
「青いクリームで注意喚起するかね」
「頑張ってね」
メレーさんはお菓子馬鹿だなあ。
私はカロル用の折箱とチョコボンボン箱を収納袋にしまって調理場を後にした。
女子寮から外にでて、集会棟を目指す。
空に半月が出ていて綺麗だな。
集会室に戻ると、お針子さんとヒルダさんしか居なかった。
「ただいま、ライアンとオスカーは終わったの?」
「終わりましたよ」
「あとは領袖の礼服と、ミーシャの破廉恥メイド服だけですね」
「ヒルダさんも来たんだ」
「そろそろこの子たちをタウンハウスに送りませんと」
「わあ、ごめんねえ」
「いえいえ、そんなそんな聖女さま」
「すごく良くしてもらってますし、凄いデザインの服を触るのは楽しいですし」
「明日本番なのでがんばらないと」
お針子さんたちも良い職人さんだな。
「はいこれ、お菓子、食べてね~」
私はお針子さんたちにチョコボンボンを渡した。
「わあっ、ありがとうございます」
「ああ、良い匂い、食べてもいいんですか?」
「うん、頑張ってくれたから、ご褒美よ」
ヒルダさん、お針子さんのチョコボンボンをうらやましそうに見るんじゃありません。
「じゃあ、礼服に着替えるから、食べててね」
「はいっ、うっわー、甘い~~」
「すーすーして甘い~~」
「あー、これを領に持って帰りたい~~」
「帰る日が決まったら、持って帰れるように頼んであげるよ」
「ほんとですかっ、ほんとですかっ」
「うわーい、嬉しいっ」
「おかあさんにも食べさせないと」
うんうん、やっぱり女の子は甘い物よね。
「領袖、私も欲しいです」
「ヒルダさんは明日、ダンパで食べなさい」
「どこかで常時買えるようにするべきですね」
「そんなに難しいお菓子じゃないから、新入生歓迎ダンスパーティが終わったら誰かが作るんじゃないかな?」
この世界は魔法陣の特許はあっても、お菓子の特許は無いからな。
たぶん、模倣されると思う。
ボンボンはお菓子としてあるしね。
そんな事を考えながら、私はダルシーに手伝って貰って礼服を着込んだ。
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